難薬剤耐性且つ多機能を指向した抗エイズ薬の開発及び抗CCR5-CXCR4キメラ環状テトラデカペプチド抗体による感染防御

文献情報

文献番号
200001042A
報告書区分
総括
研究課題名
難薬剤耐性且つ多機能を指向した抗エイズ薬の開発及び抗CCR5-CXCR4キメラ環状テトラデカペプチド抗体による感染防御
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 英夫(日水製薬株式会社研究本部)
研究分担者(所属機関)
  • 庄司省三(熊本大学薬学部)
  • 向井鐐三郎(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
17,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
【1】難薬剤耐性且つ多機能Allo-Holo hybrid Drugの開発および抗HIV効果
Allo-Holo hybrid drugとはHolo drugのprotodrugにある種の官能基を導入することにより、本来の機能に立体構造的に新たな機能をallostericに導入し、本来の機能と新たな機能を兼ね備えた薬剤である.ここではo,o'-Bismyristoyl thiamine disulfide (BMT)がAllo-Holo hybrid drugで、反応性に富むdisulfide結合を有する。HIV-1 Tat及び細胞の転写因子NF-kBのチオール基をターゲットとし、ウイルスの爆発的増殖の阻止を目標としている.まずはじめにin vitroで抗HIV活性をしらべたのち、小動物に対する安全性試験を行い、さらにエイズ発症動物モデルを用い、抗SIV効果を調べる。
【2】BMTをリード化合物としてさらに有効な化合物の創製
BMTは種々のHIV-1に対し高い抗HIV活性を有することが明確になったが、BMTをリード化合物として、より最適化した化合物をスーパーコンピューターで求め、より有効な化合物を創製し、それらの抗HIV効果を測定する。
【3】HIV-1 coreceptor (CXCR4, CCR5)由来のキメラ環状ドデカペプチドに基づくワクチンの開発
従来のワクチンの基本概念に基づく、エイズワクチンの開発の困難さが指摘されている。そこで申請者等は、ワクチンの基本的な理論を逸脱し、生体の守りを固め、ウイルス侵入を防止する手段を次のように考えた。HIV-1の侵入に必須なHIV-1のcoreceptor (CXCR4, CCR5)の第2細胞外ドメインの一部を構成する特異的立体特殊構造に注目し、この特殊構造をCXCR4およびCCR5由来の各々5アミノ酸残基およびスペーサーアームジペプチドからなるキメラ環状ドデカペプチドとして再構築し、本環状ペプチドに対する単クローン抗体を作出し、HIVの感染防止活性を測定する。HIV-1 coreceptor由来のキメラ環状ドデカペプチドに基づくワクチン開発のための基礎研究を行う。
研究方法
基本的な考え及び研究の進め方 HIV-1 Tatのチオール基はZn-フィンガーを形成し、核酸への結合に、またNF-kBのチオール基も核酸との結合に必須である.この両因子のチオール基に結合する薬剤の開発を試み、新たに創製したBMTが1剤でHIV-1 Tat及びNF-kBの両作用を抑え、抗HIV活性を示すことを見い出した.
BMTの性質とBMTの抗HIV活性測定 (1)BMTの性質 BMTは常温ではペースト状で、通常1 ~ 10 %硬化ヒマシ油(60)を含むリン酸緩衝液(PBS(-)、 pH 7.4)に適当な濃度に、懸濁して用いる.(2)BMTのHIV-1感染細胞及びSimian immunodeficiency virus (SIV)感染細胞に対する作用 各種X4ウイルス(T-細胞指向性)、R5ウイルス(マクロファージ指向性)、R5X4ウイルス(両細胞指向性)、HIV-1感受性細胞:CEM、MT-4、ヒト健康成人末梢血リンパ球(PBMC);SIV感受性細胞:Hut78、CEMx174を用いた.HIV-1持続産生細胞CEM/LAV-1、HIV-1潜伏感染細胞ACH-2、SIVmac251感染細胞Hut78/SIVmac251、CEMx174/SIVmac251を用いた.
