文献情報
文献番号
200000965A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト血液細胞情報伝達の解明とオリゴヌクレオチドを用いた治療法の開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
湯尾 明(国立国際医療センター研究所血液疾患研究部)
研究分担者(所属機関)
- 小泉 誠(三共株式会社創薬化学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
5,242,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
造血障害性疾患の病因は造血細胞自身の内在的異常に由来しており、血液疾患の中でもきわめて難治性である。その病因の一部は分子レベルで解明されつつあるが、依然として多くの事が不明である。このような疾患の病因の解明と新しい治療法の開発のためには、ヒト血液細胞の増殖、分化、アポトーシス等に関わる細胞間ならびに細胞内情報伝達機構を十分に基礎検討した上で、造血障害における分子病態の解明とその分子を標的とした特異的な治療法の開発に着手することが重要である。そこで、本研究においては正常血液細胞の細胞動態を分子レベルで解明しつつ、造血障害性疾患などの血液疾患の病因、病態の解明、診断法、治療法の開発に向けて、ヒトの系に絞って研究を進める。本年度は、CREBアンチセンスの作用の追加検討、Bcl-2全長遺伝子の誘導発現系を用いての新しい細胞死形式の探索、ヒト血液細胞株における造血因子によるアポトーシスとその細胞内情報伝達の解析を行った。
研究方法
実験に用いたホスホロチオエート型修飾アンチセンスオリゴデオキシリボヌクレオチド(AS-ODN)は、ホスホロアミダイト法にてDNA/RNA自動合成機で合成し、逆相高速液体クロマトグラフィーにて精製した。ヒト血液細胞株は、造血因子に非依存的に増殖する骨髄芽球細胞株HL-60と単芽球細胞株U937を用いた。細胞の増殖もしくはその抑制は生細胞数の算定により評価した。アポトーシスの同定に関しては、サイトスピン標本のギムザ染色やヘキスト33342を用いた核染色により形態面から評価する方法、電子顕微鏡により微細形態を観察する方法、FACSを用いた細胞周期解析におけるsubG1フラクションの定量、アガロース電気泳動によるDNA断片化(DNAラダーの形成)の検出、などの手法を用いた。蛋白の免疫沈降は、プロテインAセファロースビーズを用いた沈降法により行い、イムノブロッティングは、可溶化した蛋白をレムリのサンプルバッファーで固定して、SDS-PAGEにて電気泳動、展開した後にニトロセルロース膜またはPVDF膜に転写し、特異的抗体を結合させた後にアルカリホスファターゼ法もしくはケミルミネッセンス法などにより発色させた。カスパーゼ活性の測定は、それぞれの特異的基質を用いて、蛍光分光光度計により測定した。活性型(分断型)カスパーゼ蛋白の検出はイムノブロッティングによった。テトラサイクリン誘導発現系に関わる遺伝子、bcl-2遺伝子などのHL-60細胞などへの遺伝子導入は、エレクトロポレーション法を用い、抗生剤選択はネオマイシンとハイグロマイシンを用いた。ミトコンドリア膜電位は、ローダミン123を指標としてFACSを用いて測定した。
結果と考察
CREB遺伝子に対するAS-ODNで、HL-60細胞増殖抑制活性を有することがこれまでの研究で明らかになっているHS-13を選びHL-60細胞での形態変化などを検討した。その結果、アンチセンス処理した細胞においては、著明な核の断片化と分裂期(M期)の形態異常が認められたが、DNAの断片化は認められずアポトーシスとは異なる細胞死を来していることが明らかになった。また、細胞周期の解析からは、著明なSubG1領域の増加と著明なG1期の減少を伴うものの、S期は保たれG2/Mもほぼ正常範囲内であった。すなわち、G1アレストでもG2/Mアレストでもなく、M期からG1期に戻れずに細胞死を来たしてSubG1領域に行ってしまう状況と考えられた。このような細胞死はきわめて特異であり、その細胞内分子機序の検討が今後の重要課題であると考えられた。テトラサイクリン誘導発現系を用いてヒト骨髄系血液細胞株HL-60におけるbcl-2遺伝子の役割について検討した。Bcl-2全長遺伝子
のセンス配列とアンチセンス配列の両方を用いて実験を行った。まず、センス配列の発現においてはBcl-2蛋白の量が増加すること、逆にアンチセンス配列の発現においてはBcl-2蛋白の量が減少することを確認した。次に、センス配列の発現ではHL-60細胞の細胞死が抑制されること、アンチセンス配列の発現では細胞死が促進されることを確認し、Bcl-2蛋白の抗細胞死作用を今回の実験系で明らかにした。次にbcl-2アンチセンス遺伝子の発現によってBcl-2蛋白が減少した細胞での細胞死がアポトーシスであるかどうかを確認するために、形態観察やDNA断片化(ラダー形成)の同定を行ったが、核の凝縮やDNAラダーと言ったアポトーシス特有の所見は見出されず、予想外の結果となった。光顕レベルで確認できた細胞内の空胞は、電顕でも確認された。さらに、電顕においても核の凝縮、ミトコンドリアの変化などは観察できなかった。また、ミトコンドリアに関しては、電位変化が認められないことも確認した。また、今回観察された細胞死はカスパーゼ阻害剤(z-VAD)では抑制されず、カスパーゼとは異なる細胞内機序を介した細胞死であると考えられた。