日本人の肝及び腎の薬物排泄能の個人差と遺伝子多型

文献情報

文献番号
200001002A
報告書区分
総括
研究課題名
日本人の肝及び腎の薬物排泄能の個人差と遺伝子多型
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
遠藤 仁(杏林大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 金井好克(杏林大学医学部)
  • 武田理夫(杏林大学医学部)
  • 細山田真(杏林大学医学部)
  • 車碩鎬(杏林大学医学部)
  • 稲富淳(杏林大学医学部)
  • 金徒慶(杏林大学医学部)
  • 宮ノ下昭彦(手稲渓仁会病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬物トランスポーター分子の発現量と相関すると考えられる表現型(薬物排泄能)の個人差と、薬物トランスポーター遺伝子の遺伝子型の個人差(遺伝子多型)との関連を検討することにより、肝および腎における薬物排泄の個人差に起因する薬物治療時の副作用の発生を予測し回避するシステムの確立がこの研究の最終目標である。我々がcDNAクローニングしたhOAT1は抗生物質や非ステロイド性抗炎症剤などの腎臓からの排泄に主要な役割を演じていると考えられている薬物トランスポーターであり、まずこのhOAT1について遺伝子型の個人差と表現型の個人差について検討し、関連を検討することを本研究の目的とした。
研究方法
・hOAT1遺伝子における遺伝子型の個人差の解析
72名の日本人から本研究に使用することを同意のもとに末梢血からゲノムDNAサンプルを調整した。0.1μgのゲノムサンプルをテンプレートとして多色蛍光PCR-single-strand conformation polymorphism(SSCP)法で一次スクリーニングを行った。具体的には各エクソンが200bp~300bpのPCR産物として増幅できるように24baseプライマーを設計し、センスプライマーとアンチセンスプライマーの5'端に異なる蛍光色素(6-FAMおよびHEX)を結合させた。ただしhOAT1遺伝子の第1エクソンは600bp以上あるために複数のPCR産物で検討した。PCR産物をマルチスクリーンPCR(ミリポア)によって精製し、ABI 310 Genetic Analyzerを用いてキャピラリー電気泳動を未変性条件、30℃で行ない、溶出パターンをGeneScanソフトウェアで解析した。サイズマーカーとしてROX結合GS500(ABI)を同時に泳動した。
ダイレクトシークエンスは蛍光を結合していないプライマーを用いてPCR増幅した後に、BigDye terminatorsequence kit(ABI)でシークエンス反応を行い、反応後DyeExキット(QIAGEN)により精製後、ABI 310 Genetic Analyzerでシークエンス解析を行った。テンプレートとしては上記SSCP産物あるいはゲノムサンプル0.5μgを用いた。
・hOAT1遺伝子における表現型の個人差の解析
hOAT1の表現型は不明であるので、ヒト腎臓におけるhOAT1タンパクの発現量を表現型の指標として検討するために、手術により摘出した日本人の腎臓サンプル4件を入手した。
結果と考察
転写開始点上流約100bpを含むエクソン領域3938bpについて72名のゲノムDNAサンプルからSSCPによる変異の検索を行った結果、図に示したように6ケ所のSNPsを同定することが出来た。その内訳は5'非翻訳領域に2ケ所のSNPsと1ケ所のvariant、イントロン5および8にSNPs(intron SNPs)、およびエクソン6にアミノ酸変異を伴うcoding SNP (cSNPs)である。さらに3ケ所についてSNPsの存在が予想された。アレル頻度がSSCPによって判明しているものについては図に示したとおりである。
例えば毛細胆管上の薬物トランスポーターであるMRP2の変異が、体質性黄疸であるDubin-Johnson症候群と関連するといったような遺伝子の変異に伴う表現型の変化についての知見が、hOAT1ではまだ不明である。したがって表現型を指標に遺伝子型の変異体を選別してくることが出来ないので、遺伝子変異体の発見には大量のサンプルを検討する必要があり、スクリーニングの効率化が要求される。本研究については一次スクリーニングとして多色蛍光PCR-single-strand conformation polymorphism(SSCP)法を行うことによりスクリーニングの効率化を計ったが、false-negativeが問題となり、実際本研究においても、エクソン6におけるcSNPsはSSCPで検出することができなかった。false-negativeの少ない遺伝子変異の検出法の検討が要求されるほかに、hOAT1の表現型の情報が活用できるようになった場合にはダイレクトシークエンスによる変異検索が必要になると考えられる。
表現型の変異については1.親和性の変化など輸送活性の変化(質の変化)、2.発現量の変化、の2種類があるが、1.についてはcSNPsによるhOAT1タンパクのアミノ酸変異や、共役タンパクの変化が関与する場合があげられる。hOAT1について共役タンパクの存在は想定されていないので、cSNPsによるhOAT1タンパクのアミノ酸変異について検討すれば良い。アミノ酸変異を導入した遺伝子機能をツメガエル卵母細胞発現系やほ乳動物細胞発現系で検討することにより、生体での機能変化を類推することが可能であり、エクソン6のcSNPsに伴うアミノ酸変異については今後変異体を作成し機能を検討する予定である。2.については摘出組織を用いてhOAT1発現量の検討を予定している。発現量の変化はシス因子、すなわちプロモーター領域やエンハンサーあるいはサプレッサー領域のSNPs(すなわちregulatory SNPs)が関与するが、プロモーター領域やエンハンサー、サプレッサー領域の同定が先に必要であり、今後の検討課題である。またトランス因子の発現量の変化も関与するが、トランス因子の同定が必要である。
結論
腎臓において薬物の尿細管分泌に関与すると考えられるhOAT1遺伝子について多色蛍光PCR-SSCPによりSNPsの検出を行った。72名の日本人のゲノムDNAサンプルより5'非翻訳領域に2ケ所のSNPsと1ケ所のvariant、イントロン5および8にintron SNPs、およびエクソン6にアミノ酸変異を伴うcoding SNP を認めた。

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