新規破骨細胞形成抑制因子 (OCIF) とそのリガンドである破骨細胞分化因子 (ODF) の生理的役割の解明と医療への応用

文献情報

文献番号
200000959A
報告書区分
総括
研究課題名
新規破骨細胞形成抑制因子 (OCIF) とそのリガンドである破骨細胞分化因子 (ODF) の生理的役割の解明と医療への応用
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 直之(昭和大学歯学部生化学)
研究分担者(所属機関)
  • 須田立雄(昭和大学歯学部生化学教室)
  • 宇田川信之(昭和大学歯学部生化学教室)
  • 岡橋暢夫(国立感染症研究所口腔科学部)
  • 小関健由(国立感染症研究所口腔科学部)
  • 宮本政章(三共株式会社第一生物研究所)
  • 東尾侃二(雪印乳業株式会社生物科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
15,465,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々の研究グループは破骨細胞の分化や活性化を促進する分子として破骨細胞分化誘導因子(ODF/RANKL)およびそのデコイレセプターとしてODF/RANKLの働きを抑制する破骨細胞形成抑制因子(OCIF/OPG)の同定を報告した。本研究では、ODFの生理的役割を解明し、OCIF/OPGを骨吸収抑制剤として臨床応用することを目的に研究を計画した。
研究方法
ddY マウスの骨髄細胞を脛骨から採取し 10%FCS-αMEM 培地にて M-CSF 存在下で3日間培養し、洗浄後の付着性の細胞をマウス骨髄マクロファージ(M-BMM)とした。この M-BMM に、破骨細胞分化因子(RANKL/ODF)を添加し4日間培養して破骨細胞に誘導した。ddYマウス(正常マウス)のほか、C3H/HeJマウスおよびTNFI型レセプターノックアウトマウス由来の骨芽細胞と骨髄細胞を活性型ビタミンDの存在下で6日間共存培養し、破骨細胞の形成を促した。共存培養をプロナーゼで処理し骨芽細胞を除き、ディシュ上に破骨細胞を純化した。8~9週齢の雌性Lewisラット42匹を、体重と骨密度を指標にして6群に分けた。関節炎はMycobacterium butyricumの加熱死菌をメノウ乳鉢で微細化後、乾熱滅菌した流動パラフィンに2 mg/mlの割合になるように懸濁し超音波処理したアジュバントを、尾根部の2箇所の皮内に各0.05 ml/bodyで注射して惹起した。
結果と考察
(1)TNFaによるRANK-RANKL系を介さない破骨細胞形成促進機構。マウス骨髄細胞をM-CSFの存在下で4日間培養したマクロファージをRANKLとM-CSFの存在下で更に3日間培養すると、大部分のマクロファージは破骨細胞に分化する。そこでこの培養系を用いて各種のサイトカインの作用を調べたところ、マウスTNFaはM-CSFの存在下でマクロファージの破骨細胞への分化を強力に促進した。一方、ヒトTNFaは僅かに単核破骨細胞を誘導するのみであった。マウスTNFaによる破骨細胞形成はOPGの添加により全く抑制されず、TNF I型受容体並びにTNF II型受容体に対する中和抗体によって強力に抑制された。マウスTNFaはマウスのTNF I型受容体とII型受容体に結合しシグナルを伝達するのに対し、ヒトTNFaはマウスのTNF I型受容体にのみ結合する。以上の知見は、TNF I型受容体及びII型受容体両者からのシグナルが破骨細胞の分化に重要であることを示唆するものである。また、マウスTNFaとM-CSFの存在下で破骨細胞前駆細胞を象牙切片上で培養すると、破骨細胞は誘導されたが吸収窩は形成されなかった。一方、IL-1を同時に添加したときのみ象牙切片上に吸収窩が形成された。以上の知見より、マウスTNFは破骨細胞の分化を促進するが、破骨細胞の活性化は誘導しないこと、一方IL-1は、破骨細胞の分化を促進しないが破骨細胞の骨吸収能を誘導することが明らかにされた。(2)骨芽細胞由来のOPGは破骨細胞性の骨吸収を制御する。OPG遺伝子欠損マウスは、骨組織中に多数の破骨細胞が出現し活発に骨吸収が行われることにより、骨粗鬆症の症状を呈する。我々は雪印乳業生物科学研究所のグループにより作製されたOPG欠損マウスを用いて、破骨細胞分化機構を解析した。OPG欠損マウス由来の骨芽細胞と血液細胞を共存培養すると、骨吸収因子を添加しなくても多数の破骨細胞が誘導された。これは、OPGが存在しない条件では、骨芽細胞が恒常的に発現しているRANKLのみで破骨細胞を誘導できることを示している。また、長管骨を用いた器官培養を行い骨吸
