多発性硬化症における病原性T細胞特異的抑制方法の検討

文献情報

文献番号
200001023A
報告書区分
総括
研究課題名
多発性硬化症における病原性T細胞特異的抑制方法の検討
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
三宅 幸子
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在の自己免疫疾患の治療は、グルココルチコイドや免疫抑制剤といった非選択的な薬剤が中心であり、副作用も多く十分な治療効果が得られないことも多いことから、疾患特異的治療法の開発が切望されてきた。これまでは、抗原特異的治療や抗原特異的T細胞のT細胞受容体を同定し、それを標的にすることが試みられてきた。しかし、ほとんどの自己免疫疾患では病因抗原は同定されておらず、また抗原特異的T細胞のT細胞受容体は単一ではない上に個体差が著しく、臨床応用には多大な困難を伴っている。本研究では、自己抗原反応性T細胞とその働きを制御する疾患抑制性調節性細胞の機能を検討することによって、自己抗原反応性、自己免疫病惹起性細胞の選択的抑制方法の開発を目的とする。
研究方法
自己抗原反応性T細胞を大量に容易に入手可能にするため、Myelin Basic Protein (MBP) 反応性T細胞のT細胞受容体をクローニングし、トランスジェニックマウスを作製した。自己反応性を制御する分子の検索には、目的とする遺伝子を効率よくT細胞に導入するため、新規のパッケージングコンストラクト(pCL-ECO)とスピンインフェクション法を使用し、レトロウイルスベクターを用いてPrimary T細胞へ高率に遺伝子導入できる方法を確立した。
疾患抑制性調節性細胞の機能解析のために用いる自己免疫疾患モデルとして、C57BL6マウスにMyelin oligodendrocyte glycoprotein (MOG) peptide35-55を免疫し、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)を誘導した。また、DBA1JマウスにトリタイプIIコラーゲンを免疫し、EAEと類似したTH1優位な自己免疫病と考えられるコラーゲン関節炎 (CIA)を誘導した。これらの自己免疫疾患モデルにおいて制御しうる細胞群として、NK細胞、NKT細胞に注目し、それらをモノクローナル抗体にて除去もしくはサイトカインなどを用いて刺激し、EAEの臨床症状に与える影響を検討した。抗asialoGM1抗体投与により、抗原感作時、もしくは症状出現期にNK細胞を除去し、臨床症状を観察した。Wild type C57BL6 マウスもしくはNKTノックアウトマウスより調整した脾臓細胞をIL-2により48時間刺激し、接着性の細胞のみを回収、さらにIL-2存在下で72時間培養したNK細胞(純度90%以上)(1x106)を抗原感作時、もしくは症状出現期に経静脈的に投与し臨床症状を観察した。NKT細胞については、NKTノックアウトマウスにEAEを誘導して、wild typeと比較した。_ガラクトシルセラミドとその合成誘導体 (ALL : Altered Lipid Ligand) を合成し、未処置マウスに投与し、血清中サイトカインを経時的にELISA法にて測定した。これらの合成体を、経腹腔もしくは経口投与し、EAEに与える影響を臨床症状、病理学的解析から検討した。この際、血清中の抗MOG抗体価ならびにアイソタイプを測定した。また、未処置マウスの脾臓細胞にin vitroにて_ガラクトシルセラミドおよびALLを投与し、増殖反応、培養上清中のサイトカインを測定した。
結果と考察
SJL/JマウスにPLP peptide 136-150を免疫し、PLP反応性T細胞を樹立した。さらにPLP反応性T細胞よりT細胞受容体をクローニングし、そのトランスジェニックマウスの作製を行った。今後、このマウスのT細胞をもちいて、自己抗原反応性T細胞と、外来抗原反応性T細胞(DO11.10マウスから、OVA反応性T細胞を分離する予定)における抗原刺激時のT細胞受容体シグナル伝達経路に違いがあるかどうかを検討する。
