感染症予防効果のある糖鎖を付加した多機能食用難消化性多糖類の開発とその有効性および安全性を評価する方法の開発

文献情報

文献番号
200000972A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症予防効果のある糖鎖を付加した多機能食用難消化性多糖類の開発とその有効性および安全性を評価する方法の開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小西 良子
研究分担者(所属機関)
  • 天野富美夫(国立感染症研究所)
  • 阪中専二(太陽化学(株)NF 事業部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,621,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腸管出血性大腸菌やサルモネラ、コレラ、ロタウイルスなど、腸管を経由して感染しヒトに重篤な症状を起こす腸管感染症が近年増加している。しかし、これらの感染症に対するワクチンの開発は遅れており、その安全性に関しても問題がある。さらに抗生物質の乱用は耐性菌の出現が懸念されその使用は制限されつつある。そこで、安全性の極めて高くかつ腸管感染症に対して予防効果の高い多機能食用難消化性多糖類の開発ならびにその有効性・安全性の評価方法の確立は、急務と考えられる。近年の糖鎖に関する目覚ましい研究の発展から、感染性細菌、細菌毒素やvirusが生体に感染するさいには、特定の糖鎖が関与していることが明らかになってきた。そしてこれらの糖鎖に対する病原微生物などの糖鎖認識能を利用して、感染症予防薬や医療等への応用も考えられている。本研究の目的は、病原微生物などが認識する糖鎖のうち複数を食用難消化性多糖類に人工的に付加して、感染予防効果をもつ食用難消化性多糖類を創製することである。本年度は、昨年度までの結果を踏まえて、オリゴ糖-食用難消化性多糖類コンジュゲイトを作成し、感染症起因菌の腸管細胞への吸着に対して阻害活性を指標とした有効性の評価およびマウスを用いた感染実験において感染予防効果を評価した。また、オリゴ糖-食用難消化性多糖類コンジュゲイトの体内動態の解析し、腸管滞留時間をオリゴ糖だけの場合と比較検討した。安全性の評価は感染防御に重要な役割を担っているマクロファージに対する影響を指標に評価を行い、食用難消化性多糖類としてデキストランを用いたコンジュゲイトでは免疫毒性が低いことが明らかになった。
研究方法
卵黄シアリルオリゴ糖ペプチド(SGP)は初年度報告した方法により作成した。脱シアル化SGP(Asialo-SGP)の作成はノイラミダーゼを用いた常法により行った。オリゴ糖-食用難消化性多糖類コンジュゲイトの作成はモノクロロ酢酸を用いる方法によりカルボメチル化(CM化)を行ったデキストラン(分子量50万以上)およびセルロ-ス(分子量10万以上)をシアリルオリゴ糖ペプチド(SGP)およびアシアロオリゴ糖ペプチド(Asialo SGP)と水溶性カルボジイミドにより共有結合させた。シアリルオリゴ糖ペプチド(SGP)のアミノ基とCM化デキストラン、CM化セルロ-ルおよびEDCのカルボキシル基の結合モル比は、SGP-デキストランおよびSGP-セルロース中に含まれるシアル酸の濃度から換算した。
ヒト腸管培養細胞を用いた腸管感染症起因菌接着阻害実験はCaco-2 細胞を用いて行なった。
腸管感染症起因菌としてはサルモネラ・エンテリティディス(S.E)、下痢原性大腸菌K-88(E.coli)を用いた。Caco-2細胞は、コラ-ゲン処理した24 well プレート(Coster社)上に単層培養したものを用いた。SGP-デキストラン、SGP-セルロースおよびAsialo SGP-セルロースは、シアル酸の濃度に換算して100 _M、1mMの濃度で調整し、Caco-2細胞のapical側より添加し60分インキュベートした。前培養したS.Eおよび E.coliを106-107/wellに調整しapical側より加え、4℃ 60分インキュベ-トした。付着しなかった菌をPBSで洗浄後、0.1% triton Xを含むPBSにより細胞を破壊し段階希釈したのちtryptic soybean agar (TSA)にまき、一晩インキュベ-トしコロニーを測定した。
SGPおよびSGP-セルロースの体内動態は放射性標識物質を用いて行なった。SGPは125I を用いて常法により標識を行った。カ-ボン標識SGP-セルロースはカ-ボン標識セルロースを用いてSGPと共有結合させ作成した。6週令Balb/cのオスのマウスに125Iー-SGPおよび14C-SGP-セルロースを経口的にマウスに強制投与し、0、24、48,72時間後に糞を集め125Iはガンマーカウンターにより、14Cはサンプルオキシダイザーにより放射活性を測定した。
