高機能保持ヒト由来肝培養細胞株を用いた薬物の有効性、安全性評価法の確立

文献情報

文献番号
200000998A
報告書区分
総括
研究課題名
高機能保持ヒト由来肝培養細胞株を用いた薬物の有効性、安全性評価法の確立
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
永森 静志(杏林大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 蓮村哲(東京慈恵会医科大学)
  • 松浦知和(東京慈恵会医科大学)
  • 川田雅昭(東京慈恵会医科大学)
  • 宮崎正博(岡山大学医学部)
  • 梅田誠(食品薬品安全センター秦野研究所)
  • 佐々木澄志(食品薬品安全センター秦野研究所)
  • 本間正充(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 千葉寛(千葉大学薬学部)
  • 細川正清(千葉大学薬学部)
  • 吉田彪(中外製薬(株))
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
37,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト肝細胞を用いてリアクター装置を構築し、医薬品や各種化学物質が肝細胞の機能に与える影響、肝細胞による有害物質への変換等を検定する方法を開発し、創薬研究に応用することである。(1)薬物の効果判定、安全性を評価するための装置の確立と、(2)ヒト肝由来培養細胞による、薬物の効果判定、安全性評価法の基礎的検討を行う事を目標として研究を行った。
研究方法
装置は小型ラジアルフロー型バイオリアクターの設計、試作を行い、3次元培養の至適担体は従来使用していた多孔質ガラスビーズ(シラン)にかわるヒト組織親和性の高い多孔質ヒドロキシアパタイトビーズを試作し、バイオリアクターでの有用性を検討した。 機能細胞の開発は、FLC細胞よりクローニング技術を用いて高機能保有クローン細胞の選択を行った。一方ヒト正常肝に遺伝子導入を行い不死化機能肝細胞の樹立を行った。
FLC4,5,7各細胞の薬物代謝能や薬物代謝酵素(CYPやcarboxylesterase:CES等)の分子種につき数種の基質代謝活性や、その発現調節機構についてreporter geneを用い検討。各細胞の差異はpromoter領域の遺伝子解析を行い検討した。 安全性評価法の基礎的検討には変異原性物質の検出目的でFLC細胞との共培養によるチャイニーズハムスターV79細胞突然変異試験法の開発を行った。FLC細胞を用いたcII遺伝子をターゲットとした遺伝子突然変異の検出法を開発を試みた。
結果と考察
リアクター本体の小型化は30ml、5mlを作成した。それぞれについて機能を検討し30mlリアクターでは従来の中型リアクターと同レベルの機能が発現されることをアルブミン産生能の比較で確認した。 担体の開発は従来使用中のシランに類似の空隙率と孔径を有するハイドロキシアパタイト担体を開発。ラジアルフロー型バイオリアクターに充填しFLC細胞を培養したところ細胞は密に3次元配列し表面には発達した微絨毛が観察された。FLC-4と7細胞より10数個の細胞群をクローニングした。薬物がFLC細胞(各クローンを含む)により代謝活性化される現象を、培養細胞を用いて検索する方法の確立を目的とした。ラジアルフロー型バイオリアクターで培養したヒト肝由来細胞がヒト肝に特異的なCYPsとCESの分子種の高保持を蛋白レベルと酵素活性レベルで確認できた。FLC-5を用いて、ヒトCYP分子種の約30%を占めるCYP3Aの薬物相互作用を検討する系を構築した。
高機能不死化ヒト肝細胞株の樹立。薬物の有効性、安全性を適正に評価するためにはヒト胎児肝臓の培養肝細胞にsimian virus 40large T antigen (SV40Tag) 及び neomycin hosphotransferaseの遺伝子を含むplasmid DNA pSV3neoをリポフェクション法によりトランスフェクションしてヒト不死化肝細胞株(OUMS-29)を樹立した。3次元培養すると、尿素の産生が時間依存的に増加を認めた。ヒト肝臓のcDNAライブラリーよりクローニングした肝転写因子HNF4α遺伝子を、リポフェクション法によりOUMS-29細胞に導入したH-11細胞株は親細胞株OUMS-29には見られないアポリポプロテインAI (ApoAI)、poCII、ApoCIII遺伝子を発現した。さらにHNF1α, human blood coagulation factor X, α1-antitrypsinなどの遺伝子発現が顕著に増加した。H-11細胞株は親株OUMS-29よりさらに高分化型であり、薬物の有効性、安全性評価に極めて有用な細胞系であると考えられた。 