日本におけるヒト肝細胞の保存・管理に関する基準の検討

文献情報

文献番号
200001001A
報告書区分
総括
研究課題名
日本におけるヒト肝細胞の保存・管理に関する基準の検討
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小林 英司(自治医科大学分子病態治療研究センター臓器置換研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 田中紘一(京都大学医学部移植免疫学講座)
  • 河原崎秀雄(東京大学医学部附属病院小児外科)
  • 藤村昭夫(自治医科大学臨床薬理学教室)
  • 斎藤健(自治医科大学病理学教室)
  • 絵野沢伸(国立小児病院小児医療研究センター実験外科生体工学部)
  • 小澤敬也(自治医科大学血液学教室)
  • 安原一(昭和大学医学部第二薬理学)
  • 佐藤哲男(HAB協議会附属霊長類機能研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
45,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト組織(細胞)は医薬品開発やポストゲノムの研究試料として必須である。平成9年12月に出された「手術等で摘出されたヒト組織を用いた研究開発のあり方について」の答申を受け、我が国においてヒト組織の研究利用の公共システム、特に「肝組織の研究利用」のそれが可能であるか否かを検討した。
研究方法
平成12年度は、昨年度開始した動物実験及びヒト組織を利用した基礎臨床研究の推進に加え、よりバンク化しやすい組織収集を通してバンク化のパイロット研究を行った。①動物実験による組織(肝、小腸)の処理、保存基準の検討(小林)②ヒト細胞を利用した人工臓器の開発(藤村)③既に切除されていた転移性肝癌の切除範囲についての病理学的検討(斎藤)④ヒト臓器・組織利用に際してのインフォームド・コンセントの取得法に関する検討(安原)⑤診断目的の採取組織の研究への利活用法(田中、河原崎)⑥バンク構築が可能と考えられる試料とその採取(扁桃:絵野沢、臍帯血:小澤)⑦ヒト肝組織におけるチトクロームP450の遺伝子解析(佐藤)⑧情報の匿名化の具体的検討(小林)。
結果と考察
①動物を用いた実験により以下のことが明らかになった。(ⅰ)ラット肝ミクロゾームタンパク収率及びチトクローム活性は、摘出肝を4℃に保持することで4 時間までほぼ変化なく保つことができた。(ⅱ)ラット新生仔小腸は、摘出後組織のまま凍結保存(1ヶ月以上)しても、再移植により腸管としての機能を再構築できた。(ⅲ)約10kgのブタを使用し摘出肝にコラゲナーゼ灌流を行ったが、約90%の細胞生存率として肝細胞が得られた。細胞数としては、湿重量10gに対し約109細胞程度であった。したがってヒト組織において以下の2点が考えられた。肝組織の場合、摘出(切除)後は、肝細胞への分離までの間は、まずクールダウン(4℃)に保持することにより数時間単位でそのバイアビリティーを維持できる。その間に切除範囲に対する妥当性を証明することが重要である。②ヒト培養細胞を用いた人工臓器開発を行うために、MRP-2と共通の膜貫通部位をもつホモロジー cDNAをgene bankよりスクリーニングし、ヒト脳より未知遺伝子として登録されていたクローンを発見し全長を求めた。さらに、機能をXenopus oocyte 発現系で解析した。③最近10年間の転移性肝癌の切除標本(58例)の検討では、手術自体の縮小化があり、研究利用可能となる正常部分が少なくなる傾向にあった。したがって、肝細胞へのハンドリングを行う前に切除肝の切除範囲の妥当性を証明する必要があると考えられた。④ヒト組織の提供を受ける際の提供者のプライバシーの保護と権利の保障を念頭に置いた同意説明文書及び同意書のモデルの作成を行い、問題等の検討を試みた。⑤生体肝移植の研究試料としては、末梢血液よりリンパ球及び血清を用い、前者は免疫抑制薬の感受性試験、後者は内因性免疫抑制物質の同定を行った。また診断目的に保存されている既存肝組織に関しては、今後の研究利用に対し、文章配布による同意を得た。今後、文書配布による同意は説明への限界があり、手術前からの研究利用に対する同意が必須であった。⑥扁桃や臍帯血などはバンク構築しやすい組織であり、前者では実際に多目的使用のためのバンク化の同意、サンプルを収集した(17検体公共利用可能)。臍帯
血についても研究利用に関し多くの同意が得られた(29検体凍結)。このように摘出組織の中には、公共利用可能なシステムを構築しやすいものあがり、また公共的には既存のシステム(臍帯血バンクなど)を利用することで実現化が極めて高いと判定された。⑦供給された米国人ヒト肝臓15サンプル及び日本人肝細胞癌患者15名(聖マリアンナ医科大学との共同研究として入手)の非癌部位サンプルを用いてCYP3Aサブファミリーの人種差を比較検討した。CYP3A5は白人では40%を、日本人では33%をしめており、両者には人種差は見られなかった。CYP3A7については、白人で67%、日本人で93%でありその蛋白量はCYP3A4に比べて低かった。⑧患者試料の厳重な匿名化を行うためにコンピューターソフト Secure Clinical Data Transfer System(SCTS)21を開発した。本器は先にミレミアム研究用として開発されたSNP2000をベースに匿名化のパッケージ部を改良し、三井情報開発と共同開発した。保存される情報はRelational Data Baseとして256ビット鍵の暗号化により厳格に情報管理される。本器プロトタイプを用いて実際の試料サンプル(肝、血液、など)の匿名化を行った。本器はSNP2000と比し極めて安価に販売可能であり、多くの患者試料提供施設への普及が可能と判断された。
結論
日本におけるヒト組織バンクシステム構築のためには組織摘出機関と研究機関の機能をあわせ持つ組織作りが不可欠と判断した。その組織内の必須用件としては、①適切なインフォームド・コンセントと個人情報の匿名化②切除標本の妥当性の確認(病理医による切除標本の割面等の写真資料等)。これらは、患者と医師の信頼関係に基づき医療機関が行うものである。更に提供される試料が具体的にバンク化されるためには、③教育病院に勤務する研究者は、積極的にバンクとsharingできる体制にする。④バンクは公的なものである必要がある。⑤組織の提供に対する国民の理解を得るために、ヒト組織の研究利用に対する啓蒙運動が必須である。(尚、平成12年度は、本研究成果を患者及びその家族に報告する発表会を開催した)。これらの条件を全国的規模で早急に整え、透明で公正なシステム作りが不可欠である。

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