難治疾患・稀少疾患を主とした医薬品の適応外使用のエビデンスに関する調査研究

文献情報

文献番号
200000988A
報告書区分
総括
研究課題名
難治疾患・稀少疾患を主とした医薬品の適応外使用のエビデンスに関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
津谷 喜一郎(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 大西鐘壽(香川医科大学医学部小児科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「医薬品の適応外使用」とは、すでに他の適応をもち国内で市販されているが、企業による薬事行政当局への申請がなく、ある適応について日本では未承認の状態であり、日本国内あるいは海外における有効性・安全性の情報にもとづき日本で使用されているものである。ただし、その使用にあたっての情報のエビデンスのレベルには高低がある。ここで、適応外使用は、異なる用法・用量によるものも含まれる。
このうち、本研究においては、難治疾患・稀少疾患を主として、これらの疾患に対する医薬品の使用について、その根拠となっているエビデンスについて全世界より広く情報収集、評価、統合するシステマティックレビューを行う。
本研究は、平成9年度厚生科学研究・オーファンドラッグ開発研究事業において実施した「難治疾患・稀少疾患に対する医薬品の適応外使用のエビデンスに関する調査研究」(以下、「平成9年度研究」と略記)を引き継ぎ、さらに情報を収集し、評価の質をより高めるとともに、対象とする医薬品と疾病を拡大し、平成10年度より3ヶ年計画で進行するものである。研究対象は、難治疾患・稀少疾患を中心とするものの、社会的ニーズ等を考慮し、必要に応じ、小児領域の疾病など一般的な疾病へも対応した。
すなわち、本研究は医薬品の適応外使用に関する行政的活動や臨床研究の戦略作りのための情報インフラストラクチャーを作り、そのアウトアムを合理的な意志決定に資することを目指すものである。
研究方法
本研究はその全体のプロジェクト進行の方法として、コクラン共同計画によってなされるシステマティックレビューをモデルとし、10のstepからなる基本的骨格をもつ。本プロジェクトの第3年度である平成12年度は、以下の2つの研究方法がとられた。
(1)MedDRAを用いたSOC分類
ここで、MedDRA(Medical Dictionary for Regulatory Activities)を用いた理由は、本研究の医薬品行政との調和と、将来の国際的交流を考慮したためである。MedDRAは、日米欧医薬品規制ハーモナイゼーション会議(ICH)によって作成され、1999年度から日本語版である「ICI国際医薬用語集日本語版」も使用可能となったものである。
(2)個々のリサーチクエスチョンの整理と除外リストの作成
リサーチクエスチョンは、(1)その情報源が特定疾患研究分科会、各種学会、企業など多様であり、(2)本来システマティックレビューを目的として収集されたものに限らない。このため多様な質のリサーチクエスチョンが混在する。一方、本プロジェクトの最後のゴールはリサーチクエスチョンのエビデンスを明らかにし、各種の意思決定へ導こうとするものである。そこで、種々の検討の後、エビデンス調査の対象としない除外リサーチクエスチョンをつくることとした。そして、それらは、13通りの理由によりパターン化された。
(3)Physicians' Desk Reference 2000年版によるチェック
以下に示す5つに分類することとし、各々チェックされた。
A:適応あり、B:医薬品あるが適応なし、C:医薬品そのものが非収載、D:PDRが商品名収載のため探せず、E:その他の理由により対応するPDRでの薬剤不明
(4)The Cochrane Libraryによる、システマティックレビューとRCTの確認
The Cochrane Library 2000 issue 2の以下の3つのサブセットデータベースを検索した。
The Cochrane Database Systematic Reviews(CDSR)
Database of Abstracts of Reviews of Effectiveness(DARE)
The Cochrane Controlled Trials Register(CENTRAL/CCTR)
The Cochrane Libraryは、英文で作成されているため、各リサーチクエスチョンを英訳し(text)、 これらからMeSHを探し、これを用いることによってなされた。しかし、この検索では、直接リサーチクエスチョンに関係がないものも、MeSHがシステマティックレビューのどこかに用語としてあらわれると拾ってきてしまう。そこで、実際のレビューを読み、リサーチクエスチョンとの関連の有無を確認し、「総数」と「関連あり」と2種の数値を得ることにした。
(5)小児科領域におけるエビデンス関連情報の調査
インターネットでPubMedを用いて、evidence based medicineとpediatricsの検索式で調査した。それらの論文につき内容の吟味、さらに小児適応外使用医薬品に対する権威者の臨床経験によるものの検討を行った。具体的には、日本小児科学会17分科会の小児薬品調査研究班からの Priority List に基づき小児の適応外使用医薬品をリストアップし、分類したリサーチクエスチョンに対しアウトカム・エンドポイントを設定し、エビデンスとしてはあまり高くないが、その治療法が一般化されているかどうかの目安として、定期的に改定される小児治療法の教科書(日本1、海外4)においての認識の有無を調べ、そのエビデンスを検討した。
結果と考察
