アトピー性皮膚炎自然発症(NC)マウスを用いた皮膚そう痒症の発症機序の解明と新規治療薬の創製

文献情報

文献番号
200000964A
報告書区分
総括
研究課題名
アトピー性皮膚炎自然発症(NC)マウスを用いた皮膚そう痒症の発症機序の解明と新規治療薬の創製
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
廣田 直美(日本オルガノン(株)研究開発本部)
研究分担者(所属機関)
  • 天野博夫(国立医薬品食品衛生研究所大阪支所)
  • 倉石泰(富山医科薬科大学薬学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
17,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
そう痒はアトピー性皮膚炎(AD)において重要な臨床的問題であるがその発症機序に関しては不明である。臨床的には抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、ステロイド外用剤等が適用されるが顕著な有効性を示すとは言い難く、そう痒症の克服(新規治療薬の開発)は遷延化・難治化するADにとって極めて重要な研究課題である。しかし、適切なそう痒症の動物モデルが存在しなかったため、本分野における研究はこれまで困難を極めた。我々は、自然発症ADモデルマウス(NCマウス)における皮膚炎発症に伴う掻き動作が皮膚そう痒症の適切な動物モデルとなることを初めて明らかにした。本研究の目的は、同モデルを用いて薬理学的、免疫学的、細胞生物学的手法で多面的に研究することにより、そう痒症発症機序の解明(関与するメディエーター、細胞、分子、遺伝子等の同定)を目指すことにある。更に、明らかとなった発症メカニズムをターゲットとする新規な治療薬の創製も並行して実施する。本治療薬はAD皮膚そう痒症の根本的治療薬となることが期待される。
研究方法
1) NCマウスにおける薬理学的研究
①NCマウスそう痒関連動作と背部皮膚神経活性の関連性
発症NCマウスにおいて著明に亢進する背部皮膚神経枝の神経活動と掻き動作等のそう痒反応の間に正の相関が認められるかを確認し、この神経活動が痒み定量化のための指標となり得るか検証する。
②NCマウスのそう痒反応に対するステロイド剤の連続投与による効果
NCマウスのそう痒反応及び皮膚神経活動に対する吉草酸ベタメサゾン(Beta)の効果を検討する。
③NCマウスのそう痒反応に対するnNOS選択的阻害薬の評価
前年度の本研究においてNCマウスのそう痒に対し選択的nNOS阻害薬AR-R17477が抑制作用を示した。今年度は別種のnNOS阻害薬No.11615を用いてnNOSのそう痒反応への関与を確認する。また、作用点を確認する目的で、これら阻害薬のNCマウス背部皮膚神経枝活動に対する作用を検討する。更に、創薬スクリーニングに適した簡便かつ特異性の高いin vitro NOS活性測定系を構築する。
2) NCマウス皮膚構成細胞を用いた細胞生物学的検討
①NCマウスケラチノサイト(KC)に対するサイトカインの作用
前年度の研究でNCマウス由来KCにおいて特異的にIFN-γがiNOSを誘導することが示唆された。今年度はNCマウス由来KCサブクローンを樹立し、NCマウス由来KCの増殖に対するIFN-γ等の各種サイトカインの影響を検討する。
3) NCマウスを用いた新たなそう痒メディエーターの探索
NCマウスをそう痒反応の頻度によりHigh-responder、Low-responderの2群に分別し、NCマウス表皮KCにおいて両群間で発現量に変化のある遺伝子(皮膚炎症状に関係なく、そう痒反応の進展・増悪に関与する遺伝子)をディファレンシャルディスプレイ(DD)法を用いて探索する。
結果と考察
1) NCマウスにおける薬理学的研究
①NCマウスそう痒関連動作と背部皮膚神経活性の関連性
発症NCマウスは吻側背部を後肢により頻繁に掻くが、後肢の届かない尾側背部に対しては噛み動作を現わすので、これら2種類のそう痒関連動作の回数を、同じマウスの吻側背部と尾側背部を支配する皮膚枝の神経活性と比較し、その相関を調べた。その結果、conventional NCマウスでは2種類の動作と2束の神経発火頻度がSPF NCマウスに比べて明らかに増加しており、NCマウスの掻き動作回数と吻側背部皮膚枝神経活性、および噛み動作回数と尾側背部皮膚枝神経活性が密接に連関することを見出した。この結果は、皮膚枝神経の発火頻度が皮膚で発生する痒み刺激の強さと並行する可能性を強く示唆する。
②NCマウスのそう痒反応に対するステロイド剤の連続投与による効果
Conventional NCマウスの掻き動作回数はSPF NCマウスに比べて著明に増加していた。その掻き動作数がBetaの3週間の投与により減少したことは、この薬物がそう痒反応を抑制する可能性を示唆する。吻側背部皮膚を支配する皮膚枝神経の自発発火頻度は対照群のNCマウスにおいて著明な増加を示していたが、その頻度の減少がBeta投与群において認められた。NCマウスの皮膚枝神経の活動が亢進していることは、皮膚組織側で産生される因子が、常時、自由神経終末の興奮を惹起していることを意味するので、この神経活動を抑制したBetaによるそう痒反応の抑制作用部位は末梢の皮膚レベルであると考えられる。
