生分解性を有する新規な化学合成ハイドロゲルの開発と組織再建スキャホールドへの応用

文献情報

文献番号
200001032A
報告書区分
総括
研究課題名
生分解性を有する新規な化学合成ハイドロゲルの開発と組織再建スキャホールドへの応用
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山岡 哲二
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
組織再生術においては、ポリ乳酸やポリグリコール酸をスキャホールドとして用いて検討が始められた後、様々な組織親和性材料が模索された中で、ハイドロゲルの高い効果が確認されてきた。特に肝臓などの軟組織の再生には柔軟な性質を持つハイドロゲルが最適であるが、コラーゲンなどの生体由来物質は未知の感染等が懸念され実用化は困難である。そこで、従来から利用されているポリ乳酸をベースにした生分解性を有する化学合成ハイドロゲルスキャホールドの開発を行う。これまでのポリ乳酸スキャホールドの欠点は、結晶性が高く柔軟性に乏しい、疎水性が高く軟組織との親和性に劣る、表面修飾が困難であり機能性の付与が困難などである。従って、標的臓器に適合した新たなスキャホールド材料の開発が不可欠である。本研究の目的は特に肝臓を中心にした機能性軟組織の再生を目指して、最適化されたスキャホールドを開発し、その組織再生誘導能について検討することである。申請者らが開発した新規技術に基づいて柔軟性、最適な生分解性速度、細胞との親和性、組織再生亢進能を有するスキャホールドを合成し、どの様な柔軟性、含水性、分解特性、形状、表面特性を有する材料が組織再生に最適かを検討することにより、高性能のスキャホールド材料の分子設計が可能となる。
研究方法
ポリ乳酸を主成分とし親水成分としてポリエーテルを有するマルチブロック共重合体の開発を検討した。 ポリエーテル組成比を上昇させることにより柔軟で組織適合性にも優れるハイドロゲル体が形成されることが確認されたが、これら共重合体の最大の問題点は、その力学的強度が低いことである。一つの解決策は、更なる高分子量化、および、既に実用化されているポリグリコール酸などとの複合化である。本研究では、従来のABAブロックタイプではなく、ABAB・・・マルチブロック共重合体を合成することによる高分子量化を図った。これらの共重合体を組織再建用スキャホールドとして適した形状(繊維状やフィルム状)に成形加工、得られた生分解性繊維およびフィルムの力学的強度は引っ張り試験器を用いた定法により評価した。また、リン酸緩衝溶液中での分解速度を、分子料低下および力学強度変化により検討した。
軟組織適合性の向上を目指して、材料上でのハイドロキシアパタイト相の形成が細胞増殖に及ぼす効果について検討した。マルチブロック共重合体とハイドロキシアパタイトとの複合化にはカルシウムおよびリンを含む水溶液に材料を交互に浸漬する「交互浸漬法」を採用した。本手法は簡便である上に常圧常温短期間というマイルドな条件でハイドロキシアパタイトを形成させることができる。材料表面に生成したハイドロキシアパタイトの様子は、走査型電子顕微鏡により、また、材料内部へのハイドロキシアパタイトの沈着はEPMAにより評価した。材料内部でのハイドロキシアパタイト相の生成は、軟組織接着性を向上させるのみではなく、ゲル内への軟組織の浸潤も誘導すると考えられる。
調整した共重合体成型上でのIn vitro 細胞増殖実験を行い、細胞接着性等について検討した。しかしながら、現在の技術ではin vitroでの機能細胞の十分な分化増殖を誘導することは困難である。そこで、これまでに調整した材料を、細胞を播種することなくラット皮下にポケット法により埋入し、分解速度の検討、一般的な組織切片観察による炎症反応の検討、さらに、周囲組織からの新生組織の侵入の程度について検討した。直接スキャホールドを埋入することにより自己組織増殖の足場とする場合には積極的に外部からの組織侵入を促す必要があるためスキャホールドの表面化学的性質・物理的特性、ならびに形状が及ぼす影響を詳細に検討する。
結果と考察
得られたマルチブロック共重合体の分子量並びに分子量分布は、何れの場合にも約80,000、また、分子量分布(Mw / Mn)は1.8であった。本手法より合成されたマルチブロック共重合体は、その分子量が高く、そのフィルム化、繊維化も容易であった。引っ張り強度およびヤング率はPN組成に大きく依存した。PNを10%程度含む共重合体では溶融紡糸後に十分再延伸した繊維で市販の生分解性外科用縫合糸と同程度の引っ張り強度を示し、約2倍のヤング率を示した。また、DSC測定の結果、共重合体中では、PLLA成分とポリエーテル成分は相分離構造をとっている事が明らかとなった。
共重合体フィルム上では細胞はスフェロイド様の構造を呈し、PN成分がフィルム表面にマイグレートし、含水相としてほぼ全体を覆っていることが示唆された。In vivoおよびin vitroでの分解速度はPN組成の上昇とともに上昇し、1週間から3ヶ月の間でコントロール可能であった。交互浸漬法による共重合体へのHApの析出量はサイクル数ともに増加し、フィルム全体が白濁した。その析出量は33%のPNを含む共重合体(LN(m)-33)でもっとも高く、この原因はフィルム内部へまでHApの析出が起こるためであることが明らかとなった。
調製したPLLA/PNマルチブロック共重合体/HAp複合フィルムをラット皮下に埋入した結果。PN組成の上昇とともに、線維組織によるカプセル層の厚みが減少し、さらに、また、初期炎症細胞の数も減少した。また、4週後の組織所見によると、HApがフィルム内部で生成しているLN(m)-33/Hap複合体フィルムにおいてフィルム内部への組織の侵入が見られた。本研究で得られたハイドロゲルは、組織接着性に優れ、炎症反応がマイルドで、かつ、ウィルスなどの汚染の危険性がない完全化学合成ハイドロゲルの最初の例である。
結論
PLLAとPNのマルチブロック共重合体は、含水性を有する新たなハイドロゲルとなることが明らかとなった。含水率はPN組成に大きく依存し、最大では共重合体乾燥重量の500%の水分を吸収し、含水率83%のハイドロゲルが得られた。得られた、ハイドロゲルはPVAハイドロゲルなどの他の化学合成ハイドロゲルやアガロースゲルなどの生体由来ハイドロゲルと同様に細胞接着性を有さず、いわゆるバイオイナートな性質を示した。このことは、細胞接着性のみならず、ラット皮下埋入試験における極めてマイルドな炎症反応性によっても確認された。
得られたPLLA系生分解性ハイドロゲルとハイドロキシアパタイトの複合化により、ゲル内部への組織浸潤がin vivo実験において確認された。コラーゲンゲルなどが高い親和性を有する事は古くから知られているが、近年、感染などの問題が浮上している。本研究で得られた、PLLA系ハイドロゲルとハイドロキシアパタイトとの複合ゲルは、軟組織親和性が高く、周囲組織の増殖や浸潤を誘導できる上に、生物学的危険性が無い化学合成ハイドロゲルとして、組織再生用スキャホールドとしての利用が期待できる新材料である。

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