輸入熱帯病・寄生虫症に対するオーファンドラッグの臨床評価に関する研究

文献情報

文献番号
200000991A
報告書区分
総括
研究課題名
輸入熱帯病・寄生虫症に対するオーファンドラッグの臨床評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
大友 弘士(東京慈恵会医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 竹内勤(慶應大学医学部)
  • 名和行文(宮崎医科大学医学部)
  • 斎藤厚(琉球大学医学部)
  • 太田伸生(名古屋市立大学医学部)
  • 木村幹男(国立感染症研究所)
  • 小嶋茂雄(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 狩野繁之(国立国際医療センター研究所)
  • 野崎正勝((財)生産開発科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の国際化とともに増加傾向にあるマラリアなどの輸入熱帯病や感染要因の多様化によって患者発生が問題化している寄生虫症の治療に不可欠であるが、国内では入手困難なオーファンドラッグを確保し、その供給耐性を維持すると同時にその適正療法を確立して医療環境を改善することを目的としている。
研究方法
近年、わが国では感染症の疾病構造が著しく変貌し、マラリアなどの輸入熱帯病が増加しており、死亡例も発生しているほか、感染要因の多様化によりアメーバ赤痢、糞線虫症、肝蛭症、疥癬なども増加している。しかし、これらの疾患に対する効果的な治療薬の入手困難で治療上の大きな障害になっていた。そこで、医療上のニーズが高いオーファンドラッグを厚生省監視指導課の許可を得て海外製薬企業から輸入し、国立医薬品食品衛生研究所でのその規格試験を実施して医薬品としての適格性を確認した上で全国18カ所の保管機関に配備し、患者治療に必要な場合は、それらの薬剤を治療薬の形で無償交付する供給耐性を構築してその入手難の緩和を図った。同時にオーファンドラッグによる適正療法の確立を目指して、供与薬剤の治療効果や副作用などに関する広範な臨床研究を実施したほか、その薬物動態の解明やオーファンドラッグを必要とする疾患の疫学調査も実施した。なお、研究班から供与する治療薬はいずれも医療上の有用性が高いとはいえ、国内未承認の薬剤であるため、患者に適用する場合は必ず治療上の有益性と予想される副作用などについて十分説明し、研究班が作成した所定の治療承諾書に署名を得ることを治療担当医に徹底するなど、倫理面の配慮を行った。さらに、治療後は担当医に治療報告書の提出を求め、その効果、副作用などに関する治療疫学的な解析を実施したが、その作業における治療報告書の保全には万全を期し、患者、主治医、医療機関のプライバシーの保護に努めた。
加えて、研究班が確保した抗マラリア薬のメフロキンは、その薬物動態パラメータに人種差がみられると報告されており、日本人におけるそれを明らかにする目的で薬剤の血中濃度の定量法を確立したほか、副作用を最小限にとどめる目的でその化学構造にキノリン環を有する抗マラリア薬の毒性、特にキニーネ、メフロキンの心毒性について動物実験で検討した。
結果と考察
従来研究班が確保し、安定供給してきた薬剤は、抗マラリア薬の硫酸クロロキン錠、メフロキン錠、アーテスネート(50mg、200mg含有の内服錠及び同量含有の坐薬など4種)、グルコン酸キニーネ注射薬、アトバコン・プログアニル合剤、プリマキン、抗赤痢アメーバ薬のフロ酸ジロキサニド、抗リーシュマニア薬のスチボグルコン酸ナトリウム、糞線虫症や疥癬に有効なイベルメクチン、抗ラッサ熱薬のリバビリンなどのほか、旧班から引き継いだ抗トリパノソーマ薬のスラミン、硫酸キニーネ錠の15製剤である。
しかし、本年度は新たに重症のアメーバ赤痢患者に非経口投与するメトロニダゾール注射液と最近患者発生が増加している肝蛭症に有効はトリクラベンダゾールを導入した。また、これらの薬剤はすべて国立医薬品食品衛生研究所での規格試験により、医薬品としての適格性が確認された。
確保薬剤の中で抗マラリア薬が多く、その供与量も多いのは、熱帯地からの輸入例が多いことと、原虫種及び薬剤耐性の有無などにより薬剤の選択が異なるためである。いずれにしても、研究班から供与される薬剤によりわが国のマラリアに対する医療環境は著しく改善されており、重症かつ悪性の熱帯熱マラリアの治療も比較的容易に行えるようになっている。
また、最近はイベルメクチンの供与量が多くなっているが、これは沖縄地方を中心に流行している糞線虫症の治療に適用されているほか、最近各地で多発傾向にある疥癬にも有効であり、その適用例が急激に増加しているためである。さらに、フロ酸ジロキサニドは国内発生が増加しているアメーバ赤痢患者が排出する嚢子に有効であり、メトロニダゾール注射液は従来重症例に使用しているデヒドロエメチンが製造中止になったため、代替え薬剤として確保したものである。
スチボグルコン酸ナトリウムは古来より日本には存在しないカラアザール、皮膚リーシュマニア症などの輸入例が散発的にみられ、その治療に使用されている。リバビリンは最近、欧米諸国においてアフリカからの輸入例の発生が問題になっているラッサ熱などの初期患者に有効な薬剤であり、厚生省などからの要請により確保したものである。また、最近は各地から肝蛭症が報告されているに至っており、その治療薬としてトリクラベンダゾールを確保し、その有効性に関する検討を開始している。
また、本研究班のマラリアの国内発生状況に関する実態調査によれば、1997年113例、1998年105例、1999年には119例の患者発生があり、しかも1998年と1999年にはそれぞれ3例の死亡例があることも確認された。また、この調査により、多くの患者が研究班から供与された薬剤によって治療されていることも判明した。
アメーバ赤痢に関しても熱帯地からの輸入症例のほか、最近はその感染要因に著しい変貌がみられ、心身障害施設や男性観同性愛者での伝播が多いことが明らかにされており、糞線虫症に関しては沖縄県を中心にその疫学調査が実施されている。
なお、オーファンドラッグの確保を検討する上で必要な各蠕虫症の血清診断、マラリア原虫の特異抗原を検出する迅速診断の有用性に関しても検討した。
一方、近年、増加傾向にある輸入マラリアの治療は研究班の存在によりその医療環境は以前に比して著しく改善されたが、診断の遅延による熱帯熱マラリアの死亡例が増加していることに鑑み、過去2年間に続き本年度も研修会を実施し、54名が参加した。
最後にこれまでの研究成果に基づき現在オーファンドラッグによる治療手引書を作成中である。
結論
本研究班の存在により輸入マラリアなどの熱帯病や国内に根強く残存している寄生虫症の治療環境は著しく改善された。そのため、ここで研究班が消滅すれば輸入熱帯病や寄生虫症の医療対応は混乱を招くことは必然の理であり、国民医療に必要な薬剤の早期承認が望まれない限り、この種の研究活動は今後も必要であると思われる。

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