遺伝子改変テスターを用いる第二世代変異原性試験法の開発

文献情報

文献番号
200000983A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝子改変テスターを用いる第二世代変異原性試験法の開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
能美 健彦(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 三宅幸雄(塩野義製薬(株)新薬研究所)
  • 鎌滝哲也(北海道大学大学院薬学研究科)
  • 神藤康弘(明治製菓(株)薬品総合研究所)
  • 鈴木康生(オリエンタル酵母工業(株)研究統括部)
  • 澁谷徹((財)食品薬品安全センター秦野研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
11,533,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
トランスジェニックマウスを用いた変異原性評価系は、化学物質の変異原性をあらゆる臓器において検出できる優れた系として多くの研究機関で開発が進められてきており、一部は有用性が認められて実用化に至っている。本プロジェクトは、ヒューマンサイエンス総合研究事業の過程で開発されたgpt deltaマウスを用いて変異原性の機構解明を行うと共に、同じトランスジーン(λEG10 DNA)を導入したトランスジェニックラットの開発、異種遺伝子の導入やノックアウトマウスとの掛け合わせなどによりさらに有用性を高めた評価系の開発を目的としている。最終年度は、gpt deltaマウスを用いて放射線の一種である、重粒子線を照射することで生じる欠失突然変異の臓器別突然変異体頻度の検討(能美、鈴木)、突然変異に対するp53遺伝子の影響の検討(三宅)、λEG10 DNAをもつトランスジェニックラットの有用性の検討、新規トランスジェニックマウスの開発(鎌滝)をそれぞれ分担した。
研究方法
生後8-10週齢のgpt deltaマウスに重粒子線(5 又は 10 Gy)を照射後、肝臓、腎臓、脾臓、精巣由来のDNAについてSpi-アッセイを行い欠失突然変異体頻度を測定した(能美)。肝臓についてはその塩基配列の変化を調べた(鈴木)。また、肝臓について6-TGアッセイによる突然変異体頻度を測定した(三宅)。それぞれについて、p53遺伝子の関与を検討するため、p53遺伝子をホモ又はヘテロで欠損したgpt deltaマウスでも同様の処理を行った。
鎌滝は、11種類のヒトCYP分子種のcDNAそれぞれとNADPH-CYP還元酵素(OR)のcDNAを同時に導入した発現プラスミドを導入し、ヒトCYPとORを同時に発現するサルモネラ菌TA1538株およびYG7108株を樹立した。発現しているCYPの酵素活性を、それぞれのCYP分子種の典型的な基質を用いて検討した。さらに、ヒトCYP1A1、CYP1B1、CYP2E1、CYP3A7、COX-1およびCOX-2 cDNAをマウス受精卵に導入したトランスジェニックマウスを作出し、生まれたキメラマウスを交配し、生殖細胞に目的の遺伝子が導入されたかどうか検討した(鎌滝)。
前年度までに作製したλEG10遺伝子導入ラット肝臓のDNAを用いてサザンブロットにより、また、胎仔のDNAを用いてFISH法により、導入遺伝子の導入コピー数及び導入位置の解析を行った。さらに、9(または10)週齢のヘテロ体ラットについて、B(a)Pを腹腔内単回投与し、投与7日後に屠殺して主要臓器から抽出したDNAについて6-TGとSpi-アッセイを行った。また、各化合物の曝露確認と骨髄における作用比較のため、同じ個体について投与48時間後に小核誘発頻度を測定した(神藤)。
9週齢の雄gpt deltaマウスにMMS(80、 160 mg/kg)を腹腔内投与し、3日後および10日後に精巣上体および輸精管から精子を、両大腿骨から骨髄細胞をそれぞれ回収した。得られた各臓器から抽出したDNAについてSpi-アッセイを行った。また、12週齢の雄MutaTMMouseにENU(50 mg/kg)を腹腔内投与後、14日目に屠殺し、肝臓DNAを用いてlacZおよびcII遺伝子のポジティブセレクションを行い、突然変異体頻度を調べた。cII遺伝子に関しては、塩基レベルの変化も解析した(澁谷)。
結果と考察
