酸性多糖類の医用材料としての応用に関する基礎的研究

文献情報

文献番号
200000996A
報告書区分
総括
研究課題名
酸性多糖類の医用材料としての応用に関する基礎的研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
四方田 千佳子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 米勢政勝(名古屋市立大学薬学部)
  • 中村純三(長崎大学薬学部)
  • 大木誠(生化学工業株)
  • 小西良士(帝國製薬株)
  • 奈田光正(第一製薬株)
  • 森岡茂夫(ロート製薬株)
  • 馬場一彦(大鵬薬品工業株)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
8,178,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
天然由来の酸性多糖類のいくつかは、医薬品あるいは医薬品添加剤として使用されている。これらは安全性、生体適合性に優れており、また分子内に有する荷電基が他物質と多彩な相互作用を起こし、応用が期待される。本研究では、医薬品やタンパク質との相互作用による構造形成やゲル生成機構について詳細に検討するとともに、経口剤、点眼薬としての有用性評価、新規薬物送達システムの開発、貼付剤のヒト臨床試験などを行い、製剤分野における応用の可能性を探った。
研究方法
酸性多糖と医薬品との相互作用の解明には、光散乱、X線散乱、赤外吸収スペクトル測定など光学的手法および水晶発振子微小天秤、原子間力顕微鏡、熱分析などの装置を用いて行った。また粘度検出器と光散乱検出器とを同時に用いた分子形態と分子量の関連づけから、水溶性高分子のキャラクタリゼーションへ展開した。製剤的応用面では、ラット、マウス、家兔を用いたin vitroあるいはin vivo試験による臓器傷害性評価、特定部位への局所投与における薬物吸収動態や吸収に影響する因子に関する系統的な検討、点眼剤の薬物滞留性などに最適と考えられる酸性多糖の選定を行った。また、貼付剤の実用化に向け、アレルギー性皮膚炎、尋常性乾癬への適用を目指した臨床試験を実施中である。
結果と考察
(1)酸性多糖水溶液と医薬品の相互作用 複合体形成あるいはその薬物放出性について、分子長の異なるジアミン類とデキストラン硫酸を用いて検討を行った。両者の混合により形成される複合体の粒子径は薬物の電離基間距離に影響されなかったが、ジアミン濃度の増加により減少した。複合体からの薬物放出はイオン強度を高めるほど増加したが、pHによる差異は認められなかった。
(2)酸性多糖ゲルの調製と医薬品との相互作用 医薬品との相互作用によって収縮したヒアルロン酸(HA)架橋ゲル中での構造形成を、X線散乱測定により捉えた。界面活性性の強いセチルピリジニウム(CPC)では、規則的な繰り返し構造が確認された。HAゲルを収縮させる医薬品はゲル中にアモルファス状態で存在し、疎水的相互作用によりミセル様構造を形成していると推察された。さらに、吸着医薬品の構造形成が医薬品放出挙動に及ぼす影響を検討したところ、プロマジンではイオン強度の増加につれて放出が多くなったが、CPCでは逆にイオン強度の増加により放出が抑制され、0.5MNaClという異常に高いイオン強度になって初めて放出が認められた。放出挙動の差には、HAゲル中での疎水基会合性の差異が起因すると考えられ、CPCのようにゲル中で構造形成をしている場合には、放出が強く抑制されると推測された。また、HAとドキシサイクリン(DC)、二価カチオンの混合による含水ゲルの形成は、HA分子鎖上に結合したDCの二価カチオンを介した配位結合性の架橋によるものと推察し、ゲル形成に必要な組成条件の詳細を検討した。HA(分子量160万)は0.1%以上、DCはHAの等量以上、二価金属イオンはDC濃度の半量以上必要であった。さらに、このゲルの創傷治癒効果を評価したところ、肉芽形成、血管新生などは行われていたものの治癒遅延が認められ、原因としてゲルから滲出した水の影響が考えられた。ゲルの崩壊による滲出水分の制御を考慮することにより、外用製剤としての応用が期待された。
(3)酸性多糖とBSAからなる構造体形成 酸性多糖のナノ構造形成について、飽和BSA単分子膜へのHAの吸着を分子量の異なるHAあるいはコンドロイチン硫酸ナトリウム(Chs)を用いて測定した。HA、Chs分子ともにBSA膜表面で規則的な網目構造を形成し、網目サイズは分子量が小さくなるほど小さくなった。飽和BSA膜上のHA吸着層の表面張力はHA分子量に顕著に依存し、分子量85万の場合にはHA吸着量が増加するに従い接着力と表面張力は減少したが、分子量21万の場合には逆に増加した。Chsの場合は、吸着量の増加に従い表面張力は増加した。酸性多糖の電離基密度の増加とともに、γは増加すると考えられた。膜表面構造を原子間力顕微鏡で観察したところ、1個のHA-BSA複合体粒子は、粒子表面の1.2個のBSAを介してPMLG膜へ吸着していることが明らかとなった。
