新開発食品の食品化学的特性の解析と評価に関する研究

文献情報

文献番号
200000980A
報告書区分
総括
研究課題名
新開発食品の食品化学的特性の解析と評価に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
豊田 正武(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 合田幸広(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 庄司俊彦(ニッカウヰスキー(株))
  • 猪熊隆博(カゴメ(株)総合研究所基礎研究部)
  • 大本俊郎(三栄源FFI(株)品質保証部)
  • 上野川修一(東京大学大学院農学生命科学研究科)
  • 海老塚豊(東京大学大学院薬学系研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,291,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
食品には、栄養機能、感覚機能の他に、第三の機能と言うべき体調節機能があることが知られるようになってきた。近年、この体調節機能に的を絞った食品の開発が始まり、この新機能素材を求め、食品の化学的特性を解明する研究が行われつつある。本研究では、食品化学的特性として、抗アレルギー性と高脂血症性を対象とし、その解析、評価を行う。
研究方法
・ニンジンの食品化学特性の解析と評価:雌性BALB/cマウス(7週齡)に飲水に換えてニンジン汁を2週間自由摂取させた。脱血致死させたマウスより、脾臓、および腸間膜リンパ節を採取しガラス製ホモジナイザーを用い細胞懸濁液を調製した。細胞を染色後、フローサイトメーターを用いリンパ球組成を測定した。・リンゴポリフェノールの食品化学特性の解析と評価:リンゴ未熟果由来ポリフェノール(ACT)の重合度別画分の溶液を仔ウシ血清アルブミン(BSA)溶液と混和し37 °Cで反応させた後、過塩素酸を添加してタンパクを取り除いた。画分溶液とBSA溶液にも同様の操作を行い、それぞれの280 nmの紫外吸収を測定しタンパク結合能を算出した。in vivoにおける相乗効果を確認するために、各画分より再構築したACT(rcACT)、二量体画分(Dimer)、および、再構築において二量体を除いたACT(rcACT-Dimer)の活性を、I型アレルギーモデルマウス用いて比較した。・アントシアニン類の抗アレルギー活性評価:ラット好塩基球白血病細胞(RBL-2H3細胞)を用いてヒスタミン遊離抑制活性を測定した。さらに比較的強い活性の認められた成分について、抗原添加時に誘導されるCa2+イオンの流入に対する影響は、Fura-2AM標識したRBL-2H3細胞を用い、蛍光光度計で細胞内カルシウム濃度の変化を分析することで検討した。・ 遺伝子導入マウスを用いた食品アレルギー免疫応答の解析:OVAの323-339残基に相当するペプチド(OVA323-339;ISQAVHAAHAEINEAGR)の326Ala残基をVal残基に置換したペプチドA326Vを不完全フロイントアジュバント(IFA)とともにエマルジョンとしたものを、卵白食摂取開始の7日前および1日前にOVA23-3マウスの腹腔に投与した。卵白食摂取開始後、体重変化と臨床症状の観察を行うとともに、毎週マウス尾静脈から採血し、血清中のOVA特異IgE抗体価を酵素免疫測定法(ELISA)で測定した。・遺伝子導入マウスを用いた食品中の成分の抗アレルギー活性の検討:母乳とほぼ同じ組成のヌクレオチドを0.4%添加した飼料(NT(+)食)または、ヌクレオチド無添加の飼料(NT(-)食)を、離乳直後(3週齢)のOVA23-3マウスに2%OVA水溶液投与下で自由摂取させた。OVA23-3マウスの採血は、摂取開始後2、4および6週間後に行い、血清中のOVA特異的IgG1、IgG2a、およびIgE抗体価をELISA法により測定した。また、4週間後に脾臓細胞を調製し、OVAの存在下で培養し、上清中のサイトカイン(IFN-γおよびIL-4)の濃度をELISA法により測定した。・サトイモ中の抗高脂血作用成分の解明:8品種のサトイモのエタノール抽出物について阻害活性を検討し、その中で強い活性を有するものについて大量抽出を行い、得られた抽出物を分画し、活性成分を単離、構造決定を行った。
結果と考察
・脾臓中のT細胞、B細胞、CD4陽性細胞、CD8陽性細胞の組成比は、正常BALB/cマウスとニンジン汁投与マウスの間で、有意な差がなかった。一方、ニンジン汁を投与したマウスの腸間膜リンパ節では正常マウスのそれと比べ、リンパ球に対するT細胞の組成比の減少が認めら