収活性をワイルドタイプマウスと比較すると、OPG欠損マウスにおいて著しい骨吸収促進活性が認められた。以上の結果より、OPGは生体の多くの組織で発現が認められるが、骨吸収活性を制御しているのは骨芽細胞由来のOPGであることが明らかとなった。(3)TGF-bスーパーファミリーサイトカインの破骨細胞分化における役割。TGF-bスーパーファミリーに属するTGF-b、アクチビンおよび骨形成因子(BMP)は骨基質中に多量に存在するサイトカインである。また、TGF-bの受容体は骨芽細胞のみならず、破骨細胞系の造血細胞にも存在することが報告されており、TGF-bスーパーファミリーサイトカインが破骨細胞の分化過程に関与する可能性が示唆されていた。マウスの骨髄細胞をM-CSFの存在下で培養した接着性のマクロファージを破骨細胞前駆細胞として用いたところ、TGF-b1、アクチビンA、BMP-2 は可溶性RANKLによって誘導される破骨細胞の分化を強力に賦活した。しかし、TGF-bスーパーファミリーサイトカイン単独では破骨細胞の分化に全く影響を与えなかった。RANKLとTGF-bスーパーファミリーサイトカインによる破骨細胞形成の相乗作用はOPGの添加によって完全に抑制された。以上の結果より、TGF-bスーパーファミリーに属するサイトカインは、破骨細胞前駆細胞に直接作用してRANKLの作用を増強させることが明らかとなった。また、その効果がOPGの他に抗TGF-b抗体や可溶性BMP受容体によっても抑制されたことから、RANKL/ RANKを介するシグナル伝達にTGF-bやBMPのシグナルがクロストークしている可能性が示された。(4)慢性関節リウマチモデル動物を用いた解析。アジュバント感作した全ての群で9日目より後肢足根関節の腫脹が認められ、経時的に増悪した。rhOCIF 10 mg/kg/day投与群において腫脹を抑制する傾向が認められた。大腿骨遠位端において 正常群に比べアジュバント感作群では10%の骨密度減少が認められた。一方、rhOCIF 10 mg/kg/day投与により骨密度は正常群と同程度に維持された。腰椎においても大腿骨遠位端と同様に、rhOCIF 10 mg/kg/dayの投与によりアジュバント感作による骨密度の低下が抑制された。アジュバント感作後16日目における尿中D-Pyr排泄量は、アジュバント感作により増加し、rhOCIF投与により低下する傾向が認められた。アジュバント感作後16日目の足根関節における骨破壊スコアは、アジュバント感作により軽度ではあるが上昇した。rhOCIF投与群では骨破壊を抑制する傾向が認められた。アジュバント感作16日目における足根関節の炎症性変化、パンヌス形成および骨組織の破壊・侵食は比較的軽度であり、また足根関節における病変の発症率は個体間のバラツキが大きかった 。rhOCIF投与群においてもこれらの所見については個体差が大きかったため、統計的な有意差は認められなかったが、10 mg/kg/day投与群では上記の何れのパラメーターにおいても改善傾向が認められた。足根関節のTRAP陽性細胞形成に関しては、アジュバント感作群でTRAP陽性細胞がパンヌス中に認められ、また骨組織中では有意に増加していたが、rhOCIF 10 mg/kg/day投与群ではパンヌス中では有意に減少、骨組織中でも減少する傾向が認められた。(考察)TGFァ スーパーファミリーのメンバーはその多彩な生理活性作用と、ファミリー内での相反する活性を示すことから、器官形成時の分化の制御や形作りの制御に重要な役割を果たしていると考えられている。我々の実験では、anti-TGF-ァ 抗体を骨髄由来マクロファージに添加すると、破骨細胞の形成が抑制される事、その作用は抗体を除くと解除されることを確認している。骨のマトリックス内には、骨芽細胞由来のTGF-ァ が硬組織結晶と一緒に埋め込まれているとされ、破骨細胞はこの TGF-ァ1 の活性によって分化が強く誘導されるのかもしれない。LPSはIL-1と同様に、破骨細胞の延命と活性化を促進した。最近、LPSのレセプターがTLR4であることが明らかにされた。更に、TLR4の細胞内ドメインとシグナルの解析より、TRAF6が結合することが示されている。従来より、IL-1レセプターのを介するシグナルはTRAF6に伝達されることが知られて
おり、IL-1とLPSはTRAF6のシグナル系を介して破骨細胞の延命と活性化を促進するものと考えられる。
結論
新規破骨細胞形成抑制因子 (OCIF) とそのリガンドである破骨細胞分化因子 (ODF) の信号伝達を明らかにすることを目的に実験を行った。OCIFの慢性関節リウマチ治療薬としての開発の可能性を探る目的で、アジュバント感作により誘導される実験的関節炎モデルラットにrhOCIFを投与し、本剤が骨破壊および骨粗鬆化に対して予防効果を有する事を確認した。

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