発ガン抑制・転移抑制薬の開発のための研究

文献情報

文献番号
200000993A
報告書区分
総括
研究課題名
発ガン抑制・転移抑制薬の開発のための研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
西川 秋佳
研究分担者(所属機関)
  • 田中卓二(金沢医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新たな発がん抑制物質、転移抑制物質を見い出す目的で、温州蜜柑ジュース製造工程で得られるコールドプレスオイルから主成分のd-limoneneを除去した精油中から得られたpolymethoxyflavonoidで抗炎症生作用を有するnobiletin、東南アジアで抗炎症薬として利用されているニガショウガ (Zinger zerumbone Smith)の根茎の活性本体であるzerumbone、インド産熱帯果樹Garcinia indicaの乾燥果皮中に存在し抗酸化作用を有するポリイソプレニル化ベンゾフェノンの1種garcinolについて、誘発大腸がん前駆病変(ACF)発生への影響を検討し、大腸発がん修飾効果を予測した。また、天然アロエ粉末摂取の膵発がんに及ぼす影響を検討するとともに、がん予防機構を追究するためCOX-2阻害効果を膵臓および胃発がんモデルにおいて検討した。
研究方法
[実験1] 雄性F344ラットを使用し、第1群はAOM(15 mg/kg体重)を週1回、計3回、皮下注射、第2群はAOM+0.01% nobiletin(AOM投与の1週前より、5週間混餌投与)、第3群はAOM+0.05% nobiletin、第4群は0.05% nobiletinを5週間混餌投与、第5群は無処置対照群とした。ACFは実験開始後5週で測定した。同時に、ACFと周囲大腸粘膜の細胞増殖活性をMIB-5の標識率で測定し、また大腸粘膜PGE2量の測定を行った。[実験2] 雄性F344ラットにAOM (15 mg/kg体重)を週1回、計3回皮下注射してACFを誘発した。Zerumboneは0.01%、0.05%の濃度でAOM投与の1週前より5週間混餌投与し、大腸ACFの頻度は実験開始後5週で測定した。同時に、大腸粘膜細胞増殖活性をAgNORs数で測定し、さらに肝、大腸粘膜のGST、QR活性の測定、PGE2、PGD2量の測定も行った。また、大腸粘膜のCOX-2発現をみた。[実験3] 雄性F344ラットを使用し、第1群はAOMを週1回、計3回、皮下注射、第2群はAOM+0.01% garcinol、第3群はAOM+0.05% garcinol、第4群は0.05% garcinolを5週間混餌投与、第5群は無処置対照群とした。GarcinolはAOM投与の1週前より、5週間混餌投与し、ACFは実験開始後、5週で測定した。同時に、ACFと周囲大腸粘膜の細胞増殖活性をPCNAの標識率で測定し、また肝のGST、QR活性の測定も行った。加えて、RAW264.7細胞でLPSとIFN-?で誘導したCOX-2やiNOSの発現に対するgarcinolの影響をみた。[実験4] 雌性シリアンハムスターを3群に分け、BOPを10 mg/kgの用量にて一週間隔で4回反復皮下投与した。それと同時に凍結乾燥したキダチアロエの粉末を0%(第1群)、1.0%(第2群)およびの5.0%(第3群)の用量で5週間混餌投与し、以後基礎食にて54週間飼育した。剖検により、膵臓を中心に腫瘍性病変の発生状況を病理組織学的に検索した。また、BOPによるDNA障害の指標として、膵管上皮におけるO6-methyl deoxyguanosine (O6-metdG)の生成を免疫組織化学的に検出し、アロエ投与の影響を検討した。[実験5] 雄性シリアンハムスターを5群に分け、第1~3群にはBOPを10 mg/kgの用量にて一週間隔で4回反復皮下投与した後、COX-2阻害剤nimesulideを0%(第1群)、0.01%(第2群)および0.04%(第3群)の用量で35週間混餌投与した。剖検により、膵臓を中心に腫瘍性病変の発生状況を病理組織学的に検索した。[実験6] 雄性Wistar系ラットを5群に分け、第1~3群に胃発がんのイニシエーション処置としてMNNGを0.01%の濃度で飲水投与すると同時に5%食塩を8週間混餌投与した。その後、nimesulideを0%(第1群)、0.01%(第2群)および0.04%(第3群)の用量で、57週間混餌投与した。第4群にはMNNG処置をせずに0.04%のnimesulideのみを与え、第5群は無処置対照群とした。
結果と考察
[実験1] ACFの発生は、AOM群:139±35、AOM+0.01% nobiletin群:70±15、AOM+0.05% nobiletin群:63±10とnobiletinの混餌投与で有意に抑制された。一方、ACFにおけるMIB-5標