れ、B細胞の組成比の増加が認められた。ニンジン汁を投与することで、脾臓ではなく腸間膜リンパ節においてリンパ球組成の変動がみられたことは、同汁の抗アレルギー活性が、成分の直接的な全身免疫系への作用ではなく、消化管免疫系への影響を介した全身免疫系の制御する可能性を示唆している。・重合度により分画した各画分のタンパク結合性について検討した。その結果,重合度が増すに従って、タンパク結合性が大幅に上昇することが明らかになった。またACT、再構築ACT(rcACT)、再構築したACTから二量体画分を除いたもの(rcACT-Dimer)、二量体画分について耳肥厚抑制活性を比較したところ、ACT投与群、rcACT群のマウスでは耳介の腫脹が抑制されたのに対し、Dimer群、rcACT-Dimer群のマウスでは有意な腫脹の抑制は認められなかった。様々な重合度のプロシアニジン(PrCy)の混合物であるACTが抗アレルギー活性を発現する際に、比較的重合度の大きなPrCyが、重合度の小さなPrCyとタンパクとの結合や会合を阻害することで、重合度の低いPrCyの遊離量を増加させ、結果としてACTのin vivoでの強い抗アレルギー活性が発現するということが示唆された。・RR-Aは50μMから500μMの範囲で濃度に依存したヒスタミン遊離抑制活性を示し、ketotifenと同等の活性を示した。単離した11種のアシルアントシアニンについて同様の検討を行ったところB糖の2位のアシル基がferuloyl基であると、比較的強い活性を示すことが明らかになった。また、細胞内カルシウム濃度の変化を分析の結果、RR-Aのヒスタミン遊離抑制活性発現にCa2+イオンの流入が関与する可能性は低いと考えられた。・卵白食摂取のみの群(摂取量は1匹あたり一日OVAとして約200 mg)、H328Q投与群、PBS投与群では、卵白摂取開始後から体重の減少が認められた。体重減少は3~4週間目まで続き、その後増加に転じ、8週間目でほぼ回復した。また、3つの対照群では、複数のマウス個体に下痢の症状が認められ、各群それぞれ一匹ずつ症状の悪化に伴う死亡個体があった。一方、A326V投与群では、軽度の下痢を示した個体は認められたものの、ひどい下痢症状を示した個体、死亡した個体はなかった。本研究で用いたin vivoにおける食品アレルギー反応モデルにおいて、アレルギー抑制効果を示すことが明らかとなった。・培養上清中のIFN-γおよびIL-4量をELISA法にて測定したところ、IFN-γ産生は、NT(+)食群がNT(-)食群に比べて有意に高かった。一方、IL-4 産生は、両群間で有意な差は見られなかったものの、NT(+)食群で低下する傾向が見られた。NT(+)食群では、NT(-)食群に比べ、血清中のOVA特異的なIgE抗体価が、有意差は見られないものの低下する傾向が見られた。血清中のOVA特異的なIgG1抗体価は低下し、IgG2a抗体価は高くなる傾向が認められた。ヌクレオチドの経口摂取はマウス脾臓T細胞のTh1型サイトカイン産生を増強することが明らかとなった。さらに、ヌクレオチドの経口投与は抗原特異的なIgE産生を低下させることも明らかとなった。・8品種のサトイモの中で愛知早生(愛知県産)、八つ頭(茨城県産)のエタノール抽出物が比較的強い酵素阻害活性を示した。そこで「愛知早生」同抽出物について活性を指標としながら分画したところ、monogalactosyldiacylglycerol (MGDG)及び、digalactosyl-diacylglycerol (DGDG)を主成分とする画分に活性がみられた。そこで、さらに分画を行い得られた7種の化合物の阻害活性を測定したところ、画分Dから単離したMGDGで、0.3 mg/mLの濃度で28-36%、画分Gから単離したDGDGで41-67%の阻害活性が見られた。ラノステロール生合成の前駆体であるオキシドスクワレンと脂肪酸とはある程度構造が類似していることから、脂肪酸部が酵素に認識され、阻害を示した可能性が考えられる。
結論
・ニンジン汁は、正常動物に対し腸間膜リンパ節のリンパ球組成を変化させることから、消化管免疫系を介し全身の免疫系の制御する可能性が考えられた。・リンゴポリフェノールの抗アレルギー活性の発現において、重合度の異なる画分の相乗作用が存在し、その要因の一つとして重合度によるタンパク結合性の
違いが関与することを証明した。・アカダイコン由来のアシルアントシアニンについて、ヒスタミン遊離抑制活性を測定し、活性の強いアシルアントシアニンは、feruloyl基を有することが明らかとなった。また、acyl基中のmethoxyl基が抗アレルギー活性の鍵となっていることが推測された。・OVA23-3マウスにOVAを投与し構築したin vivo食品アレルギー反応モデルにおいて、T細胞応答を抑制する活性をもつ抗原アミノ酸置換アナログを投与することで、食品アレルギー症状を抑制できることを明らかにした。従って、アレルゲンのアミノ酸置換アナログを用いることで食品アレルギーの抑制が、原理的に実現可能であることが判明した。・ヌクレオチドの経口摂取はマウスにおいてTh1型のの免疫応答を高め、抗原特異的なIgE応答を抑制することを示した。Th1応答の増強は、ヌクレオチドがマクロファージのような抗原提示細胞によるIL-12産生を高めていることによると考えられた。従って、ヌクレオチドはアレルギーの抑制に有用であることが示唆された。・サトイモに含まれる抗高脂血作用を有する成分の単離・同定を行い、活性主成分はDGDGであることを明らかとした。

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