ラット初代培養肝細胞を用いる毒性評価系の確立

文献情報

文献番号
200000975A
報告書区分
総括
研究課題名
ラット初代培養肝細胞を用いる毒性評価系の確立
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
四宮 貴久(国立小児病院小児医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 嶋本典夫(武田薬品工業)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,145,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬物の各種毒性をラットの初代培養肝細胞を用いて解析し評価する方法を確立することを目的として研究を行った。
研究方法
Wistar 系雄性ラットを用いコラゲナーゼ灌流法により肝細胞を単離した。単離細胞を 10 % FCS,100 nM insulin 及び100 nM dexamethasone を加えた WILLIAMS'E 培地を用い 95 % air / 5 % CO2, 37 ℃ で培養した。内因性酸化ストレス惹起剤として Cat 阻害剤 3-amino-1,2,4-triazole,GPx 阻害剤 mercapto-succinic acid を用いた。Trypan Blue色素排出 (%) を測定し細胞死の指標とした。また,酸化ストレスは蛍光色素である dihydroethidium (DHE) 酸化量で評価した。核の形態は Hoechst 33342 で染色し蛍光顕微鏡で観察した。DNA の断片化検出にはアガロースゲル電気泳動を行った。Caspase の酵素活性は蛍光標識ペプチドを用い,その反応量を蛍光マイクロプレートリーダーで測定した。また ERKs の活性は基質である Elk-1 のリン酸化量を指標としてウエスタンブロッティングで調べた。ミトコンドリアの膜電位はDiOC6(3) の取り込み活性を flow cytometry で測定した。チトクロ-ムcの放出は,SDS電気泳動後,抗チトクロ-ムc抗体を用いた Western blot により検出定量した。また,活性化型の Caspase の Western blot による検出には,抗-Caspase 3 抗体を用いて行った。
結果と考察
ラット初代培養肝細胞において,内因性酸化ストレスにより核の凝縮および DNA の断片化を伴った apoptosis 細胞死が誘導され,Vitamin C や Vitamin E などの抗酸化剤の同時添加により細胞死は抑制された。また,DHE の酸化量が培養時間依存的に増加した。以上のことから,apoptosis に内因性酸化ストレスが影響を及ぼしていることが明らかとなった。
ATZ+MS 処置により誘導される apoptosis は caspase (2,3,6,7,8,9) の活性化を伴わず,汎 caspase 阻害剤である z-VAD-fmk により apoptosis が抑制されなかったことから caspase 非依存的な細胞死メカニズムの可能性が示唆された。一方,同培養条件において,TNF-α/actinomycin D 処置を行った時caspase (2,3,6,7,8,9) の活性化が検出され,さらに z-VAD-fmk 処置によりこの apoptosis が顕著に抑制されたことから,ラット初代培養肝細胞は、caspase 依存的及び caspase 非依存的 apoptosis メカニズムの両方を有する可能性が示された。
非特異的な protein tyrosine kinases 阻害剤である genistein,herbimycin A の処置により apoptosis が完全に抑制されたことから,protein tyrosine kinase(s) の関与が示唆された。また,ATZ+MS誘導 apoptosisに先立って ERKs の活性化が検出され,さらに MEK1/2 の特異的阻害剤である U0126 の添加により ERKs の活性化,細胞死,核凝縮,DNA 断片化のすべてが抑制された。 これより,従来生存シグナルとして考えられていた ERKs の活性化が apoptosis 誘導に関与していることが示された。最近,酸化ストレスによる細胞傷害に ERKs の活性化が関与するということが多数報告されてきており,ERKs 活性化阻害により細胞傷害が減弱されることも同様に示されている。これらの結果は,我々の実験結果を強く指示する。ATZ+MS 誘導細胞傷害における ERKs 関与の詳細なメカニズムについては今後の検討が必要である。
MTTアッセイによりミトコンドリア依存性のアポトーシス誘発薬物のスクリーニングが効率良くできることが示唆された。また,詳細な薬理学的実験の道具として,更に各種の遺伝子が変更された肝細胞が必要と思われる。
結論
Cat 及び GPx 阻害による内因性酸化ストレスラット初代培養肝細胞傷害において,ERKs の活性化が細胞死誘導メカニズムに大きく関与していると考えられる。ラット初代培養肝細胞において caspase 依存的及び caspase 非依存的 apoptosis メカニズム (ERKs の活性化介する apoptosis メカニズム) が存在する可能性が示された。また,MTTアッセイとミトコンドリア傷害がかなり密接に関係することも示唆された。

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