血管内造血機構の解明と臍腸間膜動脈より新規造血幹細胞因子の単離

文献情報

文献番号
200001013A
報告書区分
総括
研究課題名
血管内造血機構の解明と臍腸間膜動脈より新規造血幹細胞因子の単離
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
高倉 伸幸(熊本大学発生医学研究センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
造血幹細胞は多分化能および自己複製能を有することより骨髄移植や遺伝子治療における標的細胞になっている。そこで臨床応用にむけて、造血幹細胞の試験管内での増幅が切望されている。しかし現在のところ造血幹細胞の分化を抑制し、自己複製のみを誘導する成長因子は同定されておらず、本研究では新規造血幹細胞自己複製因子の単離を目的とする。
研究方法
造血幹細胞がいかなる領域で発生し、まずどのような構成細胞によって、またいかなる分子基盤に基づいて幹細胞の自己複製が営まれるのかを検討する。本研究においては、マウスを用い、造血幹細胞の表面抗原であるc-Kit受容体の発現を追跡することで、まず造血幹細胞の局在を観察し、最も発生初期より造血幹細胞上に発現する分子であるレセプター型チロシンキナーゼTIE2の機能解析を糸口にして、造血幹細胞の自己複製の分子メカニズムを解析した。またマウス胎仔において最も早期に造血幹細胞の増殖が観察された臍腸間膜動脈の血管内皮細胞は造血幹細胞の自己複製を誘導する外来性因子を豊富に分泌する可能性がある。そこで本血管内皮細胞からcDNAライブラリーを作成し、酵母ベクターに組み換え、signal sequence trap法を用いて造血幹細胞の増殖あるいは自己複製に関わる分子をスクリーニングした。
結果と考察
1)マウスの各発生段階の胎仔を造血幹細胞の表面抗原であるレセプター型チロシンキナーゼc-Kitの発現を追跡することにより、造血幹細胞の局在を解析した。マウスでは胎生9日目の卵黄嚢と胎仔を結ぶ唯一の動脈である臍腸間膜動脈内で造血幹細胞が本動脈の血管内皮細胞に接着し、細胞集塊を形成し発生、増殖することが明らかとなった。本動脈の造血幹細胞はレセプター型チロシンキナーゼTIE2を発現しており、また幹細胞が接着する内皮細胞にも共通してその発現が観察された。
2)本TIE2受容体を造血と血管形成の発生的共通分子基盤と想定し、TIE2受容体陽性細胞の分化機構を検討した。胎生9日目の胎仔よりTIE2陽性細胞をセルソーターにより分画採取し試験管内において分化誘導を試みたところ、TIE2陽性細胞の一部の細胞は、造血幹細胞にも血管内皮細胞にも分化しうるヘマンジオブラストであることが判明した。
3)発生初期に造血幹細胞は血管内皮細胞上で増殖することから、造血器官における造血幹細胞の自己複製を支持する生態学的適所(ニッチェ)の主要構成細胞として血管内皮細胞が想定された。造血幹細胞と血管内皮細胞の相互関係を試験管内で観察するために、胎仔期造血幹細胞の発生する領域であるP-Sp領域(para-aortic splanchnopleural mesoderm)領域(別名AGM領域)を用いた器官培養を試み、血管内皮細胞においては血管構築に重要な過程である脈管形成、血管新生の両者を、さらに造血幹細胞の発生から分化までを解析可能な培養法の確立に成功した。本培養系の成功に立脚して、血管網を形成する成熟した血管内皮細胞の存在が造血幹細胞の増殖に必須であることを解析し得た。このことから、少なくとも発生初期においては造血幹細胞の増殖は血管内皮細胞をストロマ細胞とした自己複製が営まれていることが示唆された。
4)TIE2は造血幹細胞および血管内皮細胞に共通して発現が観察される。そこで本P-Sp培養を用いTIE2受容体の機能解析を行なったところ、TIE2の活性化により造血幹細胞は細胞外マトリックスへの接着が誘導され、造血幹細胞の血管内皮細胞への接着に重要であり、また内皮細胞への造血幹細胞の接着が幹細胞の未分化性の維持機構に重要であることが判明した。また造血幹細胞はTIE2受容体のリガンドであるアンジオポエチンー1を分泌し、無血管領域に内皮細胞より先に移動し、血管内皮細胞上のTIE2を刺激して、内皮細胞を遊走させ、血管網の形成を沿革的に誘導する作用を有することが判明した。
5)上記の結果から、造血幹細胞のまず発生初期における増殖、自己複製を支持する構成細胞としては、臍腸間膜動脈内の血管内皮細胞が想定された。そこで本血管内皮細胞をソースにして細胞外に分泌される可能性のある分子のみをsignal sequence trap法を用いて単離を試みた。現在までに解析した酵母クローン200万個中、signal sequenceを持つものが90クローン得られ、その中で新規の遺伝子を25クローン同定した。そこで得られたクローンのうち新規のものを中心に、遺伝子全長をクローニングした。現在までにCD34と類似した新しいsialomucin分子、kunitz inhibitor domain を有するproteinase inhibitor-like分子、新規LDL受容体などが同定された。これら遺伝子をcos細胞に導入し、蛋白として精製し、前述したP-Sp領域の培養系に添加して、造血幹細胞の増殖や自己複製に関与する分子をスクリーニング中である。
結論
造血と血管形成は、その主たる構成細胞である造血幹細胞と血管内皮細胞は発生的にも機能的にも親密な関係にあることから、切り離して解析するのではなく、両者の相互作用を解析することがそれぞれのイベントを解析する上では重要である。今回の検討結果から、造血幹細胞は自ら骨髄や胎仔肝において共通して観察される、緻密な血管網の形成を誘導し、その血管網を構築する内皮細胞を支持細胞として機能させる。そしてその血管内皮細胞の分泌する分子によって、幹細胞の自己複製が営まれると考えられるのである。現在臍腸間膜動脈の内皮細胞からそのような幹細胞因子を探索しているが、現在単一に幹細胞のみを誘導する因子の同定には至っておらず、今後もさらに遺伝子クローニングを継続する予定である。

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