テオフィリンの未熟児無呼吸発作に対する臨床的研究

文献情報

文献番号
200000989A
報告書区分
総括
研究課題名
テオフィリンの未熟児無呼吸発作に対する臨床的研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小川 雄之亮(埼玉医科大学総合医療センタ-小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 大野勉(埼玉県立小児医療センタ-新生児科)
  • 梶原真人(大分県立病院新生児科)
  • 楠田聡(大阪市立総合医療センタ-新生児科)
  • 堺武男(東北大学医学部小児科)
  • 西田朗(東京都立八王子小児病院新生児科)
  • 伊藤祐司(国立小児病院新生児科)
  • 山内芳忠(国立岡山病院小児科)
  • 沖武人(エ-ザイ株式会社臨床研究センタ-)
  • 田村滋(日研化学株式会社開発部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
28,310,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
未熟児の無呼吸発作の治療には薬物療法と機械的呼吸補助療法がある。後者は極めて有効ではあるものの侵襲性が強く、合併症が大きな問題となっており、国の内外を問わず薬物療法が第一選択の治療法となっている。この薬物療法の中心をなすのがテオフィリンであり、その効果と安全性は欧米ではすでに確立しており、広く全世界で用いられている。我が国のヒューマンサイエンス研究事業の適応外使用薬のevidence調査においても、効果と安全性について十分な医学的証拠ありとしてA群のトップにランクされている。しかしながら、投与対象が未熟児に限られ極めて使用量が少ないために、我が国ではいまだ適応申請がなされず、臨床の実際にあっては正式許可のないままほとんどの新生児医療施設で適応外使用が行われている。しかも現在は成人用に作成された剤型のテオフィリン製剤をベッドサイドで希釈したり、薬局方テオフィリン末をベッドサイドで計量しアルコールなどに溶解して使用されており、医療ミスの危険因子の代表例ともなっている。
そこで、本研究班では、未熟児の臨床の実際に用いるのに安全且つ有用な未熟児無呼吸発作治療用のテオフィリン製剤の剤型を開発し、それらの有効性と安全性を試験し、正式に認可を受けて新生児の臨床の場で使用可能とすることを目的とした。
研究方法
未熟児用テオフィリン製剤の開発 剤型の開発は、本邦の主要新生児医療施設166施設におけるテオフィリン製剤の使用状況の調査を行い、それらの施設での投与法、投与回数、有効性、血中濃度などを参考に、これまでのpeer review journalに発表された文献のデータとを突き合わせ、剤型の設計を行い、静注用製剤は分担研究者のエ-ザイの沖が、経口製剤は分担研究者の日研化学の田村が担当して試作検討した。
無呼吸発作のモニタリング法の検討 臨床試験開始に備えて、無呼吸発作の客観的なモニタリング法について、アジレント・テクノロジ-社製新生児モニタ-のイベントレビュ-機能を実際の臨床での無呼吸発作の場で検討した。
テオフィリンの血中濃度モニタリング法の検討 臨床試験を安全に行うためにはテオフィリンの血中濃度のモニタリングが不可避であるが、対象の中心が出生体重1,500g未満の極低出生体重児であるため、採血量が問題となる。今年度に入って全血でわずか4μlの検体で血中テオフィリンの測定可能な自動測定機器が開発市販されたので、蛍光偏光免疫測定法との相関を検討した。
臨床試験プロトコールの作成 新しい未熟児用テオフィリン製剤の有効性と安全性、利便性について、多施設共同比較対照試験のプロトコール作成を行った。
臨床試験のシミュレ-ション プロトコールが完成し、すでに数施設の治験審査委員会の審査に合格しているものの、当局からの試験実施の許可がおりないので、更なる安全性の確認のために、各試験施設で後方視的にプロトコ-ルに適合する対象例について臨床試験のシミュレーションを行った。