抗原反応性を制御する分子の検索には、目的とする遺伝子を効率よくT細胞に導入することが重要であるが、これまでは困難であった。我々は、新規のパッケージングコンストラクト(pCL-ECO)とスピンインフェクション法を使用することにより、レトロウイルスベクターを用いてPrimary T細胞へ60-80%と非常に高率に遺伝子導入できる方法を確立した。T細胞受容体のトランスジェニックマウスのT細胞(DO11.10マウスから、OVA反応性T細胞)にも同様の効率で遺伝子導入することに成功したので、我々の作製したトランスジェニックマウスのT細胞を用いて、EAE制御に重要と思われる遺伝子の機能をin vivoで解析できるようになった。
抗asialo GM1抗体を用いて、NK細胞を除去することにより、EAE, CIA共に臨床症状は増悪した。IL-2によって活性化したNK細胞を移入することによって、EAE, CIA共に抑制することができた。これらの効果はいずれの場合も、免疫前の予防的処置ではあまりみられず、疾患発症時の投与にて効果がみられた。以上の結果から、NK細胞は、EAE, CIAといった自己免疫疾患に対しては疾患治療的に働くことが明かとなった。NKTノックアウトマウスから調整した活性化NK細胞の移入ではさらに強い抑制効果がみられた。Wild type 由来の活性化NK細胞と、NKTノックアウト由来の活性化NK細胞ではYAC-1, Syngenic ConA blastに対する細胞傷害活性に差はみられなかった。サイトカイン産生においては、IFN_産生がNKT由来のNKさび追うでは低下していた。また、定量的PCR法によって、TGF_, TNF_についてはNKTノックアウト由来の活性化NK細胞の方がmRNA発現レベルが高い傾向にあった。NK細胞の自己免疫疾患調節の作用機序については今後さらなる解析が必要であると考えられる。
NKTノックアウトマウスでは、EAEの発症が早まることから、何らかの疾患誘導作用があることが示唆された。また、これまで抗B7.2抗体存在下で __ガラクトシルセラミドを加えた抗原提示細胞を移入することによって、IL-4優位のサイトカイン産生をおこし、疾患を抑制できることを示してきた。今回はさらに臨床応用を考え、 __ガラクトシルセラミドの誘導体を合成し、EAEを抑制する誘導体を得た。この誘導体は、経腹腔投与、経口投与のいずれでも効果が見られた。病理学的検索の結果、 ALL投与群では病変への浸潤細胞の減少を認めた。血清中の抗MOG抗体価はALL投与群で上昇し、アイソタイプを測定すると、IgG1/IgG2a比の上昇が認められ、免疫応答がTh2に偏倚していることがわかった。未処置マウスにこのALLを投与後、経時的に血清中のサイトカインを測定し、IL-4 / IFN 比がコントロール群、_ガラクトシルセラミド投与群に比較して上昇していることを見い出した。NKT ノックアウトマウスではサイトカイン産生がみられないことから、NKT細胞を刺激して、IL-4を優位に産生させることが明かとなった。In vitroにおいては、_ガラクトシルセラミドに比較すると軽度な増殖反応を認めた。サイトカイン産生では IL-4 / IFN 比は上昇していた。EAEの抑制効果がIL-4によるものかどうかを検討するために、抗IL-4抗体を __ガラクトシルセラミド誘導体と同時投与するとEAEの抑制効果が消失した。 以上のことから、この誘導体は、NKT細胞を刺激してIL-4を優位に産生させ、Th2優位な免疫応答を引きおこすことによりEAE疾患抑制効果があることが明かとなった。
結論
自己抗原反応性T細胞のT細胞受容体のトランスジェニックマウス作製に成功し、今後自己抗原反応性T細胞の機能解析、シグナル伝達機能の解析が行えるようになった。NK, NKT細胞などの疾患調節細胞の作用機序を明らかになり、調節性細胞を介した自己免疫疾患治療の可能性があることが明かとなった。

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