精巣細胞各種分化系列を標識する抗体の作成と精巣障害解析の技術基盤の整備

文献情報

文献番号
200000978A
報告書区分
総括
研究課題名
精巣細胞各種分化系列を標識する抗体の作成と精巣障害解析の技術基盤の整備
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
井上 達(国立医薬品食品衛生研究所 毒性部)
研究分担者(所属機関)
  • 堀井郁夫(日本ロシュ研究所 前臨床科学研究部)
  • 加藤千明(日本ロシュ研究所 前臨床科学研究部)
  • 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 毒性部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,242,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、精巣における精子形成過程(spermatogenesis)の状態を、迅速かつ鋭敏に把握する解析技術を確立することにある。具体的には、1)ラット精子形成細胞の1つ、round spermatidの細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体の作成、およびその抗体の認識分子を明らかにすることを目指す。また、あわせて、2)独自に開発したセルソーターを用いた精子形成過程の解析法の有用性を、ラットに、種々の精巣障害性化学物質を投与することにより検討する。
研究方法
本報告では、「6F抗体の反応性」と「6F抗体を用いた精子形成過程解析法の妥当性」という観点から、実験を2つに大別し報告する。前者を実験A、後者を実験Bとする。
[実験A] 6F抗体の精巣細胞および各種組織との反応性の検討
A-1. セルソーターによる解析とround spermatid細胞の分取
雄性Sprague-Dawley ラット(13週齢)の両精巣を摘出し、0.25% コラゲナーゼ 処理の後、ピペッテイングとナイロンメッシュにより単離精巣細胞を得た。抗体反応に際しては、先ず1次反応として、6F抗体を、0.1 _g/106 cellsで反応させ、続いて2次反応を、FITCラベルした2次抗体を、0.1 _g/106 cellsで反応させることでおこなった。DNAの染色に際しては、抗体反応後の精巣細胞を70%冷メタノールで固定の後(1時間)、0.25% RNase 処理を20 分間施し、50 _g/ml propidium iodide (PI)を用いて、30分間遮光・氷冷下で反応させ、その後106 [cells/ml]の単離精巣細胞後(細胞分取の場合は、107 [cells/ml])を、セルソーター(FACSCalibur, Becton DickinsonあるいはFACSVantage, Becton Dickinson)を用いて解析、細胞分取をおこなった。また、実験によっては、上記の手法を用いて、各種系統の実験動物、具体的には、3系統のマウス[C57BL/6NCrj、C3H/HeNCrj、 Crj:CD-1]、2系統のラット[Crj:Wistar 、F344/DuCrj]、モルモット[Std: Hartley]、ハムスター[Slc: Syrian]、の各精巣を用いた。さらに、各日齢(生後7, 14, 21, 28, 35, 42, 49日)のSprague-Dawley ラットの精巣も用いた。
A-2. 免疫組織化学的解析
6F抗体は、これまでの解析により、ウエスタンブロッティング法での変性条件下(SDSと加熱処理[95℃と65℃ 30min])では、抗原との反応性がなくなるという特徴を有することが明らかとなっている。そこで、6F抗体を用いた免疫組織化学的検討は、凍結切片を用いて検討した。組織は、雄性Sprague-Dawley ラット(13週齢)の各種組織(脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、胸腺、精巣、精管、精巣上体)を用いて検討した。
A-3. 6F抗体の認識分子(抗原)の同定の検討
6F抗体のラット精巣細胞との反応性は、ウエスタンブロッティング法では検討できなかったため、SDSを用いない、Native-PAGE法を検討した。
[実験B] 6F抗体を用いた精子形成過程解析法の有用性・妥当性の検討
B-1. 精巣障害モデルラットの作製
実験1. Adriamycin (0, 1, 2 mg/kg)を 6週齢雄ラットに4週間経口投与した。
実験2. Ethynylestradiol (0,3,10 mg/kg)を9週齢雄ラットに2週間経口投与した。
B-2. セルソーターを用いた精巣細胞の分類と解析
上記の実験Aと同様の手法を用いた。また、回収した全単離精巣細胞数は、添加した既知濃度の蛍光標識ビーズ(Immuno check, Epics)との比により求め、薬剤投与による精巣毒性を各分画の細胞数の変化として捉え、評価した。
結果と考察
[実験A] 6F抗体の精巣細胞および各種組織との反応性の検討
