Non-typable Haemophilus influenzae 由来リポオリゴ糖抗原に対するぺプチドミミックのワクチン応用についての研究

文献情報

文献番号
200001028A
報告書区分
総括
研究課題名
Non-typable Haemophilus influenzae 由来リポオリゴ糖抗原に対するぺプチドミミックのワクチン応用についての研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 雅仁(国立国際医療センター研究所 感染熱帯病研究部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Haemophilus influenzae を原因とする感染症は今日においても重要な問題である。莢膜を有する H. influenzae type b 等の強毒菌は、血中や組織に進入した際に貪食殺菌に抵抗し増殖することら、髄膜炎をはじめとする重篤な感染症を引き起こすことが知られている。特に乳幼児に対しては死亡率も高いことから、病原因子である莢膜をターゲットとした莢膜多糖-キャリア蛋白複合体ワクチンが開発され、小児の髄膜炎の減少に大きく役立っている。一方で、莢膜を持たない Non-typable H. influenzae (NTHi) も、肺炎・気管支炎等の呼吸器感染症の起因菌として大きな割合を占めており、感染予防のためのワクチン開発が望まれている。しかし病原因子として重要である莢膜多糖を持たないため、細胞表層の構成成分である OMP と LOS をターゲットとしてワクチン研究が行われている段階にある。そこで本研究では、LOS をターゲットとして、構造的に類似性のある新規のペプチドミミックを開発し、ワクチンへの応用を検討することを目的としている。
研究方法
臨床分離菌株は国立国際医療センター (NTHi IMCJ 1-8) およびタイのチェンマイ大学医学部 (NTHi Thai 1-20) から供与を受けた。培養は1.5%フィルズエンリッチメントを含んだブレインハートインフュージョン培地を用いておこない、遠心によって集菌した。LOS は、温水-フェノール法を用いて菌体から抽出した。抗 LOS 抗体は、LOS と加熱死菌の混合物を免疫原とし、Balb/C マウスに免疫して作製した。抗体産生細胞のスクリーニングは ELISA 法で、クローニングは限界希釈法でおこなった。抗体のサブタイピングはタイピングキットを用いておこなった。単クローン抗体産生細胞は、FBS、メルカプトエタノール を含んだ RPMI 1640 培地または無血清培地を用いて培養した。抗体は培養上清を濃縮後プロテインGカラムを用いて精製した。ポリアクリルアミド電気泳動およびウェスタンブロットは定法にておこなった。単クローン抗体を用いた NTHi の分類は、NTHi の超音波破砕菌体を用いて ELISA 法でおこなった。LOS に対するペプチドミミックの作製は、抗 LOS 抗体を用いてファージディスプレイライブラリ法により検討した。
結果と考察
ペプチドミミックを選択するためには、抗体を作製する必要がある。今回は NTHi の細胞表面糖鎖である LOS をミミックの対象としているので、抗 LOS 抗体の作製を行った。まず、LOS の抽出をおこなった。LOS は菌株によって構造が異なることが知られている。LOS の構造と病原性との間の関連は調べられていないものの、実際にワクチンとして用いるためには病原性を持つ株の LOS を対象とすることが望ましいと考えた。そこで、呼吸器感染症患者から分離した NTHi である、 IMCJ 1 株と Thai 1 株を用いた。LOS の抽出は定法に従って温水-フェノール法を用いておこなった。その結果、IMCJ 1 株の菌体 180 mg、および Thai 1 株の菌体 205 mg から、それぞれ 5.6 mg、5.4 mg の LOS を得た。次に、抽出した LOS を用い抗体の作製をおこなった。通常免疫をおこなう際には、抗原とフロイントのアジュバントを混合したものを免疫原として用いるが、細菌細胞表層複合糖質であるリポ多糖 (LPS) の抗体作製の場合には加熱死菌をアジュバントの代わりとして用いる方法がよく用いられている。そこで抗 LOS 抗体の作製は、LPS の場合の方法を用いて行った。すなわち LOS と加熱死菌の1:2(重量比)混合物を免疫原として Balb/C マウスに免疫することによって作製した。ハイブリドーマ作成後の、抗体生産細胞の出現確率は、IMCJ1 株が
