循環型社会に対応した有機性廃棄物の資源化処理システムの開発

文献情報

文献番号
200000994A
報告書区分
総括
研究課題名
循環型社会に対応した有機性廃棄物の資源化処理システムの開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
田中 勝(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 山村 勝美(財団法人 廃棄物研究財団)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
26,213,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本プロジェクトは、有機性廃棄物を対象とした資源化技術の実用化に向けての研究開発、およびこれらの技術を用いた実際の資源化施設の技術評価を行うことを目的とした。対象とする有機性廃棄物は、し尿や浄化槽汚泥等の液状廃棄物だけでなく、下水汚泥、生ごみ、食品加工産業からの有機性汚泥、畜産等農業廃棄物等とした。有効利用及び資源化のための要素技術として、(1)固形有機物の可溶化、低分子化等の前処理技術の開発、及び(2)微生物機能を活用した安全でかつ操作性に富む高機能バイオリアクターの開発、(3)炭素(C)、窒素(N)、リン(P)等の有用資源の回収(資源化)技術の開発に取り組むとともに、(4)LCA(ライフサイクルアセスメント)等による資源化処理システムの総合評価手法の開発に取り組んだ。
研究方法
研究を実施するにあたり、研究運営委員会、班会議及び合同班会議を開催し、国立公衆衛生院、廃棄物研究財団(官学民研究協力者を含む)により以下のような方法をとった。(1) 年2回開催の研究運営委員会によって研究実施計画の作成と研究の取りまとめ等、及び研究開発目標の確認を行う。(2) 本テーマを3つサブテーマに分け、4つの研究班を組織し、各班会議を年2回ずつ開催し、そこで研究の進捗状況の報告と必要な調整を行う。(3) 年1回開催する合同班会議にて、当該年度の研究成果発表を行う。なお、国立公衆衛生院は研究分担者を含めた研究班組織を構築するとともに、各研究班に主任研究者の研究課題を持って担当者を派遣し、上記会議の中で研究活動を指導している。
結果と考察
(1) 前処理技術の開発:有機性廃棄物の可溶化・サイズリダクションについては、既存技術に関する情報収集と適用性の検討、実験室レベルの可溶化反応槽(機械的破砕、オゾン分解などの化学的可溶化)の基本設計と最適運転条件等、前処理と関連させた資源化技術の特性について基礎的検討を行った。その結果、機械的、化学的あるいは生物学的、あるいは熱的可溶化により可溶化が促進され、メタン発酵や有用物質の回収に有効であることが明らかになった。
また、有機性廃棄物に含まれるリスクの削減技術に関する検討も行った。特定の重金属イオンに反応して膜細孔の開閉を行う機能膜の開発に取り組み、種々のイオンシグナルによって自律的に膜細孔径を制御する濾過膜開発に成功し、重金属除去への展望を見いだした。
(2) 高機能バイオリアクターの開発:有機性廃棄物からの炭素回収技術として、生ごみの焼却処理代替システムとなる生分解プラスチックの原料としての乳酸回収システムが提案された。そのシステムは、選択的乳酸菌による生ごみの乳酸発酵-固液分離-中和-電気透析濃縮-蒸発濃縮となる。本システムによる乳酸収量及びエネルギー消費量が評価され、実用化の可能性が高いシステムであることを示した。
また、有機性廃棄物を原料にした化学ポリマー代替の生物由来凝集剤(バイオフロッキュラント:BF)の生産に焦点を当てて実験的検討を行った。自然界から1500以上の細菌株をスクリーニングした結果、低級脂肪酸を基質としてBFを生産する細菌株Citrobacter sp.TKF04を分離することに成功した。この菌株は酢酸及びプロピオン酸を特異的な基質として利用し、既存の化学凝集剤に劣らない粒子凝集活性及び汚泥脱水性を示すBFを生産することが明らかとなった。また、生産されたBFの化学構造をほぼキトサンと同定し、廃棄物処理・処分コストの低減、経済的なキトサンの生産等に貢献するを示した。
