生殖細胞系列の完全連続培養系の開発

文献情報

文献番号
200000977A
報告書区分
総括
研究課題名
生殖細胞系列の完全連続培養系の開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 英明(東北大学大学院農学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 新比恵啓志(田辺製薬(株)安全研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,291,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
個体の死を越えて生きながらえるために生物は生殖細胞をもつが、雌雄の性をもつ高等動物では受精により次世代へ自らの生命を伝承する。すなわち精子と卵子の合体により胚をつくり、さらに始原生殖細胞(primordial germ cell, PGC)を誕生させる。PGCは生殖原基へ移動し、減数分裂に入り、精子、卵子をつくり、受精へと進む。このような生殖細胞系列の「不死」の流れが永続性のある生物を成すわけであるが、このような流れは現在のところ、個体の力を借りてしか維持することはできない。しかし、個々の分化段階の生殖細胞の培養は可能となっており、その全分化過程を体外で再現することは潜在的に可能である。体外で一連の流れを再現できるようになれば、個体に依存せずに生存し続ける新しい「独立生命体」を手に入れることができる。このようなことが可能になれば動物産業(畜産や実験動物分野)、医療、環境保全に貢献することになる。本研究は、このような問題意識を背景に、生殖細胞系列の完全連続培養系の開発を目指して卵形成、成熟、精子形成、受精、初期発生、PGCの形成・増殖に関わる生理活性物質の同定や培養法の検討を行ったものである。また、このような培養にあたっては微生物管理が重要であり、そのような観点からも検討を行った。
研究方法
マウスとブタの系を用いて、卵成熟、受精、初期発生、ES細胞、精子形成、微生物フリー培養細胞に関する実験を行い、それらの中から開発された培養系を連続させる試みを行った。さらに、特に平成11年度に樹立した胚由来細胞を用いる遺伝子改変生殖細胞系列を得るとともに、胚由来細胞から始原生殖細胞の幹細胞を得る系を作成する試みも行った。
結果と考察
(A)卵成熟、受精、初期発生:ブタの系で未成熟卵母細胞から脱出胚盤胞期胚の作出に成功した。この過程で良好な体外受精率を示すTU(Tohoku University)培地を開発した。また分離を進めていた卵母細胞死滅抑制グリコサミノグリカンがヒアルロン酸であることを明らかにし、さらにヒアルロン酸を含む培地で体外受精卵を培養することにより、脱出胚盤胞をつくることができた。さらに体外で作出したブタ脱出胚盤胞からES様細胞を樹立した。またマウスにおいても未成熟卵を高率に脱出胚盤胞へ発生させる体外成熟・体外受精・体外発生系を確立した。この細胞はneo耐性遺伝子・G418による遺伝子操作が可能であったが、実際に緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を導入し、遺伝子導入細胞だけを選抜することができた。さらにGFP遺伝子導入細胞を除核未受精卵と電気融合し活性化する条件を明らかにし、脱出胚盤胞まで発生させることに成功した。樹立した胚由来細胞は遺伝子操作に耐えうる細胞株であり、このような細胞を体外で分化させ、始原生殖細胞に分化誘導する系の作出に努力しているが、未だ成功していない。
(B)精子形成:レチノイン酸によるP19EC細胞の分化過程および細胞死の過程発現誘導されるRA70は細胞質に存在する分子量55kDaの蛋白であり、ヒトFyn 結合蛋白 SKAP 55と一部高いホモロジーを示す。また、RA70はSKAP 55と同様、PHドメインとチロシンリン酸化部位をもつ。RA70はIn VitroではSKAP55同様、Fyn SH2ドメインと結合しP19EC細胞に発現しているSrc familyのHckとの相互作用がみられた。In Situ hybridizationによる解析の結果、RA70は精巣の精子細胞に多く発現することが明らかとなった。RA70は精子形成過程でSrcファミリーと結合し、カスパーゼ活性化の機構を介して、減数分裂にともなう異常生殖細胞の細胞死を制御している可能性が考えられる。
(C)微生物フリー培養細胞:培養細胞の実用化にあたっては様々な面からその安全性を検討する必要がある。近年、JCRB細胞バンクの調査から、ウシ由来血清にBVDV(ウシ下痢症ウイルス)の汚染のあることが明らかになってきた。しかし、検査にあたっては感度を上げるためにRT-PCR法を採用したためウイルスの生物活性の有無についてはいまだ不明である。これを確認するためには、BVDVに汚染されていないウシ細胞系を入手する必要があるが、流通しているウシ細胞の大部分は既にBVDVが感染していると推定される。そのため、BVDVフリーのウシ胎児から新たに非汚染細胞系を樹立し、その性状を確認した。
未成熟卵を高率に脱出胚盤胞へ発生させる体外成熟・体外受精・体外発生系を確立し、脱出胚盤胞から胚由来細胞を樹立することに成功し、胚由来細胞から始原生殖細胞の樹立に努力しているが、成功していない。しかし、樹立した胚由来細胞は遺伝子操作に耐えうる細胞であり、遺伝子改変胚由来細胞の体外分化を試みるとともに、除核未受精卵と融合させ脱出胚盤胞期胚を経由して始原生殖細胞を樹立しようとしている。新規タンパク質・RA70は精子形成過程でSrcファミリーと結合し、カスパーゼ活性化の機構を介して、減数分裂にともなう異常生殖細胞の細胞死を制御している可能性を指摘した。
結論
胚由来細胞に遺伝子を導入し、その生殖細胞系列への影響を解析するため、遺伝子導入胚由来細胞の樹立と核移植による遺伝子改変胚由来細胞由来胚盤胞の作出を目的として実験を行なった。遺伝子導入胚由来細胞の樹立と核移植による遺伝子改変胚由来細胞由来胚盤胞の作出に成功したが、このような細胞を体外で分化させ、始原生殖細胞に分化誘導する系の作出に努力しているが、未だ成功していない。

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