アドレノメデュリン投与による重症心不全治療の臨床評価

文献情報

文献番号
200001009A
報告書区分
総括
研究課題名
アドレノメデュリン投与による重症心不全治療の臨床評価
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
永谷 憲歳(国立循環器病センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アドレノメデュリン投与による新しいヒト心不全治療の有効性を評価するために、経静脈的アドレノメデュリン投与が左心機能不全患者の血行動態、心筋収縮性、冠血流、心筋酸素消費量へ及ぼす効果を検討した。同時に、現在臨床応用されている心不全治療薬である心房性ナトリウム利尿ペプチド(HANP)との作用の差異を検討した。また、肺動脈性肺高血圧患者を対象にアドレノメデュリン投与による肺血管拡張作用、肺高血圧軽減効果、右心不全治療効果を検討した。
研究方法
研究1では心筋梗塞後患者14例を対象とした。被験者に対しては口頭及び文書による説明を十分行い、文書による同意を得た。なお本研究は、国立循環器病センター倫理委員会にて承諾されている。心筋梗塞発症1ヶ月後の心臓カテーテル施行時に、血行動態を測定するためにS-Gカテーテルを留置した。また左室容量および左室内圧測定のために、コンダクタンスカテーテル、チップミクロマノメーターを左室内に留置し、左室圧容積曲線を求めた。さらに冠血流量測定のためにウエブスターカテーテルを冠静脈洞へ留置した。冠血流量、冠循環動静脈酸素含有較差から心筋酸素消費量を算出した。バルーンカテーテルにより下大静脈を一時的に閉塞して心筋収縮性の指標であるEmaxを求めた。また左室拡張能の指標としてTauを求めた。安静30分後に無作為にアドレノメデュリン(n = 7)またはHANP(n = 7)を経静脈的に0.05μg/kg/minで18分間投与した。さらに投与中止後18分間の経過観察を行った。研究2では、肺動脈性肺高血圧症患者10人を対象に、アドレノメデュリン(10-9M、10-8M)を経カテーテル的に肺動脈区域枝に選択的に投与し、Doppler flow wireから局所肺動脈流速を求めた。さらにアドレノメデュリンの肺血管拡張作用を既存の内皮依存性肺血管拡張薬であるアセチルコリン(ACh、10-6M、10-5M、10-4M)、内皮非依存性肺血管拡張薬アデノシン三燐酸(ATP、10-6M、10-5M、10-4M)と比較した。また右心不全を呈する重症肺高血圧症14例(肺動脈平均圧:62mmHg)を対象に、アドレノメデュリン(0.05μg/kg/min)またはプラセボを無作為に経静脈的に30分間投与した。右心カテーテル、動脈ライン留置により血行動態の変化を観 察した。また採血により神経体液性因子の変化を観察した。
結果と考察
研究1では、明らかな副作用(不整脈、著明な低血圧ら)は出現せず、全例がプロトコールを完了した。アドレノメデュリンの経静脈的投与は左室収縮期圧を17 mmHg有意に低下させ、HANPは13 mmHg低下させた。アドレノメデュリンは心係数を31%増加させたが、HANPによる心係数の増加は16%に留まった。HANP投与と異なりアドレノメデュリンは心筋収縮性の指標であるEmaxを有意に増加させたことからアドレノメデュリンによる心拍出量増大は、血管拡張による心後負荷の軽減のみでなく直接の強心作用が関与していると考えられた。一方、HANPは強力な利尿作用、動静脈の血管拡張作用により、心前負荷を軽減すると報告されている。また以前の我々の研究から、経静脈的投与においては、利尿、ナトリウム利尿効果はアドレノメデュリンに比べHANPの方が優れていることが証明された。実際、今回の研究では、肺動脈楔入圧の低下はアドレノメデュリンよりHANPで強かった。またアドレノメデュリンは血漿cAMP濃度を有意に増加させ、一方、HANPはcGMP濃度を有意に増加させた。以上のことから経静脈的に投与した場合、アドレノメデュリンはHANPとは異なったセカンドメッセンジャーを介して、主に心後負荷の軽減、心拍出量増大に働き、主に前負荷軽減に働くHANPとは異なった作用機序を有することが示された。また本研究では、心筋エネルギー消費量を求めるために冠血流量、
冠循環動静脈酸素含有較差から心筋酸素消費量を算出した。一般に強心薬は心筋への直接の作用により心筋酸素消費量を増加させる可能性がある。しかしアドレノメデュリンは心筋酸素消費量を増加させずに(46±7から47±7 ml/min, p = NS)、心筋収縮性、心拍出量を増大させた。アドレノメデュリンによる心後負荷の低下が心筋エネルギー消費の軽減に関与した可能性がある。研究2ではアドレノメデユリン投与中に1例の患者が一過性の頭痛、動悸を訴えたが、その他明らかな副作用は出現せず、全例がプロトコールを完了した。局所肺動脈流速は、アドレノメデュリン、ACh、ATPともに容量依存性に増加した。アドレノメデュリン10-8Mにより肺動脈流速は41%増加した。これはACh10-4M(+39%), ATP10-5M(+36%)に匹敵した。またAChに反応しない内皮依存性血管拡張が障害された症例においてもアドレノメデュリンは肺動脈流速を有意に増加させた。以上から、アドレノメデュリンはACh、ATPに比べ強力な肺血管拡張作用を有し、その血管拡張には、一部内皮非依存性の機序を介することが示唆された。また経静脈的に30分間アドレノメデュリンを投与した場合、肺動脈圧に有意な変化は認められなかったが(62±4から59±4 mmHg, p = NS)、心係数は著明に増大し(1.8±0.2から2.6±0.3 L/min/m2, p < 0.05)、肺血管抵抗は有意な低下を示した(19.7±1.4から13.4±1.3 units, p < 0.05)。また平均動脈圧の有意な低下(81±3から72±4 mmHg, p < 0.05)を示し、心拍数は有意に増加した(73±4から79±4 bpm, p < 0.05)。またアドレノメデュリンは血漿レニン濃度を変化させずに血漿アルドステロン濃度を有意に低下させた。これらの結果から、アドレノメデュリン投与は右心不全に至る重症肺高血圧症に対しても有効である可能性がある。今回の研究1、2を通じてアドレノメデュリンを投与した患者は24人にのぼったが、1人の肺高血圧症患者が頭痛、動悸を訴えたのみで、その他明らかな副作用は認められなかった。アドレノメデュリンの投与は不十分な内因性ペプチドの補充という観点からも副作用が少なく有益である可能性がある。
結論
経静脈的アドレノメデュリン投与は心筋酸素消費量を増加させずに心拍出量、心筋収縮性、冠血流量を増加させること、また強力な肺血管拡張作用を有することが明らかとなった。アドレノメデュリンは左心不全、肺高血圧に伴う右心不全の新たな治療薬となりうることが示唆された。

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