分子間相互作用制御による高度安定型タンパク質製剤の設計

文献情報

文献番号
200001031A
報告書区分
総括
研究課題名
分子間相互作用制御による高度安定型タンパク質製剤の設計
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
伊豆津 健一(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
遺伝子組替えタンパク質など各種生体高分子医薬品は活発な研究開発が行われており、その有効活用には化学的・物理的安定性の確保が課題となる。長期保存に適した用時溶解型タンパク質凍結乾燥製剤では、経験と試作による添加剤選択から安定化メカニズムに基づく合理的な製剤設計が求められている。本研究では添加剤による安定化に必要な分子間相互作用を左右する因子として、構成成分の凍結溶液や乾燥固体中の分子レベル混合性に着目し、その把握と制御により高度な安定性を持つ凍結乾燥製剤の製剤設計法開発を目指した。
研究方法
凍結溶液と凍結乾燥固体の物性はDSCを用いた熱分析により評価した。各種添加剤の凍結溶液が固有の温度に最大凍結濃縮相ガラス転移温度(Tg')を持つことを利用し、複数の溶質を含む凍結溶液を-100℃から昇温測定した微分DSC曲線のTg'ピーク温度及び形状より溶質の混合性を判断した。添加剤の結晶性は熱分析と粉末X線回折から判別した。凍結乾燥と保存時のタンパク質安定性はFT-IRを用いた二次構造測定とHPLCによる分子量、酵素活性測定から評価した。
結果と考察
凍結溶液中の各種タンパク質と非イオン性高分子添加剤は組合せにより異なる混合性を示し、氷晶間への混合状態での濃縮と各溶質相へ分離が観察された。共存物質の存在により両者の混合性は変化した。タンパク質と単糖類や二糖類の凍結溶液中の混合性は濃度比により大きく異なり、大部分の濃度比では良好な混合性を示したが、糖類の濃度比が高い領域では水和した二糖類相とタンパク質と糖類の混合相に分離した。一部試料では糖類相とタンパク質相への分離が観察された。FT-IRを用いた各種タンパク質の二次構造検討から添加剤とタンパク質の混合性が凍結乾燥時の安定化に重要であることが示された。凍結溶液中でタンパク質とアモルファス混合相を形成する糖類のみがタンパク質のα-ヘリックスやβ-シート構造を維持し、相分離する添加剤は安定化作用を示さなかった。タンパク質凍結乾燥品の保存時の安定化を目的として、アモルファス固体のガラス転移温度上昇による分子運動と化学反応の抑制を試みた。ガラス転移温度の高いtrehaloseの利用や塩類、水溶性高分子等の添加は凍結乾燥品の高温による外観変化とタンパク質凝集を抑制したが、一部試料では高分子添加により二次構造の乱れなど凍結乾燥時の安定化作用が低下したことから、製剤設計にはタンパク質の種類や保存形態、使用形態等に応じて、高次構造安定化と化学反応抑制のバランスをとることが重要と考えられた。
結論
タンパク質凍結乾燥製剤を構成する各成分は、凍結により氷晶間に混合濃縮される場合と各溶質相に分離する場合があり、各溶質の混合性は凍結乾燥や保存時の安定性に影響を与えることが明らかとなった。タンパク質凍結乾燥製剤の高度安定化にはタンパク質と添加剤間の分子間相互作用の確保による高次構造維持と、アモルファス領域の分子運動制御による化学反応の抑制が必要と考えられた。

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