トリプトファンによる細胞性免疫の制御

文献情報

文献番号
200001018A
報告書区分
総括
研究課題名
トリプトファンによる細胞性免疫の制御
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
五條 理志
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Indoleamine-2,3-dideoxygenase (IDO)は、血管内皮細胞やマクロファージに存在し、炎症性のサイトカインで誘導されるトリプトファンを代謝する酵素であるが、その免疫系に及ぼす影響は、IDO inhibitorが同系間の妊娠マウスにはなんら影響を与えず、同種間の妊娠マウスには流産を生じさせたとの報告がある。これは、胎児がいかに母親の免疫系から保護されているかというメダワー以来の問いにシンプルではあるが、新たな解決への糸口を提議した。本研究では、このIDOの特性を利用し、T cell mediated immunityをコントロールする方法を検討し、移植医療に応用可能かどうかを小動物を用いた実験を行い検証する。
研究方法
移植臓器においてT cell の最初の標的となる内皮細胞に、IDOをOverexpressionさせることで、Local immunosuppressionが可能ではないかとの仮定のもとに実験計画を作成した。まず、内皮細胞特異的なプロモーターとして、ICAM2 Promoterをクローニングし、下流にマウス由来のIDO cDNAを結合した発現プラスミドであるpI2-IDOを作成する。このplasmidを血管内皮細胞へtransfectionし、IDO発現細胞のクローニングを行う。Transfectionの方法はcalcium precipitationを用い、G418にてselectionを行ない、幾つかのクローンをピックアップする。Massachusetts General Hospital のSachs DHらによって開発されたCongenic Miniture Swine の大動脈内皮よりクローニングされた内皮細胞株に遺伝子導入を行い、Stable Transfectantsを樹立し、それらの細胞からmRNAを調製し、full length のIDOcDNAをプローブにしてNorthern blotting を行い、IDOの発現量をそれぞれのクローンについて測定する。これらの細胞をstimulatorにしてT cell proliferation assayをallogeneic combinaitonにて行ない、IDOの発現量と増殖能の抑制効果の相関を検討する。コントロールにはTransgeneとしてGreen fluorescence proteinを有するplasmid(pI2-G)によってtransfectionされクローニングされた細胞株を用いる。
In vivo の実験は細胞移植をモデルに検討を行った。マウス(C3H/He)骨髄より単離されたMesenchymal Stem Cell line (MSC: 慶応大学病理学教室から供与)は、同系マウスの皮下に移植されると骨を形成する。一方、同種マウスに移植されると一旦は骨形成を認めるものの、約14日後には骨破壊を伴って完全に拒絶される。この系をIDOの生物特性(免疫抑制)を確認する為に利用した。MSCにCMV promoterによりdrive されるIDO cDNAを遺伝子導入し、Stable transfectantを作成。C3H/HeとBalb/cマウスの皮下に移植を行い、経時的に移植部位をサンプリングし、病理学的検討を加えた。
結果と考察
in vitro の実験のでは、IDOの免疫抑制効果がT cell増殖抑制という方法を用いて以下のように確認された。ddのphenotypeのブタ血管内皮細胞にIDOを発現させてstimulator にし、ccのphenotypeのブタのリンパ球をresponderにしてproliferation assayを行った。IDOを発現した細胞に対しては完全に増殖を抑制した。Expressionの量と増殖抑制に関する相関は、明らかなものは認めず、IDOが存在していればT cell の同種抗原に対する増殖は完全に抑制された。このことは、in situでのトリプトファンの濃度がT cellの増殖に対して極めてCritical factorとして働いていることを示唆している。IDO transfectant の増殖はNaive cell やGFP transfectantと比較してなんら変化はなく、細胞増殖に対する非特異的な影響であるとは考えられず、Activated T cell の増殖に特異的抑制作用を持っていると考えられる。
In vivo の実験でも、IDO の免疫抑制作用が同種間移植において骨形成を指標に証明された。IDO transfected MSCは増殖に関してはNaive のものと何ら変わりはなかった。しかしながら、Syngeneic combinationにおいても骨形成の大きさは、Naive MSC transplantationに比較して有意に小さな骨しか形成しなかった。病理学的検討では、好中球の浸潤を認めており非特異的な炎症反応を確認し、それが骨形成を小さくしていると推定された。この炎症反応がTransgeneの産物によるものなのかIDOの機能と何らかの関係があるのかどうかは、今後の研究課題としたい。Allogeneic combinationにおいては、Naive MSC は移植後14日目頃には骨破壊を伴って完全に拒絶されたにもかかわらず、IDO transfected MSC の移植においては移植後3週間目においてもSyngeneic miceと同等の大きさの骨を形成していた。病理学的検討では、好中球の浸潤はAllogeneic combinationの方がやや多いものの、骨自体にには大きな差異を認めなかった。このことは、in vitroにおけるT cell 増殖抑制の効果が、in vivoにおいてもT cell によるCytotoxic effectsの抑制という形で確認されたことになる。
以上の結果を踏まえて、臓器移植の局所免疫抑制効果をもたらす、Ex vivo gene therapyのTargetとしてIDOは有望な遺伝子であると考える。また、今後臨床応用が進むであろう細胞移植は、ドナーソースとして自己の細胞が理想的であると考えられるが、経済的側面からもAllogeneic sourceが重要になると考えられ、ドナーがIDOのような免疫寛容誘導をもたらす因子を発現していることは、非常に大きな進歩と考える。
結論
IDOはT cell immunityを抑制することに明らかに関与しており、移植医療において重要なTargetとなることが示された。特に、細胞移植のドナー細胞にEx vivo gene transferによってIDOを導入することで、免疫抑制剤からの解放が得られる可能性が高い。しかしながら、非特異的炎症反応のメカニズムおよびそれに対する対処が今後の課題となると考えている。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-