(1)SOC分類について:26のSOC分類の結果、リサーチクエスチョン全821のうち、リサーチクエスチョンが多いSOCは、No.8神経系障害(132)、No.2良性および悪性新生物(92)、No.1感染症および寄生虫症(70)、No.14胃腸障害(55)、No.11心臓障害(49)、No.12血管障害(47)、No.13呼吸器、胸郭および縦隔障害(48)、などであった。一方、リサーチクエスチョン数が少ないSOCは、No.22全身障害および投与局所の状態(0)、No.26社会環境(1)、No.24傷害および中毒(2)、である。この数の多寡は、おおよそは予想されたものではあったが、神経系傷害が132リサーチクエスチョンとして多いのが注目される。他にPDRの薬品名の記載法、例えば商品名などによるために探せないものがあった。医薬品の適応外使用の問題は世界的なものであり、PDRにおいても一般名からより検索しやすくするなど、国際化への方向が望まれる。
(2)除外リサーチクエスチョン:あわせて、372件が今回のエビデンス検索の対象から除外となった。第1に、「重複」によるものが125件(33.6%)で最も多かった。これは複数の情報源からリサーチクエスチョンを収集したためである。第2に「承認済」が76件(20.4%)であった。これは本研究が平成9年度の研究の結果を引きつぎ、その平成9年度の研究はさらに平成7年度からのものを含んでいたためである。すなわち、平成7年から平成12年までの6年間において、76件の適応が承認されていたということになる。第3は、診療ガイドライン作成対象疾患で45件(12.2%)ある。これらは、日本におけるEBM推進の方針にもとづき、厚生科学研究費を用いて、診療ガイドラインが作成中の以下の12の疾患からなる。平成12年度より診療ガイドライン開始である、1.糖尿病、2.高血圧、3.泌尿器科領域、4.急性心筋梗塞及び他の虚血性心疾患、5.喘息。平成12年度より治療ガイドライン作成開始である、6.胃潰瘍、7.脳梗塞、8.白内障、9.腰痛症、10.慢性関節リウマチ、11.クモ膜下出血、12.アレルギー性鼻炎。これらの疾患については、それぞれ充分な資金と人的リソースが投入されているため、そこにおいてエビデンスについての調査がなされると期待するため、本年の研究のエビデンスの対象とするリサーチクエスチョンから除外したものである。
(3) PDRでのチェック:全821のRQのうち、PDR上で、「適応あり」のもが56件(6.8%)あった。これらは、日本において、さらなるシステマティックレビューにより、適応取得へ向けての活動を行うべきプライオリティーが高いものである。また、「医薬品あるが適応なし」が448件(54.5%)で、約半数が日米ともに適応ないことになる。他の317(821-56-448)件は、PDRに収載されたもので、そのうち279件(88.0%=279/317)は、医薬品そのものがPDRに収載がなかった。
(4)The Cochrane Libraryによるチェック:CDSRで関連がないものが733件(89.3%)あった。医薬品の適応外使用という領域は、世界的に見ても、システマティックレビューが未発達の分野があらためて明らかになった。さらに、The Cochrane Libraryの3種のサブセット・データベースである、CDSR、DARE、CCTRともにヒット件数が0のRQは311件(37.9%)あった。これらは、適応外使用はされているもののエビデンスレベルの低い研究デザインである、case report、case reviews、case -control study、cohort studyなどによるものと思われる。
(5)小児科領域について:小児科領域におけるEBMについて報告している論文は、PbMedで検索するかぎりでは1996年より見出され、その重要性は最近になって認識されるようになったと考えられる。しかし、最近の論文で、過去の論文評価を行ったものでは「それらの多くの論文が真のエンドポイントを証明していない」との欠陥を指摘している。このように、小児の場合、長期の経過観察を要し真のエビデンスを得るのが困難である。よって、真のエンドポイントにより近似した代理のエンドポイントを見出す小児を対象とした研究が望まれる。小児の適応外使用医薬品は計140リストアップされ、うち29についてはいずれの小児治療法の教科書においてもその記載が無かった。そのうち22のリサーチクエスチョンについてはThe Cochrane Libraryにて検索を行っても該当するのもが無かった。しかし7のリサーチクエスチョンについてはThe Cochrane Libraryにおいて少ないながら該当するのものがあり、clinical trial かつ randomized control study のものもあり、一般的な教科書に記載がなくてもその使用にエビデンスがあるものが見出された。複数の教科書のいずれにも記載のない場合には、やはり、そのおよそ3/4には使用にエビデンスも認められないことがわかった。しかし残りの1/4は教科書に記載がないにもかかわらず、The Cochrane Libraryでは、エビデンスが認められた。今後、The Cochrane Libraryのさらに広範な使用により、質の高いエビデンスを求め、薬の使用の根拠とする必要がある。また、権威者の臨床経験からだされたリサーチクエスチョンに関しては、その薬物療法の重要性(致死的か予後に影響する薬物療法)との関係で検討されるべきと考えられた。
なお、本報告とは別途、以下のテーブルを作成中である。
Table 1 医薬品適応外使用全リサーチクエスチョン・リスト(SOC分類別)
Table 2 小児科関連医薬品適応外使用リサーチクエスチョン・リスト(SOC分類別リスト)
Table 3 削除リサーチクエスチョン・リスト
Table 4 除外を含む医薬品の適応外使用全リサーチクエスチョン・リスト(薬剤名順)
さらに、Table1については、英語の分を除き、簡略版としたものをHTML化し、Web上で公開する作業を準備中である。
結論
全821のリサーチクエスチョンが同定された。そのうち351が小児科領域である。リサーチクエスチョン全体の整理の段階で372が重複その他の理由で除外された。PDR上で適応のあるものが56件あり、今後の作業のプライオリティが高いものと考えられた。CDSRにおいて関連あるものが検索されなかったものが733件、さらに、CDSR、DARE、CCTRの3つのデータベースの検索がすべて0件のものはエビデンスレベルが低いものでプライオリティは低いものであると考えられた。

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