血液凝固線溶制御因子に関する基礎的研究並びに関連医薬品の有用性確保及び診断技術の確立

文献情報

文献番号
200000995A
報告書区分
総括
研究課題名
血液凝固線溶制御因子に関する基礎的研究並びに関連医薬品の有用性確保及び診断技術の確立
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
内田 恵理子(国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部)
研究分担者(所属機関)
  • 早川堯夫(国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部)
  • 石井明子(国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部)
  • 真弓忠範(大阪大学薬学部)
  • 鈴木宏治(三重大学医学部)
  • 森田隆司(明治薬科大学 薬学部)
  • 徳村 彰(徳島大学薬学部)
  • 亀山松寿(ウエルファイド(株)創薬研究所)
  • 山田 弘(ファイザー製薬(株)中央研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血液凝固線溶系の制御を細胞及び液性因子の両側面から捉え、医薬品の開発、有用性確保、診断技術の確立を目指した以下の検討を行った。(1)血小板、血液凝固因子、及び、それらの活性を制御する血管内皮細胞などの血管壁細胞の機能について、血栓形成の防止策を念頭においた基礎的研究を行い、新たな抗血栓療法の手がかりを見出す。(2)血液凝固線溶制御に関連する医薬品をbioconjugateすることにより作用の選択性増加と副作用の軽減をはかり、医薬品としての有用性・安全性を確保するための基盤技術を確立する。(3)血栓症治療の向上に必須である抗凝固療法時の血液凝固能モニター法の確立を目指し、精度の高い血中正常プロトロンビン定量法の開発と臨床応用のための研究を行う。
研究方法
血小板の調製、凝集能の測定:Hepes-Tyrode液を用いた遠心法により洗浄血小板を調製した。凝集および形態変化は、透光率の変化により測定した。;ラットの肝臓及び腎臓組織切片へのアンチトロンビン(AT)及びヘパリンコファクターII(HCII)の結合:組織切片とATあるいはHCIIをincubationした後、それぞれの抗体により結合部位を検出した。;気道のリモデリングにおけるトロンビンの影響:培養上皮細胞およびヒト鼻粘膜上皮細胞をトロンビンで刺激し、その培養上清をCM (Conditioned Medium)として用いた。CM中の増殖因子は、各増殖因子に対する抗体を用いて同定した。;Bioconjugationによる血液凝固線溶制御関連医薬品の改良:ラジカル重合法によりポリビニルピロリドン(PVP)をジメチル無水マレイン酸(DMMAn)で修飾し、薬物徐放能および標的指向性を評価した。;新規血液凝固能測定法の確立(CA-1法):試料血漿にCaCl2、Boc-Val-Pro-Arg-p-nitroanilideを加え、37℃で2分インキュベートした後、carinactivase-1(CA-1)を加えて405nmの吸光度を測定した。
結果と考察
(1)血小板ならびに血管壁細胞の機能制御による抗血栓療法の考案;(1.1)プラスミンによる血小板凝集の機構:プラスミンによる血小板形態変化の機構について解析し、形態変化を起こすシグナルには、Ca2+依存性の経路と共にCa2+非依存性の経路が存在し、後者においては、Rho-kinaseが関与していることが明らかとなり、plasminogen activatorによる血栓溶解剤投与後の再閉塞防止にRho-kinase阻害剤が有効である可能性が示唆された。(1.2)血小板凝集能の動物種差に関する検討:モルモット血小板では、ヒト血小板と同様にADPとプラスミンの相乗作用が認められ、モルモット血小板がヒト血小板に代わる研究材料として有用であると考えられた。(1.3)リゾホスファチジン酸(LPA)による血小板凝集機構の解明:ヒト血小板のLPA応答性を検討したところ、アルキルLPAに不応答の血小板の存在が発見され、血小板にはアルキルLPAとアシルLPA を認識する2種類の受容体が存在することが示唆された。また、ホスホリパーゼA2阻害剤への感受性の違いから、両受容体が異なる情報伝達系を持つと考えられた。(1.4)抗凝固因子の血管内皮細胞への作用の解析: ATとHCⅡの肝臓及び腎臓での結合部位を調べたところ、肝臓ではATとHCⅡが共に中心静脈壁及び小葉間結合組織周辺に結合したのに対して、腎臓では、ATは腎臓髄質に、HCⅡではボーマン嚢周辺にと、異なった部位に結合した。LPS投与により組織へのATの結合は顕著