FLC細胞株を用いた一般毒性、変異原性形質転換の解析を行った。1)ミクロゾーム経由法において突然変異率はS9濃度により変化し各変異原物質ごとに最適な濃度がある。2)ミクロゾーム経由法とFLC-V79法において、変異原物質の用量依存性は、FLC-V79法の方が通常の突然変異試験法より高い突然変異率を示した。V79細胞が突然変異するには、FLC細胞との接触が必要であることが分かった。FLC細胞は細胞経由法を用いた突然変異試験に応用出来ることが示された。特に、芳香族炭化水素の突然変異原性を調べる上で、有用な実験系となることが示唆された。他の変異原物質はあまりよく検出されなかった。今後、FLC細胞の代謝活性化系をコメットアッセイに応用し、変異原物質がよく検出をも検討する。この系でFLC細胞での薬物代謝に関する機能特性の検討をした。FLC細胞においてはチトクロームP450の分子種、数種が発現されていることを蛋白レベルと代謝活性の基質特異性から証明し、それらの一部はプロトンポンプインヒビター等により酵素誘導が生じることを確認した。CES発現は、各FLC細胞のpromotor geneの領域に細胞株間で差異があり、その発現調節機構に個人差のあることを明らかにした。
すでにヒトのin vivoにおいてCYP1Aの誘導が報告されているomeprazole、および3種のPPIを用いて検討を行った。その結果、用いた細胞全てにおいてEROD活性が上昇し、さらに、CYP1A1含量およびmRNAの増加が全ての細胞において確認された。 CYP3Aに関しては、誘導剤として rifampicinを添加、FLC7においてtestosterone 6b-水酸化活性の上昇ならびにCYP3A含量の濃度依存的な増加が認めた。結果から、FLC細胞株においてCYP1A1ならびにCYP3Aの酵素誘導能を持つことが明らかとなり、FLC細胞が酵素誘導のin vitroモデル系として利用できる可能性が示唆された。
CES活性とヒト肝に発現している主要なCESアイソザイムであるHU1の発現量を調べたところ、著しい差異が認められた。FLC細胞株の核タンパク抽出液中にCESHU1の発現調節領域と特異的に結合する転写因子が存在することが明らかになった。これら4種の細胞株のゲノムDNAから得られたCES HU1の5'上流領域を調べたところ、Sp1, HNF-1, HNF-3, AP-1, AP2, HNF-2, C/EBPなどの転写調節因子の結合しうる配列およびイニシエーターの配列が認め、これらの配列が肝細胞においてCES HU1の転写を調節している可能性が示唆された。
さらに、細胞間でのCES HU1の発現量の差異が、CES HU1遺伝子の5'上流領域にあるDNA配列の遺伝子多型に基づくものと推察されたことから、これらの細胞株がin vitroでのヒト個人差解明のモデル細胞系として有用である可能性が示唆された。
医薬品や環境汚染物質等の安全性に関わる検索。特に、ほ乳類細胞を用いた遺伝子突然変異の研究に関してはin vitro、in vivo試験系で多くの新しい方法を開発してきた。FLC-4, FLC-5, およびFLC-7にラムダファージベクターを導入するための条件検討。その結果、ほ乳類細胞で選択可能な遺伝マーカーをもつZap expressベクターが最適であり、トランスフェクションの条件を確立した。ヒト肝細胞株FLC-4, FLC-5, およびFLC-7にラムダファージベクター Zap expressをトランスフェクションし、ゲノム上に安定して組み込まれた細胞のクローニング。それら細胞を用いて、ラムダファージ上に存在するlacZ遺伝子、もしくはcII遺伝子をターゲットとした遺伝子突然変異試験が可能を検討。得られた変異体に関して、突然変異を遺伝子レベルで解析している。このシステムの有利な点は、初代肝細胞よりはるかに扱いやすく、機能も安定していることである。またFLC4細胞は無血清培地での培養が可能なので血清蛋白の影響を除外して検討も可能であり、逆に蛋白を添加すればin vivoでの環境に似せて検討も可能である。さらに担体を組織親和性のよいものに変えることにより一層ヒト肝近似の環境を作成できる可能性を有している。
結論
ラジアルフロー型バイオリアクターの小型化とヒドロキシアパタイト担体の開発を行い優秀な機能を有する事を確認した。リアクターに播種するヒト肝由来細胞についてはFLC細胞の詳細な性状の検索、FLC細胞からの新たなクローン株の開発、ヒト性状肝由来不死化細胞樹立が樹立できた。
薬物の効果判定、安全性評価判定のための、FLC細胞の薬物代謝酵素活性の確認と、FLC細胞を用いた突然変異評価法の確立のための基礎的技術を確立できた。

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