(4)医薬品の非晶質状態に及ぼす多糖類の影響 非晶質状態の薬物(TAS-301)の安定性に及ぼすセルロース誘導体の効果について検討を行った。固体分散体、溶液状態のどちらにおいても、HPMCP>HPMC>HPCの順でTAS-301の結晶化速度を遅延させた。熱分析の結果から、ガラス転移温度の高い固体分散体ほど非晶質状態が安定に保持されることが明らかとなった。FT-IRおよびFT-ラマン測定により、薬物の親水性および疎水性部分が、高分子の親水性および疎水性部分とそれぞれ相互作用して非晶質状態が維持されていることが示唆された。
(5)酸性多糖類の粘度検出器による特性評価の試み 粘度検出器および光散乱検出器、示差屈折計を備えたサイズ排除クロマトグラフィーを用い、比較的低分子の酸性多糖であるChsの解析を試みた。注射剤および高純度Chs試薬を測定したところ、分子量、粘度ともに再現性良く、妥当と考えられる結果が得られた。荷電性の高分子であっても分子量の比較的小さなものは、90度光散乱装置のみで充分な評価が可能であると考えられた。
(6)医薬品結合HAの合成とin vivo有用性評価 HAへのインドメタシン(Ind)導入率を高めるほど、経口投与後の血中への移行は遅れる傾向が示された。導入率の異なる3種類のInd-HAを等量混合した製剤につき、酢酸ライジング法を用いて鎮痛効果を検討したところ、Ind-HA剤は投与後48時間においても有意な効果が認められた。また、胃粘膜障害性がInd単味に比べて有意に低減した。Ind-HAは腸内細菌由来のヒアルロニダーゼにより低分子化された後、吸収され、HA断片が結合したまま、あるいは肝臓や血清中のエステラーゼによりエステル結合が切断されたフリーのIndの状態で血中に存在し、薬理効果を示していると考えられる。HPLCによる分析では、48時間後にフリーのIndがほとんど検出されなかったため、LC/MSなどの手法を用いた存在様式の解析が課題として残された。
(7)前眼部におけるDDS製剤の研究 涙液成分、特に一価のイオンとの相互作用による増粘効果を利用して実用化されているカラギナン(Cr)と比較した場合、アルギン酸ナトリウム(Al)やペクチン(Pe)ではカルシウムイオンによる増粘効果に一価イオンの影響が認められず、温度依存性も低いことが明らかとなった。フルオレセイン含有の酸性多糖水溶液を家兎に点眼した前眼部滞留性の評価では、Al、Pe、Crともに蛍光強度の減少は緩やかであり、薬物滞留性の向上が期待できる結果となった。AlやCrでは眼組織に存在するムチンとの相互作用も推察され、イオンのみによる滞留性の増大以上の効果も示唆された。Peはイオンとの作用による増粘後も非ニュートン流動性を有し、異物感の小さい流動特性付与が可能と考えられた。これらの酸性多糖は、汎用されるセルロース系の増粘剤よりも有用であるとの結果が得られた。
(8)多糖類を利用した肝臓への薬物送達 In vitro透析膜透過実験では、粘性添加剤により薬物放出が制御できる可能性が示された。そこで、肝臓表面投与における吸収動態への影響について検討したところ、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)あるいはポリビニルアルコール(PVA)を加えた場合、モデル薬物(フェノールレッド、PR)のCmaxが大きく低下し、血漿中からの消失は粘性剤未添加の場合よりも遅延した。特に15%PVAでこの傾向は顕著であり、PRの胆汁中排泄速度および累積排泄率は未添加の場合に比べ、有意に低下した。また、CMCあるいはPVAを添加した場合にも、一次吸収過程を組み込んだ2-コンパートメントモデルによる解析が可能であることが明らかとなった。
(9)ヒアルロン酸含有外用製剤の臨床応用 HAを添加剤として用いた吉草酸ベタメタゾン含有貼付剤について、アレルギー性接触皮膚炎、尋常性乾癬、蒼白化試験を実施し、臨床評価を行っている。臨床試験に先立ち、健常人におけるパッチテストを実施したところ、刺激性に問題はなかった。また、吉草酸ベタメタゾンの血漿中濃度は、検出下限値以下であった。臨床評価の結果は現在報告待ちの状況だが、特に問題はなく、実用化可能の評価が得られるものと思われる。本貼付剤は米国FDAにも申請中であり、近々臨床評価が予定されている。
結論
酸性多糖とある種の医薬品とが特異的な相互作用を起こすことを見い出し、その特性を光学的あるいは電気的な手法を用いて捉えた。また、胃粘膜傷害性を著しく軽減できるInd-HA経口製剤や、酸性多糖の増粘性を利用した薬物滞留性の優れた点眼剤創出の可能性、および臓器表面からの薬物送達を利用した新規投与システムの開発につき、基礎的なデータを提供した。さらにHA含有貼付剤の臨床試験を行い、実用可能な評価が期待されている。

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