C型肝炎ウイルスに対するインターフェロン(IFN)の治療効果を増強する新薬の開発研究

文献情報

文献番号
200000957A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎ウイルスに対するインターフェロン(IFN)の治療効果を増強する新薬の開発研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小長谷 昌功(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 松浦 善治(国立感染症研究所)
  • 小林 祐次(大阪大学大学院薬学研究科)
  • 清水 良((株)田辺製薬 創薬研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,485,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HCV感染治療に使われているIFNはC型肝炎患者の30%程度しか効果がない。 本研究では、宿主細胞のウイルス防御機構を抑制するウイルス側の機能を細胞レベル、分子レベルの両方から解明し新薬開発のてがかりを見い出すことを目的とする。
研究方法
HCVの全蛋蛋白発現細胞、Core, E1, E2,NS2,NS3蛋白発現細胞、NS3,NS4,NS5発現細胞、及び、NS5A単独発現細胞(HepG2細胞、 FL細胞)を樹立しIFNの感受性を比較した。 同時にそのISDR領域だけの4個のアミノ酸を置き換えたENOMOTO等(1996)がIFN 抵抗性型と報告しているNS5A-wildを発現した FL細胞も樹立してIFN 感受性を比較した。以下がJ1,wildそれぞれのISDR領域のアミノ酸配列でる。
PSLKATCTTHHDSPDADLIEANLLWRQEMGGNITRVESEN(wild),
LSLKATCTTHHGAPDTDLIEANLLWRQEMGGNITRVESEN(J-1)
IFN感受性の比較:HCV蛋白発現HepG2細胞は48穴のプレ-ト毎に比較する細胞3x105 cells/0.5ml/wellをまき、翌日IFNを直接添加(50ml/well)し一晩し、培地を 除去してEMCV,3000-10000PFU/100ml/well接種し0.5ml/wellの培地を加えて24-30hr 後に培養液をウイルス定量 のために-80Cに保存した。FL細胞ははEagle's MEM, 5%FCSで培養した。一枚の48穴のプレ-トに3種の細胞(100000cells/0.5ml/well)をまき、一日培養後0.1%牛血清アルブミンを含む MEMでのIFNを一晩処理し、同じ培地でEMCV を接種し24-30時間培養後にCPE阻止法、及びプラック法でウイルス産生量をで比較した。
HCV蛋白の大量発現及び機能解析:阪大薬は、PKRの解析を可能とする効率の良い蛋白質生産系を確立し、超遠心沈降平衡法やバイオセンサー法等の物理化学的測定法によって蛋白質の分子間相互作用の解析を行うことを計画し,大腸菌を用いてPKRとNS5A遺伝子産物を大量に生産させる系を確立した。一方、田辺製薬ではさらに使用可能細胞を拡大する目的でNS5A蛋白を一過性および継続発現可能ベクターにNS5A(J1, wild)を組込みこんだ。即ち、NS5Aの5'側および3'側配列を含むベクターにpEFneoNS5AJ1およびpEFneoNS5Awild由来のEcoRI- BamHI断片(778bp)を挿入して計4種のプラスミド,pcDNAFlag-NS5AJ1,pcDNAFlag-NS5Awild,pcDNANS5AJ1-MycHisならびにpcDNANS5Awild-MycHisを構築した.これらプラスミドはCONCERT(LIFE TECHNOLOGIES)を用いて大量精製を行った.
結果と考察
感染研、小長谷等の研究ではHCV(タイプ 1b,J-1)の全ての蛋白が発現しているHepG2細胞ではIFNα、β、γによるEncephalomyocarditis virus (EMCV)に対する抗ウイルス作用がvector control細胞より顕著に抑制された。Core,E1,E2 and NS2蛋白発現細ではIFN感受性の抑制はなかった。NS3,NS4,NS5 発現細胞及びNS5A単独発現細胞ではIFN感受性が抑制された。 EMCV以外のVSVおよびSindbis ウイルスではIFN感受性の抑制はみられなかった。NS5A単独発現FL細胞ではISDR領域がIFN抵抗性の代表のアミノ酸配列を持つwildと我々のJ1とは同等にIFN感受性が抑制された。一方ではNS3,NS4,ISDR欠損NS5A蛋白の発現細胞についてEMCVを用いてIFN感受性を調べたところ顕著に抗ウイルス状態が低かった。この結果はNS5AのISDRが必ずしもIFN感受性低下の中心部分でない事を示唆している。現在松浦等はISDR欠損NS5A発現のためのベクターを構築中である。最近の国際的な認識では必ずしもISDR領域がIFN感受性の支配領域とは言えないとの傾向になって来ている。
しかし一方において阪大、小林等はNS5A蛋白とPKRとの結合能について検討した。大腸菌発現PKRとの結合実験は全く会合せず不成功であったが、IFN処理細胞から部分精製したPKRとの結合能について比較検討したところ、NS5A(J1),(wild)ともにNS5Aと抗体なみの強い結合力を示した。またwildの方がJ1より2.3倍程高い結合定数を示した。これらの結果とIFN感受性の関連については細胞レベルの実験結果もふまえて未だ不明瞭であり、さらなる検討が必要である。いずれにしてもISDR領域は別としてNS5Aがキーファクターであることは否定されていない。清水等は改良型ベクターでNS5A蛋白を一時的および永続的に発現する系を確立したので今後、異なった細胞、例えば、初代肝実質細胞での実験が可能になる。
結論
感染研、小長谷等の研究ではNS5Aを含むHCV蛋白が発現している全て細胞ではEMCVに対するIFNの抗ウイルス作用がVC細胞より顕著に抑制された。Core,E1,E2 and NS2蛋白発現細ではIFN感受性の抑制はなかった。 EMCV以外のVSVおよびSindbis ウイルスではIFN感受性の抑制はみられなかった。最近NS3,NS4,ISDR欠損NS5A蛋白の発現細胞についてEMCVを用いてIFN感受性を調べたところ顕著に抗ウイルス状態が低かった。この結果はNS5AのISDRが必ずしもIFN感受性低下の中心部分でない事を示唆している。現在ISDR欠損NS5A発現のためのベクターを構築中である。阪大薬は、NS5AとPKRとの結合についてビアコアで調べたが強い結合力をしめした。NS5A(J1),(wild)ともにNS5Aと抗体なみの強い結合力を示した。またwildの方がJ1より2.3倍程高い結合定数を示した。これらの結果とIFN感受性の関連については未だ不明瞭である。

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