薬用植物の分子エンジニアリングによる抗酸化物質生産の改良

文献情報

文献番号
200001030A
報告書区分
総括
研究課題名
薬用植物の分子エンジニアリングによる抗酸化物質生産の改良
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 真巳(千葉大学薬学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多くの植物種に広く分布するフラボノイド、アントシアニン、カテキン等のポリフェノール類は、強力な抗酸化活性をもち、活性酸素や種々のオキシダントで引き起こされる疾病を予防する機能を持つことが、個体、細胞、分子レベルで明らかにされ、注目されている。また、植物体内ではこれらの抗酸化物質が、環境ストレスに応答して生産され植物体自体の保護に関わっている。そこで薬用植物における抗酸化物質生産能力を遺伝子エンジニアリングにより改良しすることにより、抗酸化物質を高生産あるいは安定に含有するトランスジェニック薬用植物薬用植物を作出すれば、このようなトランスジェニック植物は、オキシダント耐性となり大気汚染の深刻な地域での栽培も可能になると考えられる。また、このような抗酸化物質を豊富に含む植物を摂取することで酸化に起因する疾病を予防することが期待される。そこで本研究では、抗酸化物質生産能力の改良を目的とした遺伝子エンジニアリングに用いるための制御因子の探索と解析を行った。植物におけるアントシアニン生合成の制御には、転写制御因子であるMycホモログ、Mybホモログならびに機能の詳細の不明な制御因子WD40因子が関与することが知られている。本研究では、全草においてアントシアニン生産の高発現しているアカジソのように植物からアントシアニン生合成の制御因子を単離し、分子エンジニアリングの材料として用いることを目指して、成分変種特異的に発現する新規Myc遺伝子の探索、アカジソからのWD40ホモログ遺伝子の単離とコードされるタンパク質の機能解析を行った。
研究方法
アカジソとアオジソの葉からホットフェノール法 (Pawlowski et al., 1994) により全RNAを抽出し、さらにmRNA Separator Kit (Clontech) を用いてポリ(A)+ RNAを精製した。このポリ(A)+ RNAを鋳型として、First-Strand cDNA Synthesis Kit (Amersham Pharmacia Biotech)によりG、A、Cのいずれかを付加した3種のアンカーオリゴ(dT)プライマーを用いて個々にcDNA (33 ml)を作成した。このcDNAを鋳型として、cDNA作成に用いたアンカーオリゴ(dT)プライマーと任意の10-merプライマー(OPD-1~20、OPF-1~20、Operon)とを用いて以下の条件でPCR増幅を行った。 増幅産物を5% Long Ranger Gel (FMC, USA) を用いたシークエンスゲル 電気泳動によって分離した。ゲルを3 MM濾紙(Whatman)に圧着させ乾燥し、X線フィルムに露光してオートラジオグラフィーを行った。アカジソとアオジソにおけPCR産物のオートラジオグラムの比較からアカジソ特異的に増幅されたDNA断片をゲルごと切り出した。切り出したゲルに100μlの滅菌水を加えて100℃で10分間処理して溶解した後、エタノール沈殿を行ってDNAを回収した。得られたDNAを、20μlの滅菌水に溶解し、このうち10μlのDNA溶液を再度PCR増幅し、PCR産物をpT7Blue (R)-T vector (Novagen)にサブクローニングした。
アカジソ葉由来のλgt10cDNAライブラリー約20万クローンをアカジソ特異的DNA断片をプローブとしてスクリーニングした。プラークはHybond N+にリフトし定法に従い変性・中和・洗浄を行った。ハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーション緩衝液[5×SSPE (0.9M 塩化ナトリウム, 0.05M リン酸ナトリウム (pH 7.7), 5mM EDTA)、0.5% SDS、5×デンハルト溶液 (Sambrook et al., 1989)、20 μg/ml サケ精子DNA]中、65℃にて終夜行った。最終洗浄は、洗浄緩衝液[0.1×SSPE、0.1% SDS]を用いて65℃にて10分間行った。ポジティブクローンを選んで同様に二次スクリーニングを行った。得られた陽性lクローンの挿入配列をEcoRIによりl DNAから切り出し、pBluescriptII SK-にサブクローニングした。