③NCマウスのそう痒反応に対するnNOS選択的阻害薬の評価
選択的nNOS阻害薬AR-R17477(0.1-10mg/kg、 i.v.)及びNo.11615(1-10mg/kg、 i.v.)は、共にNCマウスのそう痒反応を用量依存的かつ有意に抑制した。また、NCマウス背部皮膚神経枝活動に対しても抑制傾向を示した。今回、AR-R17477とは化学構造の異なるnNOS選択的阻害薬No.11615 が、最少有効量3mg/kg(i.v.)で抑制効果を示したことから、これらの化合物に見られた効果は非特異的作用ではなく、nNOS阻害に基づく抑制であることが示唆された。また、本電気生理学的手法では末梢皮膚枝神経からのafferentな神経活動のみを記録しているので、この抑制の作用点は末梢レベルであることが示唆された。nNOSは新しい抗そう痒剤のターゲット分子になり得ると考えられた。更に、マウスiNOS、ヒトrecombinant eNOS及びヒトrecombinant nNOSを用い各アイソザイム特異的 in vitro NOS活性測定系を構築した。
2) NCマウス皮膚構成細胞を用いた細胞生物学的検討
NCマウス由来KCの増殖に対するIFN-γ、TNF-α、IL1-β、IL-6の影響を検討したところ、IFN-γのみが増殖抑制作用を示し、その抑制効果には濃度依存性が認められた。また、IFN-γによるNCマウスKCの増殖抑制作用およびiNOS誘導効果はEGFにより影響を受けた。前年度の本研究において、NC/Jic、BALB/c、C57BL/6各系統マウス由来のKCのうち、NC/Jicマウス由来KCにおいてのみIFN-γ適用に反応したiNOSの誘導が認めらた知見より、NCマウスの皮膚そう痒症に表皮KCにおけるIFN-γによるiNOSの誘導が関与している可能性が示唆された。
3) NCマウスを用いた新たなそう痒メディエーターの探索
NCマウスのそう痒反応の増悪・進展に関与する可能性のある遺伝子のDD法を用いた探索の結果、表皮KCより18個のcDNA断片の塩基配列を決定した。BLAST searchのデータベースとホモロジーが高い9個の遺伝子のうち、lamin Aとkeratin 6は細胞骨格の中間径フィラメントである。両者とも痒みやADとの関連は報告されていない。また、keratin 6については皮膚の損傷治癒の過程で増加することが知られている。GST-like proteinは近年クローニングされたストレス応答タンパクであり、glutathione結合部位を有するがGST活性はない。最近Mouse PGE2合成酵素がhumanのGST-like proteinとhomologyが高いことが明らかにされており、このタンパクも何らかの酵素活性を有する可能性はある。capping protein beta 1はactinに結合するタンパクで、filamentの構築や分解を阻害することによりactin filamentの動的作用を抑制すると考えられる。Ring3は当初ショウジョウバエの繁殖に関与する遺伝子として同定され、精子形成に重要な役割をしている可能性が指摘されたが、近年、MHCのclass IIの領域であることや核で他のタンパクと結合してkinase活性(セリン‐スレオニンが主)を示すことも明らかにされており、リウマチなどの自己免疫疾患の発症への関与の可能性もある。今後、これらの既知遺伝子やそれらとのホモロジーの低い遺伝子のそう痒発症における関与を明らかにする必要がある。
結論
1) NCマウスでのin vivo背部皮膚枝神経標本を用いた電気生理学的手法に関し詳細な解析を加え、本法が痒みの定量化の新しい測定法になり得る可能性を明らかにした。また、本モデルでの検討から、BetaのNCマウスそう痒反応抑制作用は、その主な作用部位が末梢の皮膚レベルであることを明らかにした。
2) NCマウスにおけるそう痒反応には末梢におけるnNOSが重要な役割を果たしていることを明らかにしし、nNOS選択的阻害薬が有望なそう痒症の治療薬となり得ることを改めて確認した。更に、創薬スクリーニングに有効な特異的非RI in vitro NOS阻害活性測定スクリーニングシステムの確立に成功した。
3) NCマウス由来KCが特異的にIFN-γに応答したiNOS誘導及び細胞増殖抑制作用を示すことを明らかにし、NCマウス由来KCを用いた細胞生物学的研究が、そう痒症発生機構解明の有効な手法であることを明らかにした。
4) NCマウスにおいてはそう痒反応に応答して表皮KC発現量が変化する遺伝子群が存在することを見出した。これらDD法で変化の認められたcDNAの内18個の塩基配列を決定しホモロジーサーチを行なった。

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