重粒子線を照射したgpt deltaマウス(p53+/+)の各臓器(肝臓、脾臓、腎臓、精巣)におけるSpi- MFを算出した(能美)。肝臓、脾臓、腎臓の10 Gy照射群で非照射群に対して有意な上昇が認められたが、各臓器の5 Gy照射群および精巣では有意差は認められなかった。p53遺伝子をへテロおよびホモに欠損した(それぞれp53+/-、p53-/-) gpt deltaマウスの肝臓、脾臓、腎臓におけるSpi- MFを比較したが、p53遺伝子型の違いによる非照射群間での有意差は認められなかった。p53野生型、p53+/-、p53-/-の10 Gy照射群では、非照射群に対して有意な上昇が認められたが、各10 Gy照射群の間では有意差は認められなかった。重粒子線(10Gy)照射マウスの肝臓由来のSpi-変異体の塩基配列の解析を行い、5kb以上の欠失と複雑な変異の、いずれも大きな欠失が誘発されることが示唆された(鈴木)。重粒子線照射では、エネルギー付与によって生じるラジカル等も、ある点に集中すると考えられ、その作用がDNA鎖に及ぶと、多くの切断部位が生じるものと推察される。主として5kb以上の大きな欠失が生じているというこの結果は、切断部位の非相同組換えによる修復過程でDNA鎖の欠失が起こったためと考えられる。重粒子線を照射したp53+/-、p53-/-のgpt deltaマウスの、肝臓のgpt MFを算出した(三宅)。p53野生型 5 Gy照射群は非照射群に対し有意差を示したが、10 Gy照射群はp53のいかんにかかわらずp53野生型の非照射群に対し有意なMFの上昇を示さなかった。
サルモネラ菌TA1538およびYG7108株に導入したヒトのCYP分子種はいずれも菌体内で発現したことを、CO-差スペクトルで確認した。サルモネラ菌におけるCYPホロ酵素の発現量は32-320 nmol/L cultureの範囲内であった。ORの発現量は、同時に発現したCYP分子種により異なり、290-670 units/L cultureの範囲内であった。サルモネラ菌YG7108株におけるCYPの発現量はTA1538株の場合とほぼ同等であった。両サルモネラ菌株に発現した全てのヒトCYPは典型的な基質に対して触媒活性を示した。また、ヒトCYP1A1、CYP1B1、CYP3A7およびCOX-2をゲノムDNA上に有するF1マウスに関して、約100匹の12日齢のマウス胎仔よりゲノムDNAを抽出した(鎌滝)。
サザンブロット解析により、gpt deltaラット(ヘテロ体)のdiploidあたりのコピー数は約4から5コピーという計算になった。また、今回のFISH解析では間期の細胞を含め、1細胞当たり1つのシグナルが観察されたことから、λEG10遺伝子は一カ所にタンデムに導入されていると判断され、その位置は4q24-q31であった。末梢血中の小核誘発頻度は、B(a)P 62.5 mg/kg、125 mg/kg投与群の双方で有意な上昇を示したが、gptアッセイおよびSpi-アッセイにおいては、陰性対照群と投与群の間に変異頻度(MF)の差は認められなかった(神藤)。
gpt deltaマウスにMMSを投与し精巣及び精子におけるMFの変化を調べたが、MMS投与群でMFの増加はみられなかった。分裂が盛んな骨髄細胞においても同様であった。肝細胞増殖亢進の実験では、lacZ遺伝子、cII ポジティブセレクションの結果、ともに、肝切除してENU処理した(PH/ENU)群で、コントロール群の約10倍の増加がみられた。cII遺伝子の変異体を塩基レベルで解析した結果、いずれの群も突然変異の大部分が1塩基置換であった。陰性対照群、PH群、ENU処理群では、その多くがCpG sitesに生じたG:CからA:Tへの置換であったのに対して、PH/ENU群においては、A:TからG:Cの1塩基置換が最も多く(31%)、G:CからT:A(23%)とA:TからT:A(20%)がこれに続いた(澁谷)。
結論
gpt deltaマウスを用いて、重粒子線が誘発する突然変異には臓器特異性があることを明らかにした。塩基配列の解析により、誘発された欠失変異は5kb以上の大きさが多いことが明らかになった。さらに、p53の影響を調べるため、p53欠損マウスと掛け合わせたgpt deltaマウスの肝臓での6-TGアッセイによるMFを調べると、p53のバックグランドに関わらず、非照射群に比べ重粒子線照射群では有意な上昇は認められなかった。以上の結果から、gpt deltaトランスジェニックマウスは、各臓器に起こる欠失変異を効率よく検出し、分子レベルで解析しうる有用なマウスであることが分かった(能美、三宅、鈴木)。
11種類のヒトCYPのそれぞれとORを同時に発現するサルモネラ菌TA1538株およびYG7108株を樹立した。樹立したサルモネラ菌に発現したヒトCYPは、典型的な基質に対して十分な触媒活性を示した(鎌滝)。
新たに4ラインのトランスジェニックラットを得た。昨年度に作製した2ラインのWistar系トランスジェニックラットのうち、Wistar-TG6ラインのホモ個体では、DNA回収効率に1.5倍程度の改善が認められた。作製されたトランスジェニックラットの実用性を検討するため、同じλEG10ベクターを導入されたマウスを用いる変異原性検出法の導入を行った(神藤)。
gpt deltaマウスにMMSを投与し、3および10日後の精子と骨髄細胞についてSpi-アッセイを行ったが、突然変異の誘発は検出されなかった。さらに、突然変異と細胞分裂の関係を調べるためにマウスを部分肝切除し、その頻度と塩基配列を調べ、突然変異の誘発には細胞分裂が密接に関連していることを明らかにした(澁谷)。

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