エイズ医薬品候補物質のスクリーニング研究

文献情報

文献番号
200001035A
報告書区分
総括
研究課題名
エイズ医薬品候補物質のスクリーニング研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
棚元 憲一(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 田村正秀(北海道立衛生研究所)
  • 前田知穂(京都府保健環境研究所)
  • 関根大正(東京都立衛生研究所)
  • 益川邦彦(神奈川県衛生研究所)
  • 鈴木康元(愛知県衛生研究所)
  • 大竹徹(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 秋吉京子(神戸市環境保健研究所)
  • 小野哲郎(大分県環境研究センター)
  • 口有三(横浜市衛生研究所)
  • 藤元博(福岡県保健環境研究所)
  • 島廣治(東京大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在までに幾つかのエイズウイルスに対する医薬品が開発されてきたが、その数は限定されており、かつこれらの効力や副作用にも問題が多いなど、未だに決定的な薬剤は得られていない。わが国の医薬品メーカーの新薬開発能力は優れたものがあり、多くの潜在的な抗エイズウイルス薬の存在の可能性がある一方、日本国内ではエイズ患者数が少ないことから企業レベルでの採算の問題もあって、エイズ医薬品開発は困難な状況にある。従ってこのような研究は国、公共機関がリードして行われなければならない。本研究では、企業・大学等から提供される合成化学物質や生薬抽出物について、国立医薬品食品衛生研究所、東京大学医学部及び10地方衛生研究所から成る研究班で、エイズウイルス増殖抑制を指標にして、産学官の力を結集してスクリーニング研究を行うものである。併せて、より効率的でかつ迅速なスクリーニング法の開発研究や、効果が認められた化合物についてその詳細な作用メカニズムの検討、臨床分離株への応用等の研究を発展させる。なお、特許などの関係で、詳細な研究を公表することは参加企業側の要請とヒューマンサイエンス振興財団との話し合いにより、さし控えることになっている。このため、本研究成果の発表についても、抗HIV活性陽性物質の化学名は言うに及ばず、サンプル提出企業名も伏せてある。そのような経緯から、きわめて限定された結論のみを紹介することになる。
研究方法
各年度ごとに、ほぼ以下に箇条書きに従った研究方法により、エイズ医薬品候補物質のスクリーニング研究をなっている。(1) 参加企業がすでに合成している、もしくは、左記の期間に合成した医薬品の中で、エイズ医薬品候補として有望と思われるものを各社で選考する。これら医薬品の特性を調べた後、希望する活性測定条件を記して、原則として1件につき2サンプルが国立医薬品食品衛生研究所に送付される(希少サンプルの場合は1サンプルでも可)。(2) 班会議を開催し、牛島教授の指導の下に各10地研エイズウイルス研究担当者のためのウイルス取り扱い法と、スクリーニングに関する討論会を行い、技術と実験方法の統一を計る。(3) 国立医薬品食品衛生研究所に送付された化学物質等は集結後、通し番号をうつ。製品名は伏せたまま、等分されそれぞれ10地方衛研のいずれかに送付、抗HIV活性等がテストされる。陽性対照としてはAZT(3'-azido-3'-deoxythymidine)やデキストラン硫酸を使用する。(4) HIVウイルスを使用したエイズ医薬品候補物質のスクリーニング研究を行う。被検サンプル数のうち判定の難しいものは牛島研で重複してテストし、総合判定を行う。抗HIV活性は、MT-4細胞のHIV感染による細胞障害性の抑制を指標としたマイクロプレート法を用いて判定を行い、これで活性が認められたサンプルに関しては、生細胞数測定法や巨細胞形成抑制法により、抗HIV活性の確認を行う。また被検物質によっては、逆転写酵素活性阻害も試験する。試験成績は国立医薬品食品衛生研究所を経て、ヒューマンサイエンス振興財団から提出企業に報告される。各地方衛研で使用される細胞やウイルスの分与やチェックは定期的に牛島研でなされる。(5) 地方衛研で得られた実験結果は、国立医薬品食品衛生研究所で集計され、牛島研のデータと共
に、製品名をマスクした形で、各研究機関の担当者の意見を聞く。有望と考えられたものや、結果があいまいなものは、再度ウイルス試験が担当研究機関や牛島研で行われ、最終判定が国立医薬品食品衛生研究所で行われた班会議でなされる。また牛島研ではアンケート調査や文献調査をもとに、新しいスクリーニング法の導入を検討している。
結果と考察
本年度は企業5社、及び2大学から合計385サンプルのスクリーニング申し込みがあった。これらのサンプルをマイクロプレート法で抗エイズウイルス活性のスクリーニングを行った結果、表1に示すように5サンプルにおいて抑制活性が認められた。そのうち比較的活性が強い3検体はいずれも核酸誘導体、及び不飽和糖であった。これらの陽性サンプルについて、Molt-4細胞を用いた巨細胞形成抑制活性を調べたところ、いずれも抑制効果を示さなかった。新しいエイズ医薬品スクリーニング法の開発の一環として、感染ウイルスを用いずに細胞側のCD4分子とcoreceptorを発現するHelaT4細胞とウイルス側のgp120分子を発現するHelaKS386細胞を用いた巨細胞形成抑制試験による疑似感染モデルを作成し、T-tropic HIV感染に対する抗ウイルス薬スクリーニングにこの方法が有用であることを見出した。また、サイトカイン産生増強によりAIDS発症を抑制する薬剤のスクリーニング法の開発を行い、成果を得た。これらの新方法は、実用性とより広範なスクリーニングという意味において非常に有用な方法として期待される。本研究はヒューマンサイエンス振興財団のエイズ医薬品開発研究が開始された当初から、主要な研究の一つとして現在まで継続されてきた。これまですでに3,000に及ぶ試料についてスクリーニング研究が行われている。その中には約50種の候補物質が見出され、さらにそれらの作用について詳細な検討が行われてきた。日本国内ではエイズ患者数自体少ないことから企業レベルでは採算がとれないこともあって、エイズ医薬品開発は困難な状況にあると思われる。このような研究は国、公共機関がリードすべきであることは言うでもない。本研究のように国立の研究機関、及び地方衛研が協力してエイズ医薬品のスクリーニングを行っている例は諸外国ではない。これは日本における地方衛研のレベルの高さを証明するものであり、本研究のベースはそこにあると思われる。本研究は、特許などの関係で詳細な内容を公表することは、参加企業・研究機関側の要請とヒューマンサイエンス振興財団との話し合いにより差し控えることとなっている。このため、本研究成果の発表についても、きわめて限定された結論のみしか紹介できない。しかし、国内のエイズ患者数が少ないにもかかわらず、例年多くの企業、研究機関から多数のスクリーニングに応募があることは、エイズ医薬品のスクリーニング研究に対する関心の高さと、本研究の必要性を示しているものと思われる。
結論
企業5社、及び2大学から寄せられた合計385サンプルについて抗HIV活性をスクリーニングした。活性測定はマイクロプレート法を主とし、巨細胞形成抑制法などを確認のために使用した。これらのうち、5サンプルにおいてマイクロプレート法で活性が認められたが、いずれも巨細胞形成抑制法で顕著な活性を示さなかった。新スクリーニング方法の開発研究として、巨細胞形成の細胞融合をリポーターアッセイによって測定する方法、およびサイトカイン産生増強によりAIDS発症を抑制する薬剤のスクリーニング法の開発を行い、成果を得た。

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