培養細胞を用いたインビトロ発熱性物質試験法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200000984A
報告書区分
総括
研究課題名
培養細胞を用いたインビトロ発熱性物質試験法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
村井 敏美(国立医薬品食品衛生研究所大阪支所)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 彰(昭和大学薬学部)
  • 田中重則(生化学工業(株)機能化学品事業部)
  • 徳山 悟(日本油脂(株)油化学研究所)
  • 高岡 文(和光純薬工業(株)大阪研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,291,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、ウサギを用いる発熱性物質試験法のインビトロ代替法として、カブトガニの血球凝固を基本原理とするエンドトキシン試験法が公定試験法に採用され、医薬品等の安全性評価法の一つとして普及、定着してきている。しかしこの試験法では、ペプチドグリカン(PG)や細菌外毒素、ウイルス、ポリヌクレオチドなど、種々存在するエンドトキシン以外の発熱性物質を検出できないなどの限界がある。そこで本研究では、諸種の発熱性物質を漏れなく検出し、しかもヒトに対する発熱性を的確に評価できるようなインビトロ試験法を開発することを目的とした。本年度においては、初年度に開発した MM6-CA8 細胞を用いる新規試験法の有用性、有意性に関する検討の一環として、発熱性物質の複合汚染による発熱相乗効果が新規試験法で捉えられるか否かを中心に検討した。
研究方法
微生物細胞壁に由来するPGやβグルカン(bG)は、同じく微生物細胞壁に由来するエンドトキシンと共存することにより、発熱を始めとする種々の毒性が相乗的に増強される危険性が指摘されている。そのような相乗効果の発現をウサギ発熱性物質試験で正確に把握し、更にその相乗効果が、ヒト全血培養系および新規試験法で検出できるか否かについて検討した。
新規試験法の測定指標として選んだIL-6の発熱活性測定指標としての意義をより明確にする目的で、IL-6が中枢神経系細胞に対してPGE2の合成を誘導するか否かについて検討した。中枢神経系細胞としてはヒトグリア系細胞株A-172を用いた。
発熱活性が疑われる真菌由来物質としてβーグルカン(bG)が知られているが、そのリムルス活性と発熱などの生物活性との相関性についてはなお不明な点が多い。そこで、bGの標準品候補物質として初年度に調製したカンジダのbGについて、in vivo(マウス)における免疫賦活活性を調べた。
PGの定量試薬としてカイコ体液成分を利用したSLP試薬が開発されているが、この試薬に対するPGの反応性と発熱活性との相関性はなお明らかではない。そこで、Enterococcus faecalis から抽出精製したPGについて、SLP試薬に対する反応性とヒト全血培養系における発熱性サイトカイン産生誘導活性との相関関係を詳細に検討した。
新剤形として注目を集めているリポソーム等の主成分であるリン脂質についての発熱性物質試験法は未だ確立されていない。そこで、初年度に見い出した脂質系物質に対する分散剤、ポリアクリル酸ナトリウム(PANa)の添加により、各種リン脂質のエンドトキシン試験が可能となるか否かについて検討した。
結果と考察
エンドトキシンと各種の発熱性物質との組合せにおいて、実際にウサギで発熱相乗効果が認められたのはエンドトキシンとPG、およびエンドトキシンとMDPの組合せであった。ヒト全血培養系ではこれらの相乗効果が両方とも捉えられたが、MM6-CA8培養系ではエンドトキシンとPGの組合せによる相乗効果が捉えられないことが判明した。これら二つの組合せによる相乗効果の発現機序は今のところ明らかではないが、エンドトキシンとPGの組合せによる相乗効果は、ヒト全血培養系で捉えられるにもかかわらずMM6-CA8培養系では捉えられないことから、単球以外の細胞、例えばTリンパ球が直接、あるいはサイトカインネットワークを介して間接的に、相乗効果の発現にかかわっている可能性が考えられた。その場合には、必要な細胞を特定し、セルライン化してMM6-CA8培養系に添加することによって相乗効果が検知可能となる可能性は十分期待できる。そのような観点から、より完成度の高いin vitro発熱性物質試験法の確立、更には試験法の標準化を目指して、今後更に検討を重ねる予定である。
A-172細胞培養上清中のPGE2濃度は添加したIL-6の濃度に依存して増加したことから、IL-6は内因性発熱物質として、ヒトグリア細胞に対して発熱の最終メディエーターであるPGE2の合成を誘導することが強く示唆された。
カンジダ細胞壁由来のbG(CSBG)は、in vitroのみならずin vivoにおいても各種の免疫賦活活性を発揮することが明らかとなった。一方、従来懸念されていたbG自体の発熱活性、あるいはエンドトキシンの発熱活性に対する増強活性はいずれも否定された。しかし、強い免疫賦活活性を有する以上、発熱は惹起しなくても、患者の病態によっては有害な活性を発揮する可能性は十分考えられる。したがって、各種の注射剤について、bGの混入を制御することの是非については、今後更に慎重に検討を重ねる必要がある。
PGのSLP反応性はその分散状態によって大きく影響されるが、サイトカイン産生誘導活性はそれほど影響されないことが判明した。この成績から、SLP反応性をPGの生物活性の指標として測定する場合には、超音波処理等によりPGを充分に分散させた状態で測定する必要があることが示唆された。
リン脂質の分散媒として生理食塩水を用い、更に分散剤としてPANaを加えることにより、どのリン脂質についても、添加したエンドトキシンのほぼ100%が検出可能となることが確認された。この成果は、脂質系製剤および油性原料へのエンドトキシン試験法の適用の道を拓くものであり、リポソームなど今後の医療において重要な製剤の安全性確保に大きく貢献するものと考えられる。
結論
ヒト単球様細胞株 MM6-CA8 を用いた新規インビトロ発熱性物質試験法は、諸種の発熱性物質のヒトに対する発熱性を的確に評価できるのみならず、複数の発熱性物質の複合汚染により生じる発熱相乗効果をも検出、評価できる可能性が示唆された。また、PGの特異的定量法やbGの特異的定量法確立に関しても一定の成果を得ることができた。更には、発熱性物質試験法の確立が緊急に求められている脂質系製剤原料について、エンドトキシン試験法を適用可能とする方法を見出した。これらの成果は、今後の新規医薬品の開発、新しい剤形の出現、新素材による医療用具の開発などに対応し、それらの安全性を確保する上で少なからず貢献するものと期待される。

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