子宮体癌に対するヒト型モノクローナル抗体の作製

文献情報

文献番号
200001008A
報告書区分
総括
研究課題名
子宮体癌に対するヒト型モノクローナル抗体の作製
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
福地 剛(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
細胞融合法が開発されて以来、数限りないモノクローナル抗体(MAb)が作製され、医学の分野においても多大の貢献を果たしてきた。しかし、これらの抗体のほとんどがマウス型であったため、診断や治療の目的でヒトに投与する場合に、ヒトにとって異種蛋白であるhuman anti-mouse antibody(HAMA)が産生されてしまうことが大きな隘路となっていた。そこで、近年この欠点を克服すべくヒト型MAbの作製に期待が集まり、ヒト型抗体を産生する抗体の開発が内外を問わず繰り返されてきたが、ヒトの抗体の持つ多様性を完全に再現することが困難なことから実用化に至っている例はほとんどなかった。そういった状況の中で、我々と共同研究を行っているキリンビール(株)の石田らは、この障害を乗り越えるために、ヒト染色体をマウス個体へ導入するという全く新しいアプローチでこの課題に取り組み、世界に先駆けて完全なヒト抗体(重鎖+軽鎖κ)を発現するCross-bred Trans-Chromosomic mouse(Cross-bred TC mouse)を作製することに成功した。
そこで、本研究ではこのCross-bred TC mouseを用い癌細胞に対するヒト型MAbの作製を試み、癌治療への応用を志向した基礎的実験を行うことを目的とする。
研究方法
Cross-bred TC mouseを免疫しヒト型MAbを作製する。免疫原としては、研究者の研究施設において既に作製された子宮体癌と高頻度に反応するマウス型MAb MSN-1の免疫原であるSNG-Ⅱ細胞の亜株SNG-S(MSN-1の認識抗原を高頻度に発現している)を用いる。培養細胞をマウス腹腔内に2週間毎に免疫し、SNG-S細胞に対する抗体価の上昇を認めた時点で、追加免疫を行い、その5日後に細胞融合を行う。細胞融合は、マウス型MAbの作製方法と同様の常法に従い、PEG1500を用い、脾細胞とミエローマ細胞の比率を5:1とする。
細胞融合後、ハイブリドーマを選択的に増殖させ、その培養上清を用い免疫原であるSNG-S細胞を固相化したCell ELISA法により陽性ウェルを選別する。 次にその陽性ウェルの上清を用い免疫細胞化学的染色(ABC法)により、SNG-S細胞との反応性を検討する。さらに、免疫組織化学染色により、子宮体癌組織中の癌細胞に特異的に反応するウェルを選別し、そのハイブリドーマを限界希釈法によりクローニングし、免疫組織化学的に安定した反応性を示すMAbを得る。 
得られたMAbの子宮体内膜病変に対する反応性を多数の症例数を対象に免疫組織化学的染色により検討するとともに、認識抗原への蛋白あるいは糖の関与を検討するために、予め組織切片をトリプシンや過沃素酸等で処理し、反応性の変化を免疫組織化学染色で比較検討する。
結果と考察
SNG-S細胞1×107個をCross-bred TC mouseの腹腔に投与し、2週間毎に尾静脈より採血しCell ELISA法により抗体価を測定したところ、第2回の免疫後から抗体価が上昇し始めたので、第3回の免疫後最終免疫を行い、その5日後に細胞融合を行った。
細胞融合後約1週間後に、SNG-S細胞を固相化したCell ELISA法によるスクリーニングを行ったところ55ウェルが陽性を示した。その陽性ウェルの培養上清を用い免疫細胞化学的にSNG-Sを染色した。Cell ELISA法で陽性を示し、かつ免疫細胞化学的にもSNG-S細胞との反応性を認めた22ウェルを選び、中等度分化型子宮体癌組織2例を免疫組織化学的に染色した。その結果、子宮体癌細胞と反応性を認める2クローン(6-4E, 10-9D)および、体癌細胞と血管内皮細胞に反応性を認める1クローン(5-12H)が得られた。この3クローンを限界希釈法によりクローニングし、安定した反応性を示すモノクローナル抗体を選別した。
6-4Eおよび10-9Dの子宮体癌(中等度分化型:20例)に対する反応性を免疫組織化学的に検討したところ、約半数の症例と反応性を認めた。現在、分化型体癌、未分化型体癌、正常子宮体内膜に対する反応性を検討しつつある段階である。 
また、6-4Eおよび10-9Dの認識抗原を検討する目的で、免疫組織染色を行う際に、あらかじめトリプシンおよび過沃素酸処理を行いその反応性の変化を検討したところ、両MAbともトリプシン処理では無処理に比べ、染色性にほとんど変化が認められなかったのに対し、過沃素酸処理では染色性が消失したことから、認識抗原には糖鎖が関与している可能性が強く示唆された。
近年癌治療の手技として分子標的治療が注目されているが、癌化に伴い細胞に新たに発現してくる分子に高い特異性を有するMAbを作製し、これに毒素や抗癌剤を結合させた免疫複合体を人体に投与し、正常細胞を傷害することなく癌細胞を選択的に殺すことを目的としたミサイル療法は理想的な癌の治療の一つと考えられる。しかしながら、従来より開発されてきたMAbのほとんどがマウス型であり、人体に投与した場合に障害があり、ミサイル療法の臨床応用は実現に至っていない。我々が本研究で用いたCross-bred TC mouseはこの欠点を補うために、ヒト染色体をマウス個体へ導入して発現させるという新たな方法を用いて開発された完全なヒト型抗体を産生し得るマウスである。このCross-bred TC mouseの開発の成功により、ヒト型MAbの作製は現実的となったといえる。
そこで、本研究では、我々が作製した子宮体癌に特異的にしかも高頻度に反応するマウス型MAb(MSN-1)の認識抗原が、癌細胞の細胞膜糖脂質上に高頻度に存在するフコシル化糖鎖(主としてLewisb 型糖鎖)であり、ミサイル療法の標的抗原として望ましい条件を備えていることを明らかにしているので、その認識抗原を高頻度に発現している培養細胞SNG-Sを免疫原としてヒト型MAbの作製に着手した。
今回得られたMAb(6-4E、10-9D)は、現在までの検討結果では、子宮体癌の約半数の症例と反応性を認め、正常子宮体内膜とはほとんど反応性を認めないこと、認識抗原の局在は細胞膜上および細胞質内に認められ、おそらくは糖鎖抗原である可能性が高いということが明らかになっている。
今後は、このMAbの子宮体内膜病変における反応性を多数の症例を対象に検討すると同時に、認識抗原の構造解析を進める。
さらに、現在臨床で繁用されている抗癌剤(タキセン化合物)との免疫複合体を作製し、ミサイル療法への有用性を基礎的に検討していく予定である。
結論
癌のミサイル療法への有用性が期待される優れたヒト型MAbを開発することを本研究の目的とし、共同研究者が世界に先駆けて開発した、完全ヒト型抗体を産生するCross-bred TC mouseを用い、子宮体癌を対象としてヒト型MAbの作製に着手した。その結果、子宮体癌組織と反応し、その認識抗原が癌細胞膜上に存在する糖鎖である可能性が高いヒト型Mabを作製することに成功しつつある。
しかし本研究は未だ緒についたばかりであり、さらに細胞融合を繰り返すと同時に、得られたMAbのミサイル療法への応用の可能性に関して基礎的実験を開始するなど、研究の継続が必至であると考える。

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