有機アニオントランスポーターを介した小腸および腎臓における排出・分泌機構

文献情報

文献番号
200001022A
報告書区分
総括
研究課題名
有機アニオントランスポーターを介した小腸および腎臓における排出・分泌機構
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
崔 吉道
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、有機アニオン系薬物の小腸および腎臓での細胞内動態に関与するトランスポーターの内、特に「排出・分泌」に関与するものの生理的特性を明らかにする。具体的には、既に腎近位尿細管において有機アニオンの分泌に関わっている可能性が示唆されているtype I リン酸トランスポーターNPT1について遺伝子発現細胞を用いた in vitro 実験により動態学的にその関与を証明する。また、その知見を基にその実態が明らかになりつつある小腸における有機アニオン系薬物の「排出・分泌」を行うトランスポーターの可能性を培養細胞およびラット小腸細胞を用いて動態学的に探索する。本検討により、「排出」に関わるトランスポーターの基礎構造認識・輸送の分子機構を明確にする。
研究方法
1.ヒトNPT1遺伝子発現細胞を用いた腎近尿細管での有機アニオンの分泌動態::ヒトNPT1のcDNAは、ヒト腎poly(A) + RNA (Clontech, Palo Alto, CA, USA) によりRT-PCR 法により分離した。配列を確認後、ヒトNPT1 cDNAをpCAGGS ベクターに組み込んだ後、リン酸カルシウム法によりHEK293細胞にトランスフェクションした。トランスフェクション48時間後、放射性標識したp-Aminohippuric acid (PAH), estradiol-17β-glucuronide, benzylpenicillin, faropenemの取り込みおよび排出をシリコンレイヤー法により測定した。排出の測定には、薬物を10分間取り込ませた後行った。阻害剤としては、probenecid,β-ラクタム抗生物質 (benzylpenicillin, faropenem), salicylic acid, indomethacin, 2-ketoglutaric acid, succinic acid等を用いた。
2.ヒト大腸がん由来培養細胞Caco-2 細胞を用いた有機アニオンの動態:有機アニオンのモデルとしてPAHをモデルとして、トランスウェルを用いて膜透過実験を行った。Apical-to-basolateral (a-to-b), basolateral-to-apical (b-to-a) それぞれの方向の透過を検討するため、薬物をapical またはbasolateral 側に添加して実験を行った。pHおよび温度依存性についても検討した。阻害剤としては、genistein, probenecid, leukotrien C4, glutareate, benzylpenicillin, triiodothyronine (T3)等を用いた。
3.ラット摘出小腸細胞を用いた有機アニオンの動態:ラット小腸細胞を摘出し、十二指腸、回腸、空腸に分けてユッシングチャンバーに装着して膜透過性を検討した。基質としては、腎近位尿細管でのPAHの知見をもとにPAHを用いた。非標識体を用いて、測定はHPLCで行った。
結果と考察
1.ヒトNPT1遺伝子発現HEK293細胞を用いたPAHの刷子縁膜、排出輸送系の検討:ヒトNPT1を介した有機アニオン輸送の特徴を知るためにヒトNPT1発現HEK293細胞を作製し、それを用いてPAHの取り込み実験を行った。ヒトNPT1発現させたHEK293細胞についてのみPAHの取り込みには1分間で飽和がみられた。さらにpH依存性およびCl-感受性が観察された。PAHの輸送は、probenecid,β-ラクタム抗生物質 (benzylpenicillin, faropenem), salicylic acid, indomethacinによって強く阻害された。また、アニオン輸送阻害剤のDIDSによっても阻害を受けたが、2-ketoglutaric acid, succinic acidでは阻害されなかった。これらの結果より、ヒトNPT1がPAH, uric acidや薬物を含む他の有機アニオンを輸送することを初めて見出した。今回PAHのNPT1によるanion exchageメカニズムについては証拠が得られなかったが、Cl-感受性はみられた。細胞内から外へはCl-勾配がある事から、PAHの輸送は分泌方向に働いている事が考えられる。毒性学的には、腎の上皮細胞における排出系は、細胞内に蓄積しないために重要であると考えられる。ヒトNPT1はtype I Na/Pi トランスポーターとしてその遺伝子が同定されたが本研究によりNPT1が近位尿細管刷子縁膜における有機アニオンの排出に関与していると考えられる。
2. Caco-2細胞におけるPAHの輸送:最近、小腸上でMRP2が有機アニオンを分泌する事が報告されたがアニオン系化合物の小腸における排出については、ほとんど知られておらず、今回我々はCaco-2細胞の単層トランスウエルを用いて、吸収方向より、排出方向にCaco-2細胞はPAHの輸送活性が高いことを見い出した。また、PAHのCaco-2細胞上での輸送は、ラットのそれと類似して、排出方向性、pH及び温度依存性であった。先に示した様に腎尿細管において、PAHは、能動的に排出されることが知られている。そのトランスポーターとして側底膜側にOAT1が報告され、PAHとglutaric acidがカウンタートランスポートされることが知られている。しかし今回Caco-2細胞上では、そのような傾向はなかった。小腸にP-gpやMRP2が発現する事が知られている。P-gpは中性及びカチオン性物質を主に運ぶ。しかし、その代表的基質であるCyclosporin AでPAHの輸送は変化しなかった。MRP2については、genisteinやprobenecidが良い阻害剤であり、leukotrien C4が良い基質であることが知られている。今回genisteinを作用させたところ、b-to-a方向のPAHの輸送は低下し、側底膜側での蓄積が増加した。このことは、genisteinが側底膜側でなく、刷子縁膜側だけを阻害していると考えられる。最近、PAHとトランスポーターとしては、OATだけでなくNPT1やMRP2が報告された。NPT1は腎臓、肝臓に発現し、MRP2は肝臓と小腸上皮細胞に発現することが知られている。依然として、刷子縁膜側の薬物の排出機構は、その分子実体を含めて未だ不明の点か多い。しかし、今回の実験結果より、小腸側底膜側と刷子縁膜側では、違うメカニズムでPAHが排出されていることが示唆された。
3. PAHのラット小腸細胞における透過:Caco-2細胞で観察された現象が、ラット小腸細胞でも観察されるか、ユッシングチャンバーを用いて検討した。PAHの透過性は、serosa-to-musocsa( s-to-m) , m-to-sともに部位依存性を示し、十二指腸<空腸<回腸であった。また、Caco-2細胞系と同様にs-to-m > m-to-sと排出指向性であり、pH依存性はみられなかったが、温度依存性はみられた。
結論
今回我々は、小腸および腎臓において、特に刷子縁膜側での有機アニオンの排出・分泌機構についてin vitroの実験系により検討を行った。そして、腎尿細管刷子縁膜側のPAHの輸送特性については、NPT1が、いくつかの有機アニオンを輸送することを新たに示した。
一方、小腸においては、腎臓での検討結果を基にPAHを有機アニオンのモデル化合物として選択し、PAHの輸送が小腸では排出指向性であること、そして、この過程は、多くのトランスポーターが、違ったメカニズムで作用していることを示唆し、特に今回の結果から小腸刷子縁膜側ではMRP2類似のトランスポーターが関与していると考えられた。更に小腸でのPAHの排出過程には、部位特異性が見られ十二指腸、空腸、回腸と小腸終末部へ行くほど排出速度が増加した。これらの分泌機構は有機アニオンが小腸で吸収されるときの障壁になると考えられる。

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