病原細菌のコミニュケーションシステムを標的とした医薬品の開発

文献情報

文献番号
200001006A
報告書区分
総括
研究課題名
病原細菌のコミニュケーションシステムを標的とした医薬品の開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 章夫(社団法人 北里研究所基礎研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 該当なし
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最近の研究の結果、バクテリアは低分子の物質を菌体外に分泌し、互いにコミニュケーションを取っていることが明らかになった。この低分子の物質は、autoinducerと呼ばれ精力的に研究が展開されている。本研究の最終的な目標は、autoinducerのなかでもAI-2と呼ばれる構造が未だに明らかにされてない物質の解析を行い、この物質のアナログを創製することを目的としている。AI-2は、バクテリアの中でも最も共通性の高い言語と考えられており、サルモネラ属、ヘリコバクター・ピロリ、エルシニア属、コレラ菌、結核菌、病原血清型大腸菌(EPEC)、腸管出血性大腸菌等に高度に保存されている。AI-2の構造が解析され、そのアナログ体を合成することができれば、バクテリア間のコミュニケーションと病原性発揮のシグナルを遮断することが可能であると思われる。本研究は海洋性細菌のひとつであるVibrio harveyiをバイオセンサーチップとしたautoinducerの検出系を確立し、さらにはautoinducerの単離精製の手法を開発することを目的としている。
研究方法
V. harveyiは、AI-1とAI-2と呼ばれる二つのautoinducerを産生し、菌体外に分泌する。環境中のautoinducerの濃度がある一定のしきい値を超えたときに、各々のautoinducerのセンサーが働きバクテリア内部にシグナルが伝達される。これらシグナルの下流にはルシフェラーゼをコードする遺伝子群が含まれる。そのため環境中のautoinducerの濃度がある一定のしきい値を越えると、シグナルがルシフェラーゼ遺伝子に伝達され、その結果としてV. harveyiは発光する。試験菌となる病原細菌の培養上清を、V. harveyiの培養液中に添加して、数時間培養後に培養液をルミノメーターにて測定し発光度を数値化する。試験菌上清にautoinducerが含まれていれば、発光強度でモニタリングが可能である。また、autoinducerの分画はODSカラムを用いて行ない、これとV. harveyi のバイオアッセイを組み合わせることで、autoinducerの特性を解析した。
結果と考察
V. harveyiがautoinducerの刺激を受け発光するという現象を利用してバイオアッセイを確立することにした。試験菌として、サルモネラ、EPEC、緑膿菌、ボルデテラを用いてV. harveyiの発光を誘導するかについて検討した。LB培地に終濃度0.5%となるようにグルコースを添加すると、autoinducer産生が上昇することが既に報告されているで、0.5%グルコース含有LB培地で上記試験菌を培養し遠心後上清を得た。この培養上清を研究方法に示すようにV. harveyi培養液に加えバイオアッイを行なった。緑膿菌とボルデテラにおいては顕著な活性が認められなかったが、サルモネラとEPECについてはV. harveyiに対して強い発光を誘導した。サルモネラの培養上清を添加した場合、培養開始後6時間でV. harveyiの培養上清添加時よりも約14倍強い活性を示し、EPECにおいては94倍もの活性の高さを示した。また、培養条件を変えてautoinducerの発現を検討したところ、サルモネラにおいてはTryptic soy brothのような栄養に富んだ培地で高い活性を示した。一方、EPECにおいてはTryptic soy brothやLB培地のグルコース濃度を変えても活性の上昇が認められなかったが、グルコースの代わりに0.4 M NaClを添加すると著しい活性の上昇が認められた。このように、autoinducerの強さとそれが発現される環境因子は病原細菌によって大きく異なることが明らかになった。Autoinducerの単離精製を試みるために、ODSカラムによる活性画分の分画を行なった。Autoinducer活性が高いEPECとサルモネラを、0.4 M NaCl含有LB培地100 mlで培養し、培養上清をそれぞれODSカラムに充填し、アセトニトリルで溶出し100
分画した。分画された各溶出液についてバイオアッセイを行なった結果、EPECでは1から40画分の親水性領域に活性が認められたのに対して、サルモネラでは80から100画分の脂溶性画分に活性が認められた。バイオアッセイ再検討の結果、サルモネラに関しては再現性が認められなかったが、EPECについては30から40画分に単一ピークを確認した。現在、EPECで認められた単一ピークの活性画分をNMRで構造解析を進めている段階であるが、これによりEPECが用いる言語を解明できるのではないかと思われる。
結論
V. harveyiが外界のautoinducerを感知して発光するという現象を利用して、病原細菌のautoinducerを解析するシステムを構築した。その結果、病原細菌のautoinducerの発現の強さと、発現を誘導する環境中の刺激は様々であり、これらの多様性が個々の病原細菌の病原性発揮のタイミングと場の違いを与えているものと示唆された。また、考案されたバイオアッセイとODSカラムによる分画による組み合わせにより、autoinducerの特性を大別することができた。これにより、病原細菌のautoinducerの分類が可能となるだけではなく、微量のautoinducerの精製をも可能とした。今後は構築されたシステムにより、EPECのautoinducerの本体を明らかにするばかりではなく、結核等の公衆衛生上危惧されるべき病原細菌のautoinducerの解明を進める予定である。

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