熱帯病に対する新たな治療薬の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200001024A
報告書区分
総括
研究課題名
熱帯病に対する新たな治療薬の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小出 達夫(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
リーシュマニア症は媒介昆虫サシチョウバエを介して感染する寄生虫病で熱帯地域を主に 97 カ国に存在し,患者数は 1200-1400万といわれている。国内における患者は稀ではあるが,国外からの輸入症例としてときにみられる。病原体であるリーシュマニア原虫はマクロファージに寄生し内臓型や皮膚型の病型を呈して,ときには死亡という重篤な経過をたどることもある。現在治療には,主に5 価のアンチモン製剤が使われているが副作用が強く高価であり,また薬剤耐性を獲得した原虫も存在するため,副作用の少ない安価な特効薬の開発が望まれている。また,リーシュマニア症流行地はそのほとんどが交通が不便で医療体制が整っていないため,容易に入手でき,長期保存,経口投与が可能な治療薬が求められている。そこで本研究では,これらの条件を満たす新たな治療薬の開発を目的として,伝統的に南米で用いられている薬用植物を基とした抗リーシュマニア活性のスクリーニングを行った。また,スクリーニングにより活性が認められた化合物については,その作用機序の検討を行った。
研究方法
本研究にはLeishmania major, Leishmania panamensis, Leishmania guyanensisの3種の原虫を用いた。96 well プレートにDMSOで溶解した薬用植物の MeOH,CH2Cl2 抽出物を培地で希釈して2倍希釈系列をつくり,Leishmaniaを終濃度 5x105/ml になるように加え,培養液の全量を 100_l として5% CO2 存在下27℃でインキュベートし,24 時間後に原虫数の測定を行った。各濃度に対する原虫数をグラフにプロットし用量作用曲線からIC50を算出した。また,スクリーニングにおいて活性が高かった薬用植物エキスより抗リーシュマニア活性を指標にして活性成分の分離を行い,活性本体を単離して構造決定し,それぞれの化合物と従来使われている抗リーシュマニア剤との活性の比較を行った。スクリーニングにおいて最も活性が高かったペルー産 Elephantopus mollis より分離した抗リーシュマニア活性を有するゲルマクラン骨格をもつセスキテルペン Molephantin と Elephantopin の作用機序の解明を行うため,Elephantopus mollis より分離した他の類似構造化合物5種およびMolephantinより合成を行った誘導体12種について構造活性相関を比較検討した。また,ゲルマクラン骨格をもつ他の化合物に関して細胞内チオール系反応への関与が報告されているため,システインのMolephantin と Elephantopinの抗原虫作用への影響について検討を行った。さらに、リーシュマニア原虫を超音波破砕して得た粗酵素画分を抽出し,各酵素系への Molephantin ,Elephantopin の阻害活性を測定し,酵素系への阻害活性の原虫致死活性との関係を検討した。
結果と考察
南米産薬用植物29種について,そのエキスの抗リーシュマニア活性についてスクリーニングを行った。その結果,ペルー産Elephantopus mollis(最小致死濃度<12.5_g/ml)に強い活性が,ペルー産Operculina altissima (最小致死濃度25_g/ml)ブラジル産 Hyptis crenata (最小致死濃度100_g/ml)についても活性が認められた。スクリーニングにおいて最も活性が高かったElephantopus mollisの活性画分より抗リーシュマニア活性を有するゲルマクラン骨格をもつセスキテルペン化合物 Molephantin (IC50=0.2_g/ml)と Elephantopin (IC50=<0.1_g/ml)を分離した。その他微量成分として類縁化合物5種を単離した。これらの化合物については現在リーシュマニア症に第2選択薬として使用されているアンホテリシンB(IC50=0.1_g/ml)やペンタミジン(IC50=4.1_g/ml)と同等もしくはそれ以上の活性が認められた。Molephantin と Elephantopin及びその誘導体の構造活性相関を検討したところα-メチレンγ-ラクトン 環構造をも
つMolephantin , Elephantopin、及び他の類似構造化合物5種と誘導体6種はいずれも高い活性を示したが,メチレン基が還元された誘導体6種には活性の低下が認められた。細胞内チオール系反応への関与について検討したところ,Molephantin 及び Elephantopinの抗リーシュマニア活性はシステイン共存下では完全に阻害された。また,解糖系酵素への影響を調べたが,LDH及びピルビン酸キナーゼに対しての阻害活性は認められなかった。GAPDHなどの解糖系酵素やPKCなどのシグナル伝達系のリン酸化酵素については現在検討中である。今回の実験においてシステイン存在下ではMolephantin ,Elephantopinの抗リーシュマニア活性は阻害された。これに伴いMolephantin 及び Elephantopinとシステインが反応し,縮合体を形成したことによると考えられる305nmにおける吸光度の増加が認められた。この現象はメチレン基をもたない誘導体では認められなかった。これらの結果からシステインのSH基とメチレン基が反応することにより,抗リーシュマニア活性が低下したと推測された。また、これらゲルマクラン化合物添加時に顕微鏡で形態学的変化を観察すると核の変性が観察されることと,構造活性相関の結果からα-メチレンγ-ラクトンが活性の発現に必須なことを考え併せると,この反応性の高いメチレン基をもつことによりアルキル化剤として作用し,酵素やDNAを修飾することにより抗リーシュマニア活性を示すことが考えられる。
また,Operculina altissimaの活性画分を加水分解することにより抗リーシュマニア活性を有する樹脂配糖体が分離された。活性本体はこの構造を基本単位とするポリマーであることが推測された。他に、活性が認められた樹脂配糖体はその構造から両親媒性が強いことが予想される。顕微鏡で形態学的変化を観察すると膜傷害のような状態がみられ,さらに脂肪酸部位を加水分解して除去すると,活性が消失することから,界面活性作用により抗リーシュマニア活性が発現すると考えられる。Hyptis crenata の活性画分からは活性成分としてウルソール酸(IC50=21.0_g/ml)とクマリン(IC50=12.5_g/ml)が単離された。またウルソール酸やクマリンには多様な活性が報告されており,その作用機序の解明及びさらに有効な誘導体の探索が今後必要となるだろう。
結論
リーシュマニア治療薬の開発を目的として,伝統的に南米で用いられている薬用植物を基とした抗リーシュマニア活性のスクリーニングを行ったところ,Elephantopus mollis よりゲルマクラン骨格をもつセスキテルペン7種,Operculina altissima より樹脂配糖体, Hyptis crenata よりがウルソール酸,クマリンが単離,同定された。そのうち最も活性の強いゲルマクラン骨格をもつセスキテルペンの作用機序はα-メチレンγ-ラクトンの反応性二重結合によるものであることが示唆された

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