結果と考察
未熟児用テオフィリン製剤の開発 静注用製剤は、想定最大1日量が体重2,500gの新生児で6mg/Kgとすると6mgx2.5=15mgとなり、想定最小1日量が体重500gの超低出生体重児で2mg/Kgとすると2mgx0.5=1mgとなるので、製剤は1mlあたりアミノフィリン含量を5mgとし、1管あたりの容量を3mlとした。ちなみに現在市販の製剤は250mg/10ml(25mg/ml)である。経口製剤は、少量の製剤の計量を容易にするため、予めシリンジに薬液を充填した剤型(キット)の開発を行った。静注用の場合と同様、現在のテオフィリン使用実態を踏まえ、0.4%テオフィリン水溶液(10mg/2.5ml/syringe)とした。いずれの製剤も安定性試験のガイドラインに従って、性状、確認試験、pH、純度試験、不溶性異物試験、無菌試験、含量、重量変化試験、溶血性試験、予備過酷試験、一次加速試験、二次加速試験などを行い、いずれも満足すべき成績が得られた。
無呼吸発作のモニタリング法の検討 アジレントテクノロジ-社の呼吸モニタ-を用い、そのイベントレビュー機能を利用して無呼吸発作の正確な計測が可能かどうかを臨床の実際でテストし、ベッドサイドでの用紙記入を組み合わせることで、無呼吸発作の回数と程度を正確且つ客観的に評価できることが示され、臨床試験での無呼吸発作の検出およびモニタリングはこの方法を用いることとし、各施設で実地訓練を開始し、臨床試験に備えることとした。
テオフィリンの血中濃度モニタリング法の検討 新しく導入した極微量でモニタリングが可能な機種である堀場製作所製の自動テオフィリン血中濃度測定装置を用い、臨床検体計9件について蛍光偏光免疫法による測定値と比較検討した結果、相関係数が0.946と極めて高い値が得られ、臨床試験の血中モニタリングに使用可能であると判定された。
臨床試験プロトコールの作成 特徴は以下の如くである。テオフィリンの未熟児無呼吸発作に対する有効性と安全性はCochran databaseでも確認されており、適応外使用ではあるが成人用の製剤が広く使用されている現状に鑑み、非投与群の児が不利益を被らないように、failure例はその施設のポリシ-に従って成人用製剤の投与による救済も可能であるとした。また、臨床の実際では経口投与が可となった時点で経口剤に変更している施設が多いので、本臨床試験でも静注剤、経口剤の試験を同一の試験内で行うこととした。とくに新生児にあっては、短期の効果と共に長期予後に対する影響の有無を観察することも必要であり、修正18か月と3歳時にもフォローアップすることとした。
臨床試験のシミュレ-ション 臨床試験プロトコ-ルのエントリ-基準に合致した症例は70例で、在胎28週以上35週未満入院症例も約12.3%であった。刺激のみで軽快したのが9例、酸素投与のみが22例、テオフィリン製剤投与のみが4例、酸素投与とテオフィリン投与が35c例で、このテ4オフィリンを投与した39例中failureとなったのは3例のみであった。このシミュレーションの結果から、臨床試験は極めて短期間に、安全に行えることが確認された。
結論
テオフィインの未熟児無呼吸発作に対する臨床試験に関して、現状での我が国の新生児施設における使用状況の調査から安全性、利便性に富む未熟児専用の静脈注射用製剤と経口製剤の2種の剤型を開発した。それら新しい未熟児用の剤型を用いての臨床試験用のプロトコールを作成し、シミュレーションを行って安全且つ効率よく行えることを確認した。ポイントとなる無呼吸発作の検知も客観的、科学的に行えるよう、モニタリング法も確立された。また、血中濃度のモニタリングも超微量の血液検体で正確に測定可能であることが示された。研究班員所属の施設ではすでに治験審査委員会で承認された施設もあり、当局の許可が出次第臨床研究を開始することが可能となった。

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