バイオテクノロジーを用いた薬物代謝酵素の特性解析と医薬品の適正使用化に関する研究

文献情報

文献番号
200000971A
報告書区分
総括
研究課題名
バイオテクノロジーを用いた薬物代謝酵素の特性解析と医薬品の適正使用化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
頭金 正博(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 宮本剛八郎(大塚製薬(株)徳島研究所)
  • 朝日 知(武田薬品工業(株)薬物機能第一研究所)
  • 難波正義(岡山大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,718,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医薬品の有効性や副作用の発現に大きな影響を及ぼす薬物代謝酵素のシトクロムP450(CYP)の機能解析にはこれまで主に実験動物が用いられてきた。しかし、CYPの特性には種差が存在するため、実験動物から得られたCYPの機能に関する結果をそのままヒトに外挿することはできない。また、ヒトを実験対象にした場合、実施可能な実験が制限されることから、詳細にヒトCYPの特性を評価できる実験系については限定的な系が開発されているのみである。そこで、ヒトでの医薬品の有効性あるいは副作用の発現を正確に評価するために、ヒト薬物代謝酵素の特性を詳細に解析する実験系の開発が望まれている。以上の観点から、本研究においてはバイオテクノロジーの手法を応用することによって、CYPの活性や誘導能を保持したヒト培養細胞やヒトCYP関連遺伝子を導入したマウスを作成し、ヒト薬物代謝酵素の特性を解析する試験系の開発を目的とした。また、医薬品の適正な使用には、個々の患者の薬物代謝機能を個別に評価することが必要になる。そこで、ヒトCYPの特性を解析する試験系を発展させ、実際の患者の末梢血を用いて簡便にCYPの機能特性を評価する方法の開発を目指した。
研究方法
(a)CYP遺伝子誘導能を評価するレポーター遺伝子測定系の構築
ヒトCYP3A4誘導能の測定はCYP3A4遺伝子の転写活性をレポーターアッセイで定量することによって行った。まず、CYP3A4遺伝子の転写調節領域とルシフェラーゼ遺伝子を挿入した組換えアデノウィルス(AdCYP3A4-362)をCYP3A4レポーター遺伝子として培養細胞およびマウスに導入した。この培養細胞あるいはマウスに種々のCYP誘導剤を投与し発現したルシフェラーゼ活性を測定することによって、CYP3A4遺伝子誘導能を測定した。
(b)恒常的肝細胞培養系の樹立
21週令のヒト胎児肝より細胞を採取し、SV40 T抗原遺伝子を導入し、選択培地中で1ヶ月後に生存してきたコロニーを単離した。CYP遺伝子の発現は、定量的RT-PCRで検討した。また、CYP1A1、1A2の酵素活性は7-ethozyresorufinの代謝で測定した。
(c)各種臓器・細胞のCYP3Aサブファミリー発現量の定量
医薬品代謝の主要酵素であるCYP3A4、3A5、3A7の特異的に増幅するプライマーを用いて、ヒト各種臓器由来の cDNA ライブラリー、ヒト末梢血、ヒト初代肝細胞および各種ヒト肝培養細胞におけるそれらの発現量の分布、薬剤による発現量の変化を competitive (RT-)PCRにより検討した。
(d)血液を用いた非侵襲的方法によるCYP活性予測系の検討
倫理委員会より許可され文書にて承諾を得たテオフィリン服用患者の血液を用いてCYP1A2サブタイプのmRNAの発現量をリアルタイムPCR法で測定した。また、テオフィリン血中濃度を測定し、CYP1A2のmRNA量含量との関係を検討した。
結果と考察
(a)各種ヒト培養肝細胞およびCYP 安定発現 HepG2 細胞を作成し、代謝・毒性試験系への利用を検討した。その結果、ヒト胎児肝由来培養細胞株OUMS-29株においては、UDP-glucuronosyl transferase、NADPH-P450 reductase、ethoxyresorufin O-deethlase 各活性、および CYP1A1、 1A2、 3A の発現誘導が確認され、本株は薬物代謝に関連する多くの特性を保有していることが示された。また、CYP1A1,3A4,2E1などを安定に高発現させた HepG2 細胞では CYP による代謝に加え、抱合反応等の肝特異的機能および代謝活性化による毒性発現機構が保持されていた。さらに細胞の 3 次元培養により長期的に安定な試験系の構築を検討したところ、多孔性ガラスビーズで固定化した場合、単層培養と比較して酵素活性は低いものの、2ヶ月間以上の長期にわたり安定した機能を発現した。従って、OUMS-29株や3次元培養CYP 安定発現 HepG2 細胞は今後の薬物代謝・毒性研究のツールとして有用であると考えられた。
(b) ヒトCYP3A4の誘導能を有した細胞株およびマウスの作成を試みた。CYP3A4レポーター遺伝子のAdCYP3A4-362を培養細胞のHepG2(ヒト肝癌由来細胞株),Ruber(ラット肝癌由来細胞株),COS-1(アフリカミドリザル腎由来SV40形質転換細胞株)およびLS174T(ヒト結腸腺癌由来細胞株)に感染させると,いずれの細胞においてもルシフェラーゼの発現が認められた。HepG2細胞をdexamethasone(DEX)およびclotrimazole(CLO)で処理するとルシフェラーゼ活性は上昇し,CYP3A4遺伝子の転写活性化が認められたが,rifampicin(RIF)による作用は観察されなかった。RIFによる転写活性化作用はLS174T細胞において見られたが,DEXおよびCLOに対する反応は認められず,用いた細胞の種類によって誘導剤に対する応答性が異なっていた。マウスにレポーター遺伝子を感染させた実験では、ルシフェラーゼ活性がDEX,RIFおよびCLO投与によって上昇し,CYP3A4遺伝子の転写活性化が認められた。また,いずれの薬物投与においても肝臓重量の増加およびマウス自身の肝臓テストステロン6β位水酸化活性の上昇が認められ,内在性CYP3Aの誘導も確認された。以上の結果から薬物のCYP3A4遺伝子誘導能をレポーターアッセイから評価するには,マウスを用いるin vivo評価系が有用であると考えられた。
(c)ヒト試料におけるCYP含量を簡便に測定する系を構築し、患者個別の薬物代謝活性の評価法としての有用性について検討した。まず、ヒト末梢血よりmRNAを調製し、CYP各分子種の含量を定量するRT-PCR法について検討した。また、CYP1A, CYP2C, CYP3Aの各群では類似した遺伝子構造をもつサブタイプが存在することから、定量法の特異性についても検討した。その結果、今回設計したPCRプライマーとプローブはサブタイプを含めた各CYP分子種を特異的に定量できることを確認した。この測定法を用いて測定した末梢血での各CYP分子種の含量と肝臓での含量を比較すると、肝臓ではCYP3A4が一番多く含まれており、2C9, 1A2, 2E1, 2A6, 2D6のそれぞれの分子種が検出されたのに対して、末梢血ではCYP2D6の含量が一番多く、ついで2E1, 2A6, 1A2の順で存在しており、CYP3A4や2C9は検出限界以下であった。以上の結果は、CYP1A2, 2A6, 2D6, 2E1についてはヒト末梢血を用いることによって薬物代謝活性を推定することが可能であることを示唆していた。
結論
ヒト薬物代謝酵素の特性をバイオテクノロジーの手法をもちいて解析する実験系の開発を行った。その結果、CYP1A2とCYP3A4の誘導能を有した培養細胞株およびCYP3A4の誘導特性を有したヒト型マウスを開発する事ができた。また、末梢血を用いて薬物代謝特性を推定するための基礎的検討を行った。

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