血圧調節物質・動脈硬化起因物質などに関する分子生物学的、生化学的研究

文献情報

文献番号
200000961A
報告書区分
総括
研究課題名
血圧調節物質・動脈硬化起因物質などに関する分子生物学的、生化学的研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
南野 直人(国立循環器病センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 坂田恒昭(塩野義製薬(株)医科学研究所)
  • 次田晧(プロテオミックス研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
循環器系は生命活動の基盤であるため、そのホメオスタシス維持には精密、多重の調節機構が存在し、循環器疾患はその乱れにより生ずると考えられる。多数の循環調節因子が複雑に関与する血圧調節や血管再構築機序を解明し、高血圧症や動脈硬化症の新しい診断、治療法を開発するため、本研究では循環調節因子の発見とその機能解明を目指した研究を総合的に実施する。具体的には、・血管壁細胞など循環系関連細胞を対象として、セカンドメッセンジャーなどを指標とする高感度かつ再現的で、未知因子検索に有効な生物活性測定法を開発し、確立してきたペプチド精製技術を活用して新規循環調節因子の探索を進める。・アドレノメデュリン(AM)は、強力な降圧性ペプチドで、血管内皮細胞や平滑筋細胞の受容体を介し機能を発揮するが、その情報受容機構は複雑で未だ明確でないため、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)と共有するユニークな受容体の特異性決定機構の解明を目指す。・AMは炎症性サイトカイン、内毒素等の刺激により産生が亢進し、炎症反応など関与する可能性が高くなったため、動脈硬化発症への関与を炎症との関連から検討するとともに、高感度、特異的測定法の創出などにより新しい診断、治療法の開発を目指す。・プロテオーム解析技術の高度化を図り、正常マウス脳、正常ヒト血漿中の蛋白を数多く分離同定するとともに、老化マウス等の疾患モデルマウスの脳及びアルツハイマー病血漿中の蛋白を正常対象と比較し、病因解明や診断への応用も目指す。
研究方法
・ラット、ヒト、ブタ、ウシの各血管内皮細胞、平滑筋細胞や他の循環器系細胞を対象に、高感度カルシウム、cAMP、cGMPの測定系を開発し、これらを用いてブタ脳抽出物を出発材料に新規循環調節因子の精製を実施する。
・AMとCGRP受容体を構成するCRLRとその糖鎖付加部位に変異を導入した変異型CRLRの発現系を作製し、RAMP発現系と共発現させ、リガンド結合能とシグナル伝達能を比較する。また、変異型N末端にFLAGを導入し、膜表面への発現を解析する。
・初代培養ラット皮膚線維芽細胞、心筋細胞、心臓線維芽細胞、血管平滑筋細胞などを用い、AMやET産生調節、AMのサイトカインや生理活性物質産生や遺伝子発現への効果を測定する。AMとETはRIA法、サイトカイン等の遺伝子発現量はリアルタイム定量的PCR法、他はバイオアッセイ法や蛍光法によった。IgA腎症患者を対象に、末梢血由来の単核球画分のAMやサイトカインの遺伝子発現量を定量的PCR法で測定する。
・マウス脳の5部位、5時期の25検体を二次元電気泳動法(2-DE)で分離し、各スポットの蛋白質の同定を行う。P53遺伝子ノックアウトマウスの脳及び発癌した肺の2-DEを行い正常マウスと比較する。正常女性、正常老人、アルツハイマーと老人性痴呆患者の血漿を2-DEで分離し、蛋白質の同定を抗体も併用して実施する。プロテオーム解析の基礎技術として蛋白質の化学的特定分解法を検討する。
結果と考察
成果と考察=・血管内皮細胞、平滑筋細胞等を対象にセカンドメッセンジャーを指標とした活性測定が可能となり、反応性の良いラット内皮細胞、平滑筋細胞を用いてブタ脳抽出物を出発材料として精製を開始した。平滑筋細胞で観測された活性ピークは、残念ながらCGRP, VIP, PACAPとその一部が変化して生じたペプチドと同定された。本活性測定法の感度、再現性は高く、極微量の内因性ペプチドまで鋭敏に検出できたので、今後は多様な細胞系に本システムを適用し、継続してスクリーニングを行いたい。