に低下したが、HCⅡの結合は低下せず、LPSにより傷害された血管ではATよりHCⅡの抗凝固作用が重要であると考えられた。(1.5)気道のリモデリングにおけるトロンビンの影響:トロンビン刺激した気道上皮細胞の培養上清にはトロンビン濃度依存性に肺線維芽細胞や気管支平滑筋細胞の増殖促進活性が認められ、この増殖活性の大半が抗PDGF抗体で抑制されたことから、トロンビン刺激上皮細胞から分泌されるPDGFが線維芽細胞や平滑筋細胞の増殖促進因子である可能性が強く示唆され、トロンビンがPDGF産生を介して組織リモデリングに関与していると考えられた。(2)Bioconjugationによる血液凝固線溶制御関連医薬品の改良:pH依存的な薬物放出能を持つDMMAnをPVPに導入し、その特性を評価した。モデル薬物としてLYC(Lucifer Yellow Cadaverine)を用いてDMMAn導入PVPのpH応答性を評価したところ、DMMAn導入PVPはpH依存的にLYCをreleaseしており、DMMAnのアミノ基徐放化能がPVPに付与されていることが確認できた。生理的に近い条件でDMMAn導入PVPの徐放化能と経日的な徐放化パターンを評価したところ、pH7.2の緩衝液中あるいは血清中のいずれにおいてもDMMAn導入PVPは薬物を徐放化し得ることが示された。また、DMMAnの導入率の増加に従いLYCの徐放化速度が高まることが判明した。DMMAn導入PVP の体内動態を調べたところ、高い腎移行性を示すことが判明した。また、DMMAn導入PVPは、in vitroで10mg/mlという濃度の条件においても全く細胞傷害性を示さず、1g/kgでマウスに尾静脈内投与した際でも腎毒性を示さなかったことから安全性が高いことが示唆された。以上のことからDMMAn導入PVPは安全性に優れ、標的指向化能と徐放化能を同時に有するバイオコンジュゲーション用の新規デバイスとして有用であると考えられた。(3)新規血液凝固能測定法の確立 :カルシウム依存性プロトロンビン活性化酵素を用いた正常プロトロンビンの定量法(CA-1法)を確立し、臨床検体を用いてその有用性を検討した。正常人の血漿プロトロンビン濃度を測定した結果、その濃度は70~140μg/mlの広い範囲にあり、平均値が112.8μg/mlであることがわかった。ワーファリン単独治療患者とワーファリンと抗血小板薬併用患者について血小板薬の血漿プロトロンビン濃度に与える影響について検討を行ったところ、血漿プロトロンビン濃度はワーファリン単独治療群と抗血小板薬併用群で差が認められず、抗血小板薬は血漿プロトロンビン濃度に影響を与えないと考えられた。さらに、ワーファリン内服中の患者に対し、血漿プロトロンビン濃度と加齢に伴うワーファリン感受性増加の関連について検討したところ、ワーファリン投与群、非投与群いずれにおいても、高齢者と若年者で血漿プロトロンビン濃度に有意差が認められなかったことから、高齢者におけるワーファリンの作用増強の原因として、吸収と代謝の低下が考えられた。
結論
(1)プラスミンによる血小板形態変化には、Ca2+依存性の経路と非依存性の経路があり、後者にはRho-kinaseが関与していることが明らかとなった。プラスミンが関与する血小板凝集機構の評価においては、モルモット血小板がヒトの血小板の代替になり得る可能性が示された。血小板のLPA応答性には個体差があり、アルキルLPAに不応答の血小板を持つ人が存在することが分かった。また、アルキルLPAとアシルLPAが送達するシグナルが部分的に異なることが明らかとなった。肝臓では、ATとHCⅡはいずれも中心静脈及び小葉間結合組織に結合していた。腎臓では、ATは腎臓髄質、HCⅡではボーマン嚢周辺と、異なった部位に結合した。AT結合はLPSによる血管障害により顕著に低下するのに対して、HCⅡの結合はその影響を受けにくいことも明らかとなった。気道のリモデリングにおいては、気道粘液中に増加するトロンビンが気道上皮からのPDGFの分泌を促進し、それによって基底膜下の線維芽細胞や平滑筋細胞の増殖が促進されることが明らかになった。(2)Bioconjugation 用デバイスDMMAn導入PVPが、生理的条件で薬物を徐放する機能を有しているとともに、高い腎移行性を有すること、細胞傷害性を示さ
ないことが明らかになり、新規デバイスとしての有用性が示された。(3)ヒト血漿プロトロンビン濃度を測定し、平均値112.8μg/mlであることを明らかにした。また、抗血小板薬を併用した場合の抗凝固療法患者の血漿プロトロンビン濃度、高齢者に対するワーファリンによる抗凝固療法での血漿プロトロンビン濃度をCA-1法で測定した結果、いずれの場合の抗凝固療法で管理されている患者由来の血漿でもプロトロンビン濃度を正確に測定できることが明らかとなり、本法の臨床上の有効性が非常に高いことが示された。以上、血小板、血管内皮などの細胞や凝固線溶制御因子を対象に、血液凝固線溶制御関連医薬品の開発、有用性確保、診断技術の確立につながる有効な知見が得られた。

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