アカジソ葉由来のλgt10cDNAライブラリー約20万クローンをペチュニア由来のWD遺伝子an11 をプローブとしてスクリーニングした。プラークはHybond N+にリフトし定法に従い変性・中和・洗浄を行った。ハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーション緩衝液[5×SSPE (0.9M 塩化ナトリウム, 0.05M リン酸ナトリウム (pH 7.7), 5mM EDTA)、0.5% SDS、5×デンハルト溶液 (Sambrook et al., 1989)、20 μg/ml サケ精子DNA]中、65℃にて終夜行った。最終洗浄は、洗浄緩衝液[0.1×SSPE、0.1% SDS]を用いて65℃にて10分間行った。ポジティブクローンを選んで同様に二次スクリーニングを行った。得られた陽性lクローンの挿入配列をpBluescriptII SK-にサブクローニングした。
アカジソおよびアオジソから抽出した30μgの全 RNA または5μgのポリ(A)+RNA を1.2%ホルムアルデヒド/アガロースゲル電気泳動で分離し、Hybond-N+ (Amersham) に20×SSPEを用いてトランスブロットした。このRNAメンブレンに対して32P標識されたアカジソ特異的増幅フラグメントをプローブとして各々ハイブリダイゼーションを行った。
シロイヌナズナ(Arabidopsis thalinana )の形質転換は、フラワーディップ法[S. J.Clough & A. F. Bent, Plant J. (1998) 16, 735-743]により行った。Agrobacterium液に花序を3-5秒浸した後、植物にplastic domeを一晩かぶせ、翌日からdomeを除いて3-5週間育成し、T0種子を得た。これらの収穫した種子を滅菌し、選択マーカーであるカナマイシンを含むGM培地に播いて選択した。
結果と考察
アカジソとアオジソのmRNAについてディファレンシャルディスプレイを行った。3種のアンカーオリゴ(dT)プライマーと40種の任意プライマーの120腫の組み合わせでmRNAのPCR増幅を行った。その結果、44個のアカジソ特異的増幅フラグメントが検出されたので、これらをプラスミドベクターにサブクローニングし単離した。さらに、これらのアカジソ特異的増幅フラグメントをプローブとして、アカジソとアオジソの葉の全RNA に対してノーザン解析を行ったところ、2クローン(F5RA1-16, F3G1)がアカジソ特異的に発現していることが示された(表1)。これらの増幅断片のシークエンス解析とデータベース検索の結果、2クローンのうちのF5RA1-16は、アカジソから単離されたジヒドロフラボノール 4-還元酵素(DFR) cDNAであることが明らかになったため、このクローンについてはこれ以上の解析を断念した。一方のF3G1は塩基配列および推定アミノ酸配列を用いたデータベース検索の結果、新規の遺伝子であることが明らかになった。そこで、このF3G1について更に解析を進めた。F3G1断片をプローブとしてアカジソ葉のノーザン解析を行ったところ、F3G1遺伝子の発現が光照射によって経時的に誘導されることが示された。この誘導パターンは、アカジソにおけるアントシアニン生合成遺伝子の光照射による発現誘導パターンと一致していた。このようにアカジソ特異的発現と光による誘導を受けることなどアントシアニン生合成の構造遺伝子と一致した発現パターンを示したことから、F3G1がアントシアニン生合成の発現制御に関与していることが示唆された。そこで、さらにF3G1をプローブとして全長cDNAの単離を行った。約20万クローンのアカジソ葉のcDNAライブラリーをスクリーニングした結果、32クローンの陽性クローンを得た。これらをセカンドスクリーニングに供し、このうち強いシグナルを与えた20クローンを単離した。そしてほぼ全長をコードするcDNAを単離し、その塩基配列を決定した。その結果、F3G1はトウモロコシのアントシアニン生合成を制御するMyc様遺伝子と相同性があることが示された。
結論
MYCホモログタンパク質の構造と転写活性化能の関係を明らかにした。この結果は、トランスジェニック植物における物質生産制御に応用されることが期待される。また、アカジソ特異的に発現する新規Myc遺伝子については、今後さらに詳細に解析することが必要である。

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