識率もnobiletinの混餌投与で有意に減少した。PGE2は低用量nobiletin投与で有意に低下していた。[実験2] 大腸ACFの頻度は、AOM群が84±13であったのに対して、AOM+0.01% zerumbone群で72±17、AOM+0.05% zerumbone群で45±18とAOM+0.05% zerumbone群で有意に減少していた。大腸腺窩上皮細胞核のAgNORs数と大腸粘膜のPGE2量は両用量群で有意に低下していたが、PGD2量はzerumboneの高用量群でのみ有意な低下をみた。肝GST、QR活性はzerumboneの高用量投与により有意に上昇していたが、大腸粘膜GST、QR値はzerumboneのいずれの用量でも有意に上昇していた。また、COX-2発現も両用量とも有意に低かった。[実験3] 大腸ACFの頻度は、AOM群が97±15であったのに対して、AOM+0.01% garcinol群で72±16、AOM+0.05% garcinol群で58±8とgarcinolのいずれの用量投与でも有意に減少していた。ACFと非病変部大腸腺窩上皮核のPCNA標識率も同様に両用量群で有意に低下していた。肝のQR活性はgarcinolの高用量投与により有意に上昇していた。RAW 264.7細胞にLPSとINF-?で誘導したCOX-2やiNOSも有意に低下した。[実験4] 膵腺癌の発生頻度は、第1、2および3群でそれぞれ86.6%、56.6%および58.6%であり、第1群に比較して第2および3群で有意に減少した。膵腺癌の動物当たりの平均個数(多発性)は、第1、2および3群でそれぞれ1.2、0.8および0.7であり、第1群に比較して第2および3群で有意に減少した。膵管異形成の発生頻度は、第1、2および3群でそれぞれ56.6%、43.3%および27.5%であり、第1群に比較して第3群で有意に減少した。膵管異形成の多発性は、第1、2および3群でそれぞれ0.8、0.7および0.3であり、第1群に比較して第3群で有意に減少した。BOP投与によって膵管上皮細胞に生成したO6-metdGは、アロエの用量に相関して減少し、第1群に比較して第3群で有意に減少した。[実験5] 膵腺癌の発生頻度は、第1、2および3群でそれぞれ70.0%、73.3%および40.0%であり、第1群に比較して第3群で有意に減少した。膵管異形成の発生頻度は、第1、2および3群でそれぞれ56.6%、36.6%および40.0%であり、アロエ投与群で減少傾向を示した。[実験6] 現在、実験開始より57週間が経過し、実験を継続している。計画どおりに、実験開始後65週で実験を終了する予定である。以上より、nobiletin、zerumbone、garcinolはAOM誘発ACFの発生と成長を抑制したが、これは細胞増殖活性の制御、解毒酵素の誘導ないしCOX-2・iNOS発現抑制によると考えられた。これらの化合物は安定で、比較的大量に合成ないし入手できることから、今回の実験結果を確認するため大腸がんを指標とした長期の実験が望まれる。また、iNOS、COX-2などの発現も抑制することから、炎症を背景とする大腸発がんの制御に有効に利用できる可能性がある。一方、アロエ凍結乾燥粉末のイニシエーション期投与およびCOX-2阻害剤のポストイニシエーション期投与は、BOP誘発によるハムスターの膵発がんを抑制することが明らかとなった。アロエは古来より健康に有益な植物として知られており、抗炎症作用、抗酸化作用、抗菌作用、緩下作用などを示す多くの生理活性物質を含有していることが知られている。また、生体異物の代謝活性および不活性に影響することも明らかにされており、今回の実験で標的細胞におけるBOPによるDNA障害を軽減したことと関連深いものと推察される。一方、COX-2の阻害は大腸発がんの重要な抑制機序の1つと考えられているが、膵発がんについても当てはまる可能性が示された。このことは、ヒト大腸がん組織と同様に、膵がんや胃がんを含めた多くのヒトがん組織内にプロスタグランジンやCOX-2の過剰発現がみられることと関連して極めて興味深い。
結論
蜜柑ジュース製造工程で得られるnobiletin、ニガショウガ成分のzerumbone、インド産熱帯果樹果皮中に存在するgarcinolはラット大腸発がんを抑制し、その機構として細胞増殖活性の制御、解毒酵素の誘導ないしCOX-2やiNOS発現抑制が考えられた。また、アロエ凍結乾燥粉末はイニシエーション期において、COX-2阻害剤はポストイニシエーション期においてハムスター膵発がんを
抑制した。

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