1/490、Thai 1 株が 103/490 であった。スクリーニングおよび単クローン化の結果、IMCJ 1 株由来 LOS に対するもの1種類 (I5G)、Thai 1 株由来 LOS に対するもの2種類 (T3C、T4D) の、合計3種類の単クローン抗体を得た。それぞれの抗体のサブタイプは、IgM-k (I5G)、IgG3-k (T3C、T4D) であった。IMCJ 1 株由来の LOS を用いた場合には、抗血清の抗体価、抗体出現率ともに低く、得られた抗体も IgM であった。一方、Thai 1 由来のものでは、抗体価、抗体出現率ともに高く、得られた抗体は IgG であった。このことは、LOS の構造によって抗原性に大きな差のあることを示しており、LOS の構造によって菌株の病原性に差の出る可能性を示唆している。今後、LOS の構造と病態との関係を詳細に調べる予定である。
次に、抗 LOS の性質について調べた。まず抗体の抗原認識部位について、LOS を用いて検討をおこなった。LOS の SDS-PAGE およびウエスタンブロットの結果から、これらの抗体はたんぱく質等の他の菌体成分ではなく LOS 本体を認識していることが分かった。また、リピドA(化合物506)には結合しなかったことから、抗体がオリゴ糖部分を認識していることも分かった。フッ化水素酸を用いて LOS を脱リン酸化すると、T3C は LOS に結合しなくなった。このことは T3C がリン酸基を含む構造を認識していることを示している。現在 LOS から精製したオリゴ糖部分について、その化学構造を核磁気共鳴装置と質量分析装置を用いて解析しており、この結果を用いてさらに詳細な抗体の認識部位を検討中である。次に28種の臨床分離 NTHi の菌体を用いて、それぞれの LOS 抗体に対する結合を調べた。NTHi の超音波破砕菌体を抗原として用い、それぞれに対する3種の LOS 抗体の結合を ELISA 法によって測定した結果、I5G が15株、T4D が11株、T3C が6株に結合することが分かった。また、これらの抗体結合パターンから、NTHi を7種類のサブタイプに分類することができた。T4D のみが認識するサブタイプ1が7株、T3C と T4D が認識するサブタイプ3が1株、I5G のみが認識するサブタイプ4が8株、I5G と T4D が認識するサブタイプ5が1株、I5G と T3C が認識するサブタイプ6が3株、すべてが認識するサブタイプ7が2株、どの抗体も結合しないサブタイプ0が5株であった。T3C のみが結合するもの(サブタイプ2)は存在しなかった。この結果は、抗体が、詳細は不明ながらそれぞれ別の構造を認識していることを示している。また、抗体によって認識されない約20%菌株(サブタイプ0)については、菌体表面に LOS が全く存在しないのか、今回の抗体が認識する構造を持たない LOS が存在するのかは不明である。今後これらの菌株から LOS の抽出を試み、LOS の存在が明らかになればその抗体を作製する必要がある。これらの抗体を用いることで、さらに細かく菌株の分類をおこなうことが可能になれば、LOS を用いた新しい NTHi の新しいサブタイピング法として使用できる可能性もある。
最後に、LOS に対するペプチドミミックの作製を検討した。ワクチンとして使用出来るペプチドを得るためには、できるだけ多くの NTHi 株に共通に含まれている LOS の構造に対するミミックを得る必要がある。今回得た抗体の中では、I5G が最も多くの菌株 (54%) に結合している。次に多くの菌株に結合した T4D (39%) と合わせると80%以上の菌株を認識することができる。そこでこの2種についてペプチドミミックの選択を行うことにした。しかし、I5G が IgM であることを考慮して、まず IgG である T4D を用いて選択を行うことにし、現在検討中である。その後 I5G に対するペプチドミミックを選択し、これらをワクチンとして応用する予定である。
結論
NTHi 臨床分離株から LOS を抽出し、これに対する抗体を3種作製した。抗体のエピトープ解析を行い、LOS による NTHi のサブタイピングが可能であることを示した。今後、ペプチドミミックの選択を完了し、ワクチンへの応用研究を行う予定である。

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