ヒト組織新鮮素材を用いた薬物の作用評価の研究-産学共同のネットワーク作りをめざして-

文献情報

文献番号
200001004A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト組織新鮮素材を用いた薬物の作用評価の研究-産学共同のネットワーク作りをめざして-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
松浦 成昭(大阪大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 門田守人(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 吉川秀樹(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 堀井 明(東北大学大学院医学系研究科)
  • 名川弘一(東京大学大学院医学系研究科)
  • 大石幸彦(東京慈恵会医科大学)
  • 村田厚夫(杏林大学医学部)
  • 今村正之(京都大学大学院医学系研究科)
  • 中島祥介(奈良県立医科大学)
  • 小川道雄(熊本大学医学部)
  • 今岡真義(大阪府立成人病センター)
  • 吉川宣輝(箕面市立病院)
  • 門田卓士(NTT西日本大阪病院)
  • 冨田尚裕(関西労災病院)
  • 金丸 博(住友製薬株式会社総合研究センター)
  • 田中紀子(第一製薬株式会社東京研究開発センター)
  • 福島正和(大鵬薬品工業株式会社第二がん研究所)
  • 藤井敏彦(大日本製薬株式会社開発研究所)
  • 日下雅美(武田薬品工業株式会社創薬第二研究所)
  • 仁藤新治(田辺製薬株式会社創薬研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
37,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は手術あるいは病理剖検時に得られるヒトの新鮮組織を用いることにより、薬物の有効性、安全性を評価する方法を検討していくものである。また、欧米に見られるようなヒト組織のバンクの将来の設立をめざして、産学共同のネットワーク・システム作りを企図するものである。医薬品の研究開発において、ヒトと動物の間に薬物の代謝や反応性に相違が見られ、ヒト組織を用いた薬物の有効性、安全性の検討は欠かせない。本研究により、人体に対する薬物の作用や代謝機序の正確な把握が可能となることから、無用な臨床試験や動物実験の排除、被験者の保護に充分配慮した臨床試験の実施が期待できるとともに、薬物相互作用の予測も可能となる。また、新薬開発を効率化するだけでなく、直接的にヒトの病変部位を用いることによって、疾病メカニズムの解明や治療方法、診断方法の開発などに大きく貢献できるものと期待される。ヒト組織新鮮材料の提供に当たり、通常は手術で摘出された臓器の一部が当てられることになるが、理想的な状態で材料を採取することは通常困難である。すなわち、ヒト組織材料は手術で摘出してから、家族に見せたり、病変を確認するための種々のプロセスを経てから採取され、かなりの時間が経過することになる。本研究の目的の1つは手術標本の時間経過から、どれくらいまで組織材料が利用可能であるか、明らかにすることにある。また、ヒト組織新鮮材料入手に際しての提供者からの同意を得るに際して、インフォームドコンセントの書式および対応する倫理委員会等についての調査研究も行った。
研究方法
手術標本からのヒト組織材料の採取に際して、摘出後の時間経過により、どれくらいまで使用可能か、タンパク質、mRNA、DNAレベルに分けて検討した。さらに、剖検材料から、研究の目的とするタンパク質、mRNA、DNAを得ることが出来るかどうか、基礎的検討を行った。これらの研究は患者に対するインフォームドコンセント等から十分に行うことが難しかったので、動物(マウス、ラット)を用いて、手術標本からの組織材料の採取について、摘出前の血管の結紮、摘出後の状態、時間経過などにより、タンパク質、DNA、RNAがそれぞれどの程度、傷害を受けるかを検討した。また、ヒト組織を用いる研究を実施する研究者および提供する方と考えられる外科医にインタビューを実施し、インフォームドコンセントの書式および倫理委員会の対応などについて、調査を行った。
結果と考察
手術標本からの組織材料については一般的にはタンパク質レベル、 酵素の活性、DNAレベルの解析は手術後12時間くらいは安定であり、十分に行えると考えられた。一方、 mRNAレベルは3時間程度までは問題なかったが、個々のmRNAについてはもっと短い時間で壊れる可能性があり、さらに細かい検討が必要であると考えられる。剖検材料もタンパク質レベル、 DN
Aレベルの解析は十分に行えると考えられた。一方、ヒト由来の組織・細胞とマウスやラットなどの齧歯類とは代謝のパターンに相違点が生じることもあり、マウスやラットのデータをそのままヒトにあてはめることに問題がおこる可能性も考えられ、今後の検討が必要と考えられた。ヒト組織を医薬品の研究開発に用いる場合、提供者である患者より得るインフォームドコンセントのあり方およびその倫理委員会における取扱いが大変重要なポイントであることが強調された。特に手術の摘出範囲に全く影響を及ぼさないことはもちろん、患者情報のプライバシー保護の点から研究者側に伝わる情報と研究から得られた情報をどう扱うかも今後の問題点である。手術そのものが患者の麻酔による意識の及ばない、いわば「密室」での行為であり、背景に医療不信がある限り、組織提供の行為は進まないと考えられる。一方、研究者の立場からは感染症などに対する対策の必要性に関する意見が寄せられた。
結論
手術材料からの時間経過の検討および、剖検材料を用いた検討では、タンパク質レベル、 DNAレベルの解析は採取後12時間後までは十分に行えるが、mRNAレベルは数時間以内に分解され、今後さらに細かい検討を必要とすると考えられた。ヒト組織新鮮材料を研究目的に用いる場合、十分なインフォームドコンセントに基づく患者の理解、倫理委員会の承認を得ることが必要であることが再確認された。特に患者のプライバシー保護、倫理面からの厳重な検討による統一的な書式を作成していくことが大きな課題であると考えられる。

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研究報告書(紙媒体)

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