細胞性因子を標的にした抗HIV薬の開発研究

文献情報

文献番号
200001039A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞性因子を標的にした抗HIV薬の開発研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
金岡 昌治(住友製薬株式会社研究本部ゲノム科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 西島正弘(国立感染症研究所細胞化学部)
  • 小林信之(長崎大学薬学部医療薬剤学講座)
  • 田沼靖一(東京理科大学薬学部生化学教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ウイルス由来の酵素を標的とする既存抗HIV薬は、薬剤耐性株の出現、多剤併用による重篤な副作用および治療費の高騰といった問題を抱えている。そこで宿主細胞性因子を標的とした、耐性株の出現しにくい新規抗HIV剤の開発を目的に、以下の研究を実施する。(1) gp160からgp120とgp41へのプロセシングの阻止がHIVの感染性を著しく低下させることが報告されている。従って、このプロセシングに関与するプロテアーゼを阻止することにより、HIVの宿主細胞への結合、侵入、あるいは感染細胞と被感染細胞の融合を阻止できると考えられる。本研究では、この外被糖蛋白質のプロセシングに関与するプロテアーゼの同定を行い、その阻害剤を探索するための基盤づくりを目指す。(2) HIVの複製は宿主染色体に挿入されたHIVプロウイルス5'領域に存在するLTR部位に様々な宿主因子およびHIV tat遺伝子産物が作用して行われる。すなわちHIV-LTR領域へのこれら因子の作用がHIV複製効率を規定している。そこでHIV-LTR領域に作用しHIV複製を活性化する因子を同定、機能を解析し、その阻害剤探索の基盤を作る。これらはHIV複製に必須の過程であり、その阻害はHIV複製をほぼ完全に抑制することができる。しかしいずれも未同定なため、これら宿主側因子を標的とした抗HIV 薬の開発はほとんど行われておらず、本研究が成功すれば,耐性株が出現しにくく従来にない独創的新薬に結びつくことが期待される。
研究方法
(1) HIV外被糖蛋白質プロセシングプロテアーゼの候補として、最近報告された2種の膜結合型アスパルティックプロテアーゼ(Asp1、Asp2)に着目し、まずこれらの遺伝子cDNAをクローニングした。次いで種々の細胞でgp160とAsp1またはAsp2を共発現し、gp160プロセシングへの影響を調べた。(2) HIV-LTR URE領域結合蛋白を同定するため、ヒトT細胞株MOLT-4から核抽出液を調整し、放射標識合成UREオリゴヌクレオチドに対する蛋白の特異的結合活性をゲルシフト法により検出し、この活性を指標にURE結合蛋白の精製を行なった。(3) HIV-LTRに作用する細胞内蛋白性因子の同定および作用領域・機能解析のため、MMTVプロモーター及びHIV-LTRのデリーションシリーズの作製を行い、これを用いてクロラムフェニコ-ルアセチルトランスフェラーゼ(CAT)レポーターベクターの構築を行った。当該レポーターベクターをそれぞれマウス繊維芽細胞のL929細胞、及びヒトT細胞白血病細胞であるJurkat細胞に一過性に導入し、それぞれホルボールエステル、及びデキサメサゾンで発現誘導を行った。細胞を回収し細胞抽出液のCAT活性を測定し、それを基にMMTVプロモーター及びHIV-LTRのプロモーター活性の評価を行った。得られたMMTVプロモーター及びHIV-LTR共通配列をプローブとして用い、cDNAライブラリーはラット脾臓λgt11cDNAライブラリーを用い、サウスウエスタン発現スクリーニングを行った。
結果と考察
(1)新規にクローニングが報告された2種のアスパルティックプロテアーゼ(Asp1,Asp2)に着目し、そのgp160のプロセシング能について検討したが、これらのプロテアーゼがgp160のプロセシングに積極的に関与していることを示唆する結果は得られなかった。従ってAsp1或いはAsp2がgp160のプロセシングプロテアーゼである可能性は低いと考えられる。(2)MOLT-4細胞核抽出液には少なくとも活性の強いUpper bandと活性の弱いLower bandの2つのURE結合活性が検出される。本研究では細胞株に共通に見られるUpper Bandの精製を進めた。精製方法の改良を試みた結果、核抽出液に比べ
10,000倍の比活性の上昇が得られた。しかし得られた標品をSDS-PAGEにより解析すると複数のバンドが検出された。Superdex200によるゲルろ過カラムでの解析からURE結合活性は260 KD付近に活性がある極めて大きな分子量をもっていることから、複数の蛋白質の複合体である可能性が極めて高いと思われる。現在SDS-ポリアクリルアミド電気泳動で検出される複数のバンドが260 KDのURE結合蛋白の構成成分であると想定して各バンドの遺伝子クローニングを準備している。(3)HIVの転写がMMTVと同様にタンニン酸によって抑制されることを確認し、その抑制エレメントとしてACTGモチーフの存在を明確にした。HIV-LTR中のACTGモチーフはHIVの転写を負に制御するエレメントであると思われる。また、このエレメントに結合するタンパクとして同定されたSμbp-2は、まだその機能は不明であるがその生理的役割としてプロウイルスの転写制御に関与していることが考えられる。
結論
(1) 新規にクローニングが報告された2種のアスパルティックプロテアーゼ(Asp1,Asp2)に着目し、そのgp160のプロセシング能について検討したが、これらのプロテアーゼがgp160のプロセシングに積極的に関与していることを示唆する結果は得られなかった。(2) MOLT-4細胞核抽出液からURE結合蛋白の精製を進め、比活性で10,000倍の上昇が得られた。ゲルろ過による解析から、このURE結合因子は複数の蛋白質の複合体と推定された。(3) HIVの転写がMMTVと同様にタンニン酸によって抑制されることを確認し、その抑制エレメントとしてACTGモチーフの存在を明確にした。さらに、このエレメントに結合する転写因子の1つとしてSμbp-2を同定した。

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