マウスを用いたサルモネラ・エンテリティディス感染実験は、6週令Balb/cのオスを用いておこなった。S.Eを経口感染させる1日前から蒸留水にSGP-セルロースを0.1%の濃度に溶解して調整した飲水を与えた。1×106/mouseのS.Eを胃ゾンデを用いて強制感染させ2,4,6,9日後の腸管リンパ節中の菌数を測定した。対照としては、蒸留水をあたえたマウスを用いた。
オリゴ糖-食用難消化性多糖類コンジュゲイトの安全性の評価はマウスマクロファージ系細胞株J774.1細胞を用いて行った。細胞に100uMSGP、SGP-セルロース、SGP-デキストランを0.1%添加し、さらに0.5mg/ml Zymosanを添加して37C、20時間培養して培養上清中に遊離されたTNFa, IL-1bをELISAで、NO2-をGriess試薬で検出・定量した
結果と考察
CM化デキストランおよびセルロースへのSGPの結合モル比は、それぞれ12対1,20対1であった。以下の実験はこのSGP-デキストランおよびSGP-セルロースを用いて行った。
Caco-2 cellを用いて腸管感染症起因菌接着阻害効果を調べた結果、SGP-デキストランではSGPよりも強くSEのCaco-2 cellへの接着を阻害していたことがわかった。さらにこの効果は濃度的に広範囲に見られた。SGPを結合させていないCM化デキストランでは接着阻害は認められなかった。E.coliのCaco-2 cellへの接着阻害はSGPのみでは認められなかったが、SGP-デキストランでは認められた。これはSGPのみでは発現されなかったあたらしい阻害活性がコンジュゲイトになることによって生まれた可能性を示唆している。SGP-セルロースを用いた接着阻害実験ではSGP程強くはなかったがSEに対して阻害活性が認められた。E.coliの接着阻害はSGPのみでは認められなかったがSGP-セルロースは強い阻害活性を示した。脱アシル化SGPを結合させたセルロースにおいては、いずれの菌に対してもSGP-セルロースより低い接着阻害を示した。
SGP-セルロースの腸管滞留時間の検討によりSGPは摂取後24時間をピークに糞中から検出されなくなった。一方SGP-セルロースは摂取後24時間目から徐々にふえはじめ72時間目までも増加していた。このことから、SGP-セルロースは摂取後糞となって長時間かけて排出されることが示唆された。摂取後72時間目の盲腸内の放射活性はSGPのみ摂取した場合と比較してSGP-セルロースは高い活性を示した。これらのことはSGP-セルロースでは腸管滞留時間がSGPのみにくらべて有意に長くなったことを示唆している。
マウスを用いたサルモネラ・エンテリティディス感染実験では、コントロールでは感染後6日目から腸管リンパ節にその菌体が検出され9日後にはその菌数の増加が観察された。しかしSGP-セルロースをあらかじめ摂取させた場合では感染後6日目には菌が出現し始めるが9日には明らかに減少傾向を示した。これはSGP-セルロースの経口投与により、サルモネラ・エンテリティディスの経口感染を予防できる可能性を示唆している。
オリゴ糖-食用難消化性多糖類コンジュゲイトの安全性の評価はマクロファージの毒性を指標におこなった。TNFa産生は各試薬単独では添加効果がなかったが、ZymosanによるTNFaの産生増加がSGPによって阻害され、SGP-デキストラン、SGP-セルロースによって更に強く阻害されたが、これらは担体として用いたデキストランあるいはセルロースによる阻害を反映したと考えられる。一方、IL-1b産生は+/-ZymosanともSGP、SGP-デキストランの影響がなかったが、SGP-セルロースは促進した。さらに、NO2-産生は+/-ZymosanともにSGPは影響を及ぼさず、SGP-デキストランは強い阻害を示したものの、これはデキストラン担体による阻害を反映したものと思われる。なお、セルロースおよびSGP-セルロースはNO2-の検出系に干渉し、定量が不可能であった。
結論
すでに腸管感染症起因菌の接着阻害効果が明らかにされているオリゴ糖を食用難消化性多糖類であるデキストランおよびセルロースにつけることによってその腸管滞留性の向上を試みた。その結果、オリゴ糖-食用難消化性多糖類 コンジュゲイトは、その感染予防効果は保ったまま腸管滞留時間を延長させることに成功した。また、オリゴ糖だけでは感染予防効果のなかった菌種に対しても新たに予防効果をもつ可能性をヒト腸管培養細胞を用いた接着阻害実験において示した。

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