循環器病治療薬開発に不可欠な小動物における循環動態テレメトリーシステムの開発

文献情報

文献番号
200001020A
報告書区分
総括
研究課題名
循環器病治療薬開発に不可欠な小動物における循環動態テレメトリーシステムの開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 隆幸(高知医科大学医学部第2生理学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年のめざましい創薬技術の進歩にも関わらず、循環器病分野においては、必ずしも期待された新薬が実際的効果を挙げていない。過去10年の間でも、例えば、抗不整脈薬についてのプラセボを対照とした二重盲験大規模臨床試験(CAST, Cardiac Arrhythmia Suppression Trial)の場合、実薬群の患者の死亡率がプラセボ群に比べあまりに高く、当初3年間の予定で開始されたプロトコールが2年弱で中止となった。また、高血圧に対する降圧薬や心不全に対する強心薬についても同様に失敗に終わる試験が続き、循環器病分野の創薬段階における薬効評価法に何らかの問題があると認識されるようになった。失敗に終わった臨床試験の結果を受けて、これら薬剤の心臓メカニクスおよびエナジェティクスに関する動物実験が行われ、いくつかの抗不整脈薬や降圧薬が陰性収縮作用を有することや多くの強心薬がエネルギー効率を悪化させる作用を有することが明らかにされた。このようなことから、抗不整脈薬、降圧薬、心不全治療薬の創薬においては、薬剤の心臓メカニクスおよびエナジェティクスに与える影響を評価することが重要であると認識されるようになった。
循環器病分野における創薬研究においても他の分野と同様、マウスやラットなどの小動物が動物実験に用いられるようになった。これは、動物愛護・経済性・易繁殖性などの理由に加え、各種の循環器病モデルが確立されていることや、遺伝子操作を含めた分子生物学的手法による研究に適していることから、さらにその傾向は加速されると考えられる。しかしながら、従来、心臓メカニクスおよびエナジェティクスに関する研究は、イヌなどの大型動物が用いられることが多かったため、マウスやラットなどの小動物での研究手法が確立されていなかった。とりわけ、心臓メカニクスおよびエナジェティクス研究に不可欠の左室圧容積関係を生体位心で測定することは不可能であった。また、従来は、生体内への埋込型計測システムがなかったため、麻酔下の急性実験であったが、ヒトへの臨床応用をめざした創薬研究においては、無麻酔慢性動物実験システムが切望されている。
そこで、本研究では、小動物の循環動態を計測する植込型慢性実験テレメトリーシステムを開発した。
研究方法
①心臓メカニクスおよびエナジェティクス測定の原理:薬物の循環動態に与える影響を評価する場合、一般的には動脈圧、心拍数が計測されるが、これだけでは極めて不十分である。とりわけ、循環器病の治療薬を開発する際には、心臓固有の機能を示す心臓メカニクスと心臓エナジェティクスの測定が必須となる。これら心臓固有の特性を評価するためには、心室内圧と心室容積の同時測定データから圧容積ループを取得し、収縮期末圧容積関係(ESPVR, end-systolic pressure-volume relationship)、拡張期末圧容積関係(EDPVR, end-diastolic pressure-volume relationship)、外的仕事量(EW, external work)、位置エネルギー(PE, potential energy)、収縮期圧容積面積(PVA, pressure-volume area)を測定する必要がある。ESPVRは心臓固有の収縮特性を、EDPVRは拡張特性を、EWは心臓が外部に行った機械的仕事量を示す。また、PVAは心臓の酸素消費量の指標となりPVAとEWの比はエネルギー効率の指標となる。
②技術開発の原理:本研究で試作開発する基盤技術は、ピエゾ抵抗素子型圧センサー・コンダクタンス容積計測電極・心内心電図電極が装着された多機能微小カテーテルを心室内に植え込み、得られた電気信号を経無線的に取得し、実時間でESPVR、EDPVR、EW、PEおよびPVAを連続測定するというものである。開発する送信器は体内埋込型であるため、無麻酔下で自由行動中のマウスやラットにおける計測が世界で初めて可能となり、きわめて生理的な条件での測定が実現される。
③技術開発の目標:ラットなどの小動物で、心室内圧と容積を同時に慢性記録するためには、小型化・無線化が不可欠である。そこで、超小型圧センサーとコンダクタンス容積測定電極を装着した小型カテーテル、埋込型送信器、受信器を開発した。
④動物実験での検証:麻酔下で、小型カテーテルをラット左心室の心尖から挿入固定し、送信器を腹壁皮下に埋め込んだ。左室後負荷を変化させるため、大動脈周囲に空気圧カフを埋め込んだ。
結果と考察
①試作した小型カテーテルは、直径1.0mmにすることができた。②心室圧、容積波形に含まれる50Hzまでの信号成分の送信を可能とすることができた。③埋込型送信器の総重量を12グラムまで軽量化できた。④埋込型送信器の連続記録時間を72時間以上にすることができた。⑤無麻酔非拘束ラット(7例)で、左室内圧・容積・心電図の記録、および左室圧容積関係を評価することができた。
国がメディカルフロンティア構想の最重要課題として位置づけているように、死因の第二位を占める循環器病を制圧するための画期的な創薬技術が求められている。また、最近の厚生労働省の統計によると、高血圧性疾患の患者数は、749万人(平成8年患者調査)、中等ないし重症の心不全患者数は、29万人(平成8年身体障害者・児実態調査)にものぼると推定されているが、さらに、これらの循環器疾患は高齢化とともに増加傾向にある。したがって、循環器病制圧に向けての創薬研究は、緊急的政策課題であり、その基盤技術の開発の必要性・緊急性は疑う余地がない。本研究では、このような必要性・緊急性にこたえるべく、循環器疾患治療薬の開発に欠かせない薬物の評価法として、小動物の循環動態テレメトリーシステムを開発した。
今回試作開発した循環動態テレメトリーシステムは、当初目標の技術仕様を達成しているが、次のような点が実用化にむけての課題として考えられる。まず、第一に、薬物の評価は多くの動物を対象として同時に行われることが多いが、そのためには、動物に埋め込まれた各々の送信器からの情報が識別可能となっていなければならない。今後、携帯電話などに用いられている周波数拡散法のようなIT技術の導入が不可欠と思われる。ついで、量産化にむけての技術開発が必要となる。今回の試作器の場合、多機能カテーテルへのセンサー類の装着、送信回路における電子部品のハンダ付けなどはすべて手作業であった。したがって、量産には、半導体製造の際に用いられるプロセス工程などを応用して、自動化する必要がある。
結論
循環器病治療薬開発に不可欠なラットにおける循環動態テレメトリーシステムの開発に成功した。今後、さらにこのシステムを小型化することにより、マウスにも適用できるシステムを開発したい。

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