炎症・アレルギー性疾患の発症機構の解明と医療への応用

文献情報

文献番号
200000962A
報告書区分
総括
研究課題名
炎症・アレルギー性疾患の発症機構の解明と医療への応用
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
清水 孝雄(東京大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 加藤和彦(明治製菓(株)薬品総合研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
9,436,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アラキドン酸カスケードに属する血小板活性化因子、ロイコトリエン受容体と、細胞質型細胞質型ホスフォリパーゼのA2に関して、分子生物学・生化学・発生工学の手法を用いた実験を行い、脂質メディエイターの生体内での役割の解明と新規抗炎症・抗アレルギー薬を開発することを目的とする。
研究方法
「脂質性メディエーター」の産生・分解に関わる生体内酵素や、受容体の研究を行ってきた過程で、プロスタグランディン、ロイコトリエン、血小板活性化因子の産生に必須な細胞質型ホスフォリパーゼA2の解析および、血小板活性化因子、ロイコトリエンB4の細胞膜受容体の単離に成功した。これらの酵素や受容体を過剰発現する哺乳動物細胞を用いた薬理学的実験を行い、さらに、これらの酵素や受容体を欠損したマウスを作成し、その表現型を個体レベルで解析することで、炎症・アレルギー性疾患の発症機構を明らかにする。さらに、分担研究者の所属する明治製菓(株)研究所が保有するケミカルライブラリーをスクリーニングすることで、酵素の阻害剤や受容体の拮抗薬の開発を目指す。
結果と考察
細胞質型ホスフォリパーゼA2欠損マウスの表現型解析。1997年に樹立した細胞質型ホスフォリパーゼA2欠損マウスを用いて、炎症モデル実験を行い、野生型マウスと比較することで、炎症・アレルギー反応における細胞質型ホフォリパーゼA2の関与を検討した。欠損マウスはメサコリンによる気道の過敏性を消失していたのに加え、成人急性呼吸逼迫症候群(ARDS)のモデルにおいて、きわめて軽い病態しか示さなかった。また、大腸癌のモデルであるApc欠損マウスとの交配を行い、腸ポリープの発生と増殖について検討を行った結果、細胞質型ホスフォリパーゼA2欠損マウスでは、ポリープの発生頻度には野生型マウスと差がないものの、ポリープの大きさが野生型マウスよりも有意に小さかった。気管支喘息やARDSに加え、大腸ガンにおいても細胞質型ホスフォリパーゼA2の阻害剤が予防薬・治療薬として機能する可能性を示した。
ロイコトリエンB4の第二の受容体(BLT2)の単離と解析。ロイコトリエンB4の低親和性受容体BLT2に関して詳細な解析を行った。高親和性受容体BLT1、低親和性受容体BLT2を安定的に発現するCHO細胞を樹立し、これらの細胞膜画分を用いて多数検体を同時に処理可能なシステムを構築した。この系を用いて、これまでに開発されたロイコトリエンB4受容体拮抗薬をスクリーニングしたところ、BLT1に特異的に作用するもの、BLT2に特異的なもの、さらに、BLT1、BLT2両者を拮抗するものに分類されることが明らかとなった。さらに生体内で産生される種々の生理活性脂質を用いて両受容体に対する作用を検討したところ、BLT2が、ロイコトリエンB4以外に12-ヒドロキシテトラエン酸、15-ヒドロキシテトラエン酸によっても活性化される事を見いだした。
BLT1欠損マウスの作成。マウスゲノムライブラリからロイコトリエンB4第一受容体(BLT1)遺伝子を含むゲノムクローンを単離し、構造を決定した。これを元にロイコトリエンB4受容体欠損マウス作成のためのターゲッティングベクターを構築した。このベクターをマウスES細胞に遺伝子導入し、組換えES細胞を得た。この細胞をマウスブラストシストにマイクロインジェクションし、キメラマウスを得た。野生型マウスとの交配により、germline transmissionが可能であることを確認し、現在キメラマウス同士の交配により、BLT1欠損マウスの作出を行っている。
BLT2欠損マウスの作成。マウスゲノムライブラリからロイコトリエンB4第二受容体(BLT2)遺伝子を含むゲノムクローンを単離し、構造を決定した。現在ターゲッティングベクターを構築中である。
ヒトBLT1の転写機構の解明。ヒト、ロイコトリエンB4受容体(BLT1)遺伝子の上流にアポトーシスを誘導すると考えられるCIDE-B遺伝子を見いだした。CIDE-B遺伝子のプロモーター領域はBLT1遺伝子のプロモーター領域とほぼ同じ領域であることが示唆された。
考察=急性炎症・アレルギー疾患は罹患率の極めて高い疾患であるにもかかわらず、その発生機序が未だに明らかでない。臨床医学の場においても、主として対症療法のみが行われている。これらの疾患の発生機序が明らかになれば、本質的な疾患の予防・治療が可能になる。課題研究者らは、脂質メディエイターの産生酵素・受容体遺伝子の単離・欠損マウスの作成を通じて、これらの疾患の病態生理を明らかにすることを目標に実験を行った。これまでに明らかにされたことは、1)血小板活性化因子(PAF)はPAF受容体を介して、I型アレルギー、気管支喘息、細菌感染の病態を悪化させる。すなわち、有効なPAF受容体拮抗薬が開発されれば、疾患予防・治療に有効である。2)細胞質型ホスフォリパーゼA2は気管支喘息やARDSの発症にきわめて深く関わっている。3)急性炎症や、慢性関節リウマチ、炎症性腸疾患との関与が推定されているロイコトリエンB4の受容体(BLT1)を単離し、その構造と機能を決定した。さらにその存在が明らかでなかったロイコトリエンB4の第二の受容体(BLT2)の単離に成功した。BLT2はBLT1と薬理学的に異なった特性を有しており、新たな抗炎症薬のターゲットとして注目される。今後、受容体欠損マウスの作成・解析と、受容体発現細胞を用いた拮抗薬のスクリーニングにより、LTB4受容体の病態における役割の解明と、創薬への貢献が期待される。
結論
血小板活性化因子受容体の過剰発現マウス、欠損マウス、細胞質型フォスフォリパーゼのA2欠損マウスを作成し、種々の炎症アレルギーモデルにおけるこれらの受容体・酵素の役割を明らかにした。また、強力な炎症起炎物質であるロイコトリエンB4の二種の受容体を単離し、今後の研究の基礎を築いた。

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