食中毒細菌の検出方法の開発と評価

文献情報

文献番号
200000973A
報告書区分
総括
研究課題名
食中毒細菌の検出方法の開発と評価
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山本 茂貴(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 池戸正成(栄研化学株式会社、微生物グループ)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,573,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、世界的に腸管出血性大腸菌による食中毒が多発してきた。腸管出血性大腸菌の血清型O157は他ベロ毒素産生大腸菌と比べ特異な性質が多くまた感染者数が多いことからその検出方法の開発・研究は盛んに行われ優れた方法が数種類示されている。しかし、O26等の他血清型については研究が乏しくベロ毒素非産生の大腸菌と異なる性質がほとんど知られておらず検出が困難であり問題とされている。また、環境中に生存する菌は人に感染した状態とは異なることが知られている。汚染源となりうる水中等の低栄養状態に暴露した菌について性状の変化等を明らかにし、適した検出方法が示される必要がある。さらに、近年、環境中等で生きてはいるが培養できない状態(Viable But Non Culturable、VBNC)の細菌の存在が明らかになっており、このような病原細菌の分離についても検討する必要がある。本研究は、これら検出が困難とされている腸管出血性大腸菌を高感度に検出する方法を見いだすことを目的とし、世界的にも患者数の多い血清型O26の検出方法と低栄養に暴露され培養が困難な状態の菌についての検出方法を検討することを行う。
研究方法
1. 腸管出血性大腸菌O26検出培地:平成10年度および11年度で開発した発色酵素基質を用いた腸管出血性大腸菌血清型O26(O26)の分離用培地(CT-O26)について、以下の評価を行った。
1) 実検体を想定した評価:少数のO26に汚染された食材からの検出を想定し、食品検体25 g あたり 2 CFU になるようにO26の菌株を接種し、N-mECで増菌しO26の分離を行った。また、検出感度を高める目的で、免疫磁気ビーズによる分離法(IMS)を併用した。対照培地としてCT-RMACを用いた。
2) 検査研究機関での評価:各地の衛生研究所あるいは保健所の10施設にて、過去の事例で分離した菌株、保存検体あるいは人為的に汚染させた便検体を用いてCT-O26の性能の評価を行った。
3)培地の選択性の検討:便検体を対象にした場合、現処方のCT-O26では選択性が低いと思われたため、より選択性の高い培地処方の検討を行い、保存菌株と便を用いて性能の確認を行った。亜テルル酸カリウムの添加量を2.5μg/mlに増加した。また、CT-O26に使用しているラウリル硫酸ナトリウムに代えて、デスオキシコール酸ナトリウムを添加した培地(CT-O26(D))と、デスオキシコール酸ナトリウムとコール酸ナトリウムを添加した培地(CT-O26(DC))の2種類の培地を作製した。この培地についてO26とそれ以外の菌の発育性を確認し、また健常人の便にO26を接種した検体を用いて分離性を評価した。
2. 低栄養に暴露された菌について:腸管出血性大腸菌O157:H7は臨床由来の10株を用いた。菌株はTryptic Soy Broth(TSB)(DIFCO)あるいはLB mediumに植菌し、37℃で一晩前培養した菌液をさらに新しい培地に接種し37℃で培養した。この培養液を遠心して得られた菌体を保存に用いる溶媒あるいは滅菌ミリQ水で洗浄を3回繰り返して得られた菌液を、溶媒に適当な初期菌数となるように懸濁して、一定温度で保存した。VBNC化の確認は培養可能菌数をTrypticase Soy Agar(TSA) (DIFCO)平板培地上に生育したコロニー数(cfu)として測定し、生菌数はLive/Dead Baclight bacterium viability kit(Molecular Probes Europe)による蛍光染色法あるいは木暮法によって蛋白合成能を指標として測定した。VBNCから培養可能状態への復帰のための条件検討として、生体内での復帰を見るためにBALB/cマウス(♀)に作成したVBNC化菌液を経口投与した。1週間後に安楽死させ、摘出した腸管および腸管内容物を直接、あるいはTSB中で37℃で一晩培養した液をO157免疫抗体ビーズ法を用いてO157選択培地に塗抹し、37℃、一晩培養してO157のコロニー形成の有無を調べた。また、in vitroでの復帰では、嫌気/好気培養、生体成分あるいは無機塩類等を添加しての培養あるいは培養温度、時間、使用培地等の検討を行った。