各種細胞(2 x 105 cells/ml、10 ml)に各種薬剤存在下、および非存在下120時間培養し、24時間毎にトリパンブルー染色法により生細胞・死細胞数を計測し、細胞毒性を調べ、抗HIV効果は、ウイルスによる細胞変性効果の1つである巨細胞形成の有無により判定し、Behrens-K較ber法により50 % tissue culture infectious dose(TCID50/ml)を算出して求めた.また、培養上清中のHIV-1 p24及びSIV p27抗原定量キットおよびMAGI-CCR5(あるいはMAGIC-5)法を用いて行った。小動物に対する安全性試験は、マウス、ラットを用いて行い、SIV感染カニクイサル(ARC期)を用いて抗SIV効果を調べた。(3)キメラ環状ドデカペプチドに基づくワクチン開発 HIV-1 coreceptor (CXCR4, CCR5)の全一次構造から立体構造を推定し、第2細胞外ループ (ECL-2)膜貫通ドメインから細胞外の第1のアミノ酸残基、糖鎖修飾を受けたAsn (CXCR4)あるいはArg (CCR5)残基から11番目のECL-1とSS結合を形成しているCys残基の領域(undecapeptidyl loop, UPL)に注目した。UPLの構造解析の結果、UPLは特異的立体特殊構造であり、HIV-1侵入に関与すると推定され、 CXCR4のアミノ酸配列EADDRおよびCCR5のSQKEGの5残基にGly-Aspのスぺーサージペプチドを挿入してCXCR4とCCR5由来のキメラドデカペプチド を環状化することによって、この特異的立体特殊構造を再構築した。本抗原をMAPおよびMulti Pin樹脂に結合させ、前者を免疫抗原、後者をassay抗原とし、単クローン抗体を作出した。単クローン抗体のHIV-1感染防止実験はMAGIC-5法を用いて行った。
結果と考察
BMTの抗HIV活性を調べた結果、in vitroにおいてHIV-1実験室株、臨床単離株、及び多剤耐性株に有効であることがわかった。BMTの皮下投与による小動物に対する安全性試験、及び有効血中濃度試験を行った結果、マウスに対するLD50は、630 mg/kg、ラットの腹腔投与後血中、及びリンパ管中濃度はそれぞれ~2及び~6 μMで、投与後、2~4時間後に、最大血中・リンパ管濃度に達し、血中よりもリンパ管に速やかに移行することがわかった。一方経口投与による血液濃度をラジオアイソトープ標識BMTを用いて調べた結果、投与後15分後から血液中に有意の放射活性が確認された。
ARC期のSIV感染アカゲサル2頭に2週間BMTを皮下投与(32 mg/ml)したところ、いずれのサルにおいても、CD4、CD8リンパ球の上昇が見られ、血中SIV量の低下、感染リンパ球数の低下が見られた。しかしながら、感染初期における、BMTの長期(6週間)連続投与を行ったところ、3週間目から血中ウイルス量が次第に上昇し、感染6週間目には非投与群と同程度まで血中ウイルス量が上昇した。従って、BMTの長期連続投与時には本薬物が代謝され効力を失う可能性が示唆された。この問題を解決するために本化合物をリード化合物として最適化された化合物をコンピューター上で求め、実際に化学合成を行い、1~2の化合物がBMTの百数拾倍有効であることがわかり、現在この化合物についてもさらに研究を続けている。
HIV-1新規感染者は毎年560~580万人で増加の一途をたどている。HIV-1初感染を防止する概要がために、従来のワクチンの基本概念に基づいて、ワクチン開発が行われているが、不幸にも成功に至っていない。エイズワクチンの困難さが再認識され、開発断念、絶望感さえ漂っている。そこで申請者等は新たにワクチンの基本概念を逸脱し、生体の守りを固め、ウイルス侵入を防止するためのデフェンスワクチンを提案している。HIV-1が侵入に利用するケモカインレセプターのうち、CCR5およびCXCR4の特殊立体構造を再構築したキメラ環状ドデカペプチオド抗原がHIV-1侵入を防止する抗体を産生することをはじめて明らかにした。HIV-1侵入防止ワクチン開発のための基礎研究が続行中である。
結論
ウイルス転写因子及び細胞性転写因子阻害剤として開発されたBMTは in vitro でSIVに対しても著しい効果を示した。ARC期のSIV感染アカゲザル2頭に2週間BMTを皮下投与した結果、いずれのサルにおいてもCD4、CD8リンパ球の上昇がみられ、血中 SIV量の低下や感染リンパ球の低下がみられた。しかしながら、SIV感染初期サルにおいて、その効果は、ARC期のSIV感染アカゲサルに対するそれより弱いことが認められた。現在BMTより百数拾倍活性が高く、生体で代謝されにくい新規合成化合物の抗ウイルス作用をSIV感染初期サルにおいて検討している。今回新たに提案したCCR5-CXCR4キメラ環状ドデカペプチドに対する単クローン抗体は、種々に変異したHIV-1感染をほぼ完全に防止したことから、さらに安全性等を調べ、従来のワクチンの概念・考えを超越した新しい概念のワクチンとして期待され、エイズ克服の研究においてBreakthroughとなりうる。

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