・AMとCGRPの受容体は特殊で、膜7回貫通型受容体(CRLR)だけでは特異性がなく、RAMPの共発現により特異性が決まるとされているが、詳細は不明である。N末端部3ヶ所の糖鎖糖鎖を除去すると、リガンド結合能は顕著に低下した。66、118、123番目のAsnをGlnに置換したCRLRと各RAMPと共発現させると、123番目置換と3ヶ所全置換したものはリガンド結合能が激減したが、66番、118番置換は変化しなかった。細胞内cAMPも123番置換と全置換では全く上昇せず、66番、118番置換は野生型と同様のに反応した。各変異型CRLRの膜局在も、全置換変異型と123番変異型は、RAMP1,2と共発現しても膜局在率が低下した。以上の結果、CRLRのN末端部の123番アスパラギンへの糖鎖付加がリガンドの結合、シグナル伝達に重要であると結論できた。
・初代培養ラット線維芽細胞のAM産生調節、AMのIL-6遺伝子発現や産生亢進作用は、既存の細胞株と同様であった。IL-1β刺激下のTNF-α遺伝子発現もAMで強力に抑制され、他のサイトカインについても現在検討している。心臓ではAMは主に線維芽細胞から分泌され、NO産生を促進、ET分泌を抑制し、心筋細胞もAMは産生するがCGRPは産生しないことが確認された。IgA腎症患者の末梢血単核球のAM遺伝子発現は重度群で減少し、AMとCNPの遺伝子発現量の間に正相関が認められた。AMとCNPはメサンギウム細胞の増殖を抑制し、既報の尿中AMの減少と合わせると、これら抑制因子の減少が病態形成に関与すると推定された。栗原らはAM過剰発現マウスで、血管の内膜肥厚や臓器傷害の抑制、内毒素による死亡率の減少を報告している。これにはAMの血管拡張、NO産生促進、炎症性サイトカイン産生抑制作用が重要と考えられた。血管平滑筋細胞のET産生量は内皮細胞の10%で、両細胞間で産生調節は大きく異なった。また、内皮細胞の分泌する90%以上が活性型ETであるのに対して、平滑筋細胞では不活性なbig ET-1が80%であり、big ET-1は内皮細胞表面で活性型に変換されることが分かった。平滑筋細胞と内皮細胞から分泌されるETは異なる情報を伝達する可能性が示唆された。
・マウス脳の5部位・5齢のプロテオーム解析で、1118の蛋白スポットが得られた。301の解析結果、124の配列が得られ、97は既知、27が新規であった。脳部位と年齢比較より58と17の変化スポットを見出し、各17と 9蛋白を同定できた。P53ノックアウトマウスの肺で12スポットの増減、脳で23スポットの消失と30スポットの増加を見出した。正常、アルツハイマー患者の20μL血漿の解析では、患者の240スポットの内、配列から175スポット、抗体反応より41スポットを同定し、アルツハイマー関連蛋白質7種も同定できた。基本的方法は確立できつつあるので、今後各種疾患などの応用研究へと発展させていきたい。特に、血漿試料については検査技術として使用できる素地ができつつある。また、特異的化学分解法やThr/Serのリン酸の決定法などを開発し、ペプチドマスフィンガープリントの自動分析器を用いた同定法も使用可能とした。
結論
作成した新規循環調節因子検索用の活性測定法の有効性が確認できたので、対象とする細胞種を増やし、系統的に精製を実施していく予定である。AMの情報受容において、CRLR/RAMP複合体のCRLRのN末端部の123番アスパラギンへの糖鎖付加がリガンドの結合、シグナル伝達に必須と結論できた。AMは血管拡張作用以外に、内因性の炎症や細胞増殖の抑制メディエーターとして動脈硬化発症等に関与している可能性が示唆された。血管平滑筋細胞の産生するETは、内皮細胞由来のETとは異なる機能を有すると推定された。プロテオーム解析に必要な方法論を構築してきた結果、20μLの血漿で検査技術として利用できる可能性が示され、疾患、加齢、部位などに特異的な蛋白発現なども評価可能となった。

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