A-1. セルソーターによる解析と細胞分取
6F抗体は、半数体精子細胞(ploidy: nとsub-nの分画)と反応し、特に、round spermatid細胞の24%の細胞集団および、elongating spermatid細胞の73%の細胞集団と強く反応した。ploidy: n分画には、1)強陽性分画、2)弱陽性分画、および3)陰性分画が存在し、ploidy: sub-n分画には、1)弱陽性分画、および2)陰性分画が存在した。また、陰性分画にもround spermatid細胞およびelongating spermatid細胞が存在した(それぞれ4%および14%の細胞集団)。
また、6F抗体との反応性は、各系統のラットのみで認められ、そのラットに対する種特異性が明らかとなった。このような種特異性の生じる原因としては、サイトカイン受容体などでも知られるように、6F抗体の認識分子(抗原)が、種によって異なる可能性が示唆された。
さらに、各日齢ラットの精巣細胞の解析では、生後28日では、ploidy: n分画の弱陽性分画のみ、認められたが、生後35日には、強陽性分画も認められるようになった。ここで、注目すべき点は、各日齢において、この陽性分画が現れても、陰性分画が常に存在することである。
したがって、半数体精子細胞系列は、6F抗体と反応するサブグループと、反応しないサブグループとに分けられ、反応するサブグループにおいては、6F抗体の反応性は、細胞分化の時系列に従って、ploidy: n分画で一過性に増加することが示唆された。
A-2. 免疫組織化学的解析
コントロール1次抗体と比較して、6F抗体と強く特異的に反応する組織は、精巣のみであった。また、精巣組織内でも、精細管によっては、6F抗体と反応するものと、反応しないものが認められた。このことも、6F抗体と反応しない半数体精子細胞系列が存在することを示唆している。また、この結果は、6F抗体の認識分子(抗原)が、精巣のみに発現していることを示唆しており、精巣細胞分化に特異的な分子を6F抗体が認識している可能性が示唆された。今後、6F抗体の認識分子(抗原)の遺伝子の特定を通して、新たな精子形成細胞の分化制御因子の発見が期待された。
A-3. 6F抗体の認識分子(抗原)の同定の検討
6F抗体のラット精巣細胞との反応性は、ウエスタンブロッティング法では検討できなかったため、SDSを用いない、Native-PAGE法を検討したが、今回の実験条件では、検出できず、今後さらなる条件検討が必要と考えられた。
[実験B] 6F抗体を用いた精子形成過程解析法の有用性・妥当性の検討
実験1:Adriamycin投与
Adriamycin投与動物で認められた2n-Lの減少傾向と4n-L、4n-R及びn-Rの減少は、4週間投与により、精原細胞からround spermatid細胞までの生殖細胞が障害を受けていることを示すものと考えられた。6F抗体に対する反応性では、round spermatid細胞における弱陽性細胞の減少が最も顕著に認められた。round spermatid細胞の6F抗体陰性分画についても細胞数は減少していたが、強陽性細胞数に大きな変化は認められず、6F抗体の機能検査としての有用性が示唆された。
実験2:Ethynylestradiol投与
Etynylestradiol、2週間の投与によるn-Lの減少、n-Rと4n-Rの減少傾向は、round spermatid細胞とpachytene 期細胞の減少及び変性像が見られるという文献結果と符合している。また、2n-Rの減少傾向は、ライディッヒ細胞の変性と符合している。6F抗体との反応性では、round spermatid細胞の弱陽性分画と強陽性分画細胞数の減少傾向が認められた。Ethynylestradiolによる精巣障害は、testosterone産生の減少に起因したstage特異的な変化であることが報告されており、今回認められた変化は作用メカニズムや作用部位を類推する上で有用であると考えられる。
結論
1. 作成した6Fモノクローナル抗体は、ラット半数体精子細胞と反応し、その反応強度から、1)強陽性分画、2)弱陽性分画、3)陰性分画に分けられる。
2. この強陽性分画は、round spermatid細胞の24%の細胞集団および、elongating spermatid細胞の73%の細胞集団であった。また、6F抗体は、精巣上体管内の精子および精管内の精子とは反応しなかった。
3. 精巣切片(精細管)を用いた解析では、精子形成サイクル上、6F抗体と反応するステージと反応しないステージが存在した。
4. 6F抗体は、ラットに対する種特異性が認められた。
5. 6F抗体は、精巣組織特異的である可能性が示唆された。
6. 精巣に障害を起こすことが知られている薬剤(adriamycinとethynylestradiol)を用いて、6F抗体の有用性を検討した結果、従来の手法に比べ、より感度よく、的確に障害を把握できる可能性が示唆された。

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