さらには細菌がもつポリリン酸蓄積機能を活用して液状廃棄物中のリンをポリリン酸として回収することを検討した。ポリリン酸量を負に抑制する遺伝子phoUの存在を明らかにすることができた。その過程で、ポリリン酸を蓄積する変異株はX-リン酸という試薬を含む培地で簡単に選択できることを発見した。その方法は大腸菌に限らず、一般土壌細菌やシアノバクテリアも含めて多くの細菌で、ポリリン酸蓄積量を改良するために非常に有効であった。また、phoU遺伝子の変異したシアノバクテリアは、有機物に依存しないリン除去システムの構築の可能性が見いだされた。さらにオーバープラスの解明により細菌のポリリン酸蓄積能の改善の可能性を見いだした。
(3) 資源化技術・システムの開発
リンの回収を主目的とした小規模分散型生活排水処理汚泥の融合処理・処分について検討し、リンと有機性微粒子の高い凝集沈澱効果を明らかにするとともに、新しいシリカ・鉄重合高分子凝集剤(PSI)のゲル化防止策を提案し、その効果を明らかにした。また、生活排水凝集汚泥やリン吸着上水汚泥に含まれる有機態、無機態の難溶性リン化合物が植物根が分泌する酵素とクエン酸によってリン酸に可溶化され、それを植物が吸収することを明らかにして、回収リンの緑農地還元の可能性を明らかにした。
また、し尿処理系コンポストの安全性を確保する観点から、し尿処理施設におけるクリプトスポリジウム及び重金属汚染等の実態とその対策について検討した。クリプトスポリジウムオーシスト不活化について基礎的検討を行った結果、実際のコンポスト化施設においての処理温度は、60℃以上で1日以上、できれば70℃以上に保つことでより安全性を確保できることを示した。なお、大阪府下6ヶ所の全てのし尿処理施設のでC. parvum オーシストは検出されなかった。重金属について大阪府下8カ所のし尿処理場汚泥を調査した結果、水銀については肥料取締法の基準を超えるコンポストが観察された。
(4) 総合評価手法の開発
既存のし尿処理方式6方式と汚泥再生処理システムのLCA手法による環境負荷評価に取り組み、エネルギー消費量等の環境保全上の特性を評価した。その結果、従来型処理方式の19施設の処理量1kl当たりのエネルギー消費量が処理方式ごとに特徴的に示され、総合評価手法としての有用性を明らかにした。一方、循環型施設と位置付けられる汚泥再生処理センターについても処理量1klあたりのエネルギー消費量の特性を明らかにした。さらに、資源化のメリットを評価した。それによると、発電によるメリットが4MJ/kl、コンポスト化によるメリットが24MJ/klと消費量の約3%が回収されることを示した。また、本サブテーマで実施した評価手法の詳細をとりまとめ、LCI分析に関するガイドラインを提案した。
結論
3つのテーマ(1) 固形有機物の可溶化、低分子化等の前処理技術の開発、(2) 炭素(C)、窒素(N)、リン(P)回収(資源化)技術の開発、及び(3)資源化処理システムの総合評価手法の開発をすすめ、重要な基礎的な知見及び実用化に向けての応用的な知見が明らかとなった。例えば、基礎的知見としては微生物のポリリン酸蓄積遺伝子解析や機能性膜(ゲート膜)による重金属検知型リスク回避プロセスである。一方応用的知見としては、C回収技術;Citrobactor sp. によるバイオフロキュラント生産、L. amylovorusによる生ごみからの乳酸回収、リン回収技術;微生物蓄積ポリリン酸の熱処理回収、凝集汚泥によるリン回収と植物利用、及びN回収技術;加熱処理MAP法等である。一方、資源化処理システムの総合評価手法開発については、LCAを既存し尿施設に適用し、施設規模やプロセス特性(方式の違い)等の評価が可能となった。

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