ヒト単芽球細胞株U937に、GM-CSFを添加したところ、時間依存的に(培養4日までの間に)アポトーシスを誘導することを確認した。そのようなGM-CSFによるアポトーシスはTNFによるアポトーシスと相乗的に作用しあい、両者を添加したU937細胞は著明な細胞死に陥った。TNFのみならずGM-CSFもU937細胞においてカスパーゼ3様の活性を誘導したが、両者を添加するとさらに強いカスパーゼ3様の活性が誘導された。ところが、TNFではカスパーゼ3の活性型蛋白が誘導されるのに対してGM-CSFでは誘導されず、両者存在してもTNF単独と同等の効果であった。したがって、GM-CSF単独で誘導されTNFとGM-CSFの両者で相乗的に誘導されるカスパーゼ3様の活性はカスパーゼ3そのものではないことが示された。さらに、カスパーゼ3の阻害剤(DEVD-CHO)やカスパーゼ全般の阻害剤(zVAD)は、TNFによる細胞死を抑制したがGM-CSFによる細胞死には影響を与えなかった。カスパーゼ3以外のカスパーゼの検討では、カスパーゼ8の関与が示唆されたが、カスパーゼ7は活性の面からも活性型蛋白の面からも関与していないと考えられた。今年度の研究においては、従来からのCREB過剰発現によるアポトーシスとCREBアンチセンスによるアポトーシスではない細胞死に加えて、Bcl-2減少による自食を伴うアポトーシスではない細胞死とカスパーゼ3様の機序を介する造血因子によるユニークなアポトーシスという2種類の興味深いヒト血液細胞死の様式を明らかにすることができた。これらの4種類の我々独自の細胞死の機序を比較しながらさらに詳細な検討を加えることにより、細胞死の基礎的な分子機序に迫るのみならず、血液細胞死に異常を来している造血障害性の血液疾患や造血器悪性腫瘍の病因、病態の解明や治療法の開発に直接関わる研究成果を得ることができるものと期待された。
のセンス配列とアンチセンス配列の両方を用いて実験を行った。まず、センス配列の発現においてはBcl-2蛋白の量が増加すること、逆にアンチセンス配列の発現においてはBcl-2蛋白の量が減少することを確認した。次に、センス配列の発現ではHL-60細胞の細胞死が抑制されること、アンチセンス配列の発現では細胞死が促進されることを確認し、Bcl-2蛋白の抗細胞死作用を今回の実験系で明らかにした。次にbcl-2アンチセンス遺伝子の発現によってBcl-2蛋白が減少した細胞での細胞死がアポトーシスであるかどうかを確認するために、形態観察やDNA断片化(ラダー形成)の同定を行ったが、核の凝縮やDNAラダーと言ったアポトーシス特有の所見は見出されず、予想外の結果となった。光顕レベルで確認できた細胞内の空胞は、電顕でも確認された。さらに、電顕においても核の凝縮、ミトコンドリアの変化などは観察できなかった。また、ミトコンドリアに関しては、電位変化が認められないことも確認した。また、今回観察された細胞死はカスパーゼ阻害剤(z-VAD)では抑制されず、カスパーゼとは異なる細胞内機序を介した細胞死であると考えられた。ヒト単芽球細胞株U937に、GM-CSFを添加したところ、時間依存的に(培養4日までの間に)アポトーシスを誘導することを確認した。そのようなGM-CSFによるアポトーシスはTNFによるアポトーシスと相乗的に作用しあい、両者を添加したU937細胞は著明な細胞死に陥った。TNFのみならずGM-CSFもU937細胞においてカスパーゼ3様の活性を誘導したが、両者を添加するとさらに強いカスパーゼ3様の活性が誘導された。ところが、TNFではカスパーゼ3の活性型蛋白が誘導されるのに対してGM-CSFでは誘導されず、両者存在してもTNF単独と同等の効果であった。したがって、GM-CSF単独で誘導されTNFとGM-CSFの両者で相乗的に誘導されるカスパーゼ3様の活性はカスパーゼ3そのものではないことが示された。さらに、カスパーゼ3の阻害剤(DEVD-CHO)やカスパーゼ全般の阻害剤(zVAD)は、TNFによる細胞死を抑制したがGM-CSFによる細胞死には影響を与えなかった。カスパーゼ3以外のカスパーゼの検討では、カスパーゼ8の関与が示唆されたが、カスパーゼ7は活性の面からも活性型蛋白の面からも関与していないと考えられた。今年度の研究においては、従来からのCREB過剰発現によるアポトーシスとCREBアンチセンスによるアポトーシスではない細胞死に加えて、Bcl-2減少による自食を伴うアポトーシスではない細胞死とカスパーゼ3様の機序を介する造血因子によるユニークなアポトーシスという2種類の興味深いヒト血液細胞死の様式を明らかにすることができた。これらの4種類の我々独自の細胞死の機序を比較しながらさらに詳細な検討を加えることにより、細胞死の基礎的な分子機序に迫るのみならず、血液細胞死に異常を来している造血障害性の血液疾患や造血器悪性腫瘍の病因、病態の解明や治療法の開発に直接関わる研究成果を得ることができるものと期待された。
結論
従来より行ってきたCREBアンチセンスオリゴの白血病細胞に対する増殖抑制を形態面などから検討し、特異な性質を明らかにした。また、本年度は新たに、テトラサイクリン遺伝子発現誘導システムを用いて、ある種のヒト白血病細胞のBcl-2蛋白を減少させ、その結果、自食現象(autophagy)を伴うアポトーシスとは異なる細胞死が誘導されることを発見した。さらに、造血因子GM-CSFで誘導されるヒト単芽球細胞株のアポトーシスと言う興味深い現象を見出し、その細胞内分子機序の解明を主にカスパーゼという観点から行った。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-