結果と考察
1. 腸管出血性大腸菌O26検出培地:
1)実検体を想定した評価:検体の増菌培養物を直接培地に塗抹した実験では、供試した牛挽肉、牛レバー、アルファルファ、レタスの各10検体のうちそれぞれ、5、6、2、7例でO26が分離されたが、既存の培地であるCT-SMACでは牛レバーで3例、レタスで7例であり、他の2食材からは検出できなかった。IMSを用いた方法では、CT-O26での検出率は向上したが、CT-RMACでは改善できなかった。
2)検査研究機関での評価:a) 保存菌株を用いた評価;122株のベロ毒素産生O26はCT-O26に特徴ある暗紫色のコロニーを形成し容易に鑑別ができた。ベロ毒素非産生O26では緑色に発色する株もあった。EHEC以外の大腸菌と他の腸内細菌は、発育が抑制され容易にO26との鑑別ができた。b) O26を接種した健常人の便を用いた評価;O26はCT-O26で他の菌と容易に鑑別することができた。c) 食中毒事例検体を用いた評価;CT-O26およびCT-RMACの両培地で検出される場合もあったがCT-RMACでは検出されても CT-O26では検出されない例もあった。この原因はO26以外のラムノース陽性株が優性に発育し、培地全体のpHが低下して黄色に呈色したため、O26が特徴ある暗紫色のコロニーを形成できなかったと考えられた。そのため便のような腸内細菌の多数存在する検体では、これらの菌の発育を抑制する必要があると思われた。
3)培地の選択性の検討:上記問題に対応し選択性を高めた2処方の培地、CT-O26(D)、 CT-O26(DC)では血清型O26以外の非病原性の大腸菌等の発育を抑制した。しかし、O26の発育やコロニー色に問題は認められなかった。健常人の便にO26の菌株を接種した検体(5×103 CFU/g)では、3種類の培地すべてでO26の確認ができた。選択性を高めた2種類の培地ではO26以外の菌の発育が抑制された。
2.低栄養に暴露された菌について:VBNC化における培養可能菌数(cfu)については、溶媒中において1cfu/ml以下に減少するまで1~5ヶ月以上を要し、河川水中においてcfuは非常にゆっくりと減少した。また、生菌数については、比較的速やかに培養できなくなる菌株では、培養出来なくなった直後(1cfu/ml以下)で蛍光染色法において104~106 cells/mlの生菌が確認され、この状態をVBNCと判断した。しかし、小暮法における生菌数は検出限界以下(104 cells/ml以下)であった。VBNC化した菌の培養可能状態への生体内での復帰については、マウス経口投与後、腸管あるいは腸管内容物および回収した糞便中からもO157は検出できなかった。in vitroでの復帰については、嫌気および好気培養、生体成分(アルブミン、胃由来ムチンおよび胆汁)および塩類(Mg, K, Ca, Zn)の作用によっても認められなかった。さらに、電解水(アルカリ性水)、VBNC化O157を培養可能状態へ復帰させることが報告されているcatalaseやピルビン酸によっても認められなかった。
結論
腸管出血性大腸菌O26 (O26)は食品25gあたり数個のO26でも、増菌培養とIMSを組み合わせることで開発した選択鑑別培地(CT-O26)によって検出できた。便検体では、選択剤の増量および変更によってO26の発育に影響を与えず、選択能を高めることができた。これらの結果から、食品および便からの分離に有用な培地が開発されたことが明らかになった。
また腸管出血性大腸菌O157:H7は、低栄養、低温の模擬環境条件下において長期間生存可能であることが多数の菌株で認められ、環境中の大腸菌O157:H7の汚染源としての危険性が示された。また、VBNCから培養可能状態への復帰は生体内あるいはin vitroいずれの実験系においても認められなかった。さらに、生菌数は測定法により異なったことから、大腸菌O157:H7に関してVBNCの定義、判定方法についてさらに検討を重ね、確立する必要性があると思われた。

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