抗酸化機能調節に及ぼす運動と栄養の影響に関する研究

文献情報

文献番号
200000955A
報告書区分
総括
研究課題名
抗酸化機能調節に及ぼす運動と栄養の影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
樋口 満(国立健康・栄養研究所健康増進部)
研究分担者(所属機関)
  • 松本研三(アサヒ飲料株式会社 飲料研究所)
  • 柳沢香絵(大塚製薬株式会社栄養製品研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
各種運動・スポーツによる酸素ストレス発生のメカニズムと、その予防や回復に関連する抗酸化物質摂取の影響を検討することが本研究の目的である。本年度はin vitroによる抗酸化物質の抗酸化能の評価と、ヒトを対象とした抗酸化物質を含む飲料摂取による抗酸化能の評価、また活性酸素の発生を引き起こす可能性のあるローイングによる運動が生体ダメージに及ぼす影響を抗酸化ビタミンや食品成分の摂取との関連で検討することを目的とした。
研究方法
[研究1]精製茶カテキンとEGCgについて、FRAPassayを用いた抗酸化力をin vitroにて調べた。また、血漿リポたんぱく質の酸化抵抗性を測定した。また、各種ステロイドの抗酸化性について、リンパ球(WIL2-NS細胞)DNA酸化損傷の指標であるサイトカラシンBを用いた小核試験法にて評価した。リンパ球に低濃度モデルとして2.5μMと高濃度モデルとして25μMのステロイドを加え、X線の有無による有小核リンパ球の出現率を評価した。[研究2]高校サッカー選手の栄養摂取量と血中抗酸化ビタミン濃度の検討では、対象が、高強度な練習群20名(W群)、中等度な練習群22名(L群)、コントロール群34名(U群)であった。3日間の食事調査終了翌日、早朝空腹時に採血を行い、血漿ビタミンC(VC)濃度、ビタミンE(α-toc)、カロテノイド濃度(β-カロテン、α-カロテン、リコペン、ルテイン)を測定した。[研究3]運動に伴う筋損傷と酸素ストレスとの関連に関する研究では、健康若年男性8名を対象とした。上腕筋のエクセントリック運動を最大筋力以上の力で24回行わせた。4名は運動負荷後2時間アイシングを行い、4名はコントロール群とした。安静時、運動終了直後、運動2,3,24,72,96時間後に採血を行い、血清CK活性、ミオグロビン濃度、XO活性、IL-6濃度、VC、α-toc濃度を測定した。[研究4]若年女性を対象としたカテキンの単回摂取試験では、茶カテキン飲料を1または2回摂取する群6名が対象であった。精製茶カテキン飲料はカテキン成分を164mg/190mlを含む。採血は飲料摂取前、摂取後30、60、180分後に行なった。さらに若年もしくは中高年女性を対象にしたカテキン飲料長期摂取試験では、若年女性(16名)と中高年女性(16名59±1歳)を対象に1日3回7日間カテキン飲料を摂取させ、次の1週間は飲料を中断させ、1週間ごとに採血を行なった。血漿カテキン濃度、血漿鉄還元能(FRAP値)、リポタンパク酸化抵抗性、小核試験、VC、α-toc、血清ビリルビン濃度、尿酸濃度、血中リポたんぱく質濃度を測定した。[研究5]大学ボート選手の食事摂取状況と抗酸化ビタミンの栄養状態(VC、α-toc)、脂質過酸化(TBARS)との関連を、シーズンのイン(6月)とオフ(12月)において検討した。
結果と考察
[研究1]FRAPassayとたんぱく質の酸化抵抗性試験を用いて茶カテキンの抗酸化能の測定をin vitroで行った結果、抗酸化能は茶カテキンの添加量に比例して上昇した。FRAPassayでは、茶カテキンの検出限界は2-5μM程度、リポタンパク質の酸化ラグタイムでは10μM程度であった。各種ステロイドの抗酸化能について、自然生成およびX線照射(±Xray)による有小核リンパ球の出現率を調べたところ、自然生成の有小核リンパ球は、低および高濃度モデルにおいて、いずれのステロイドでも出現率は変化しなかった。X線照射を行うと、Estradiolの低濃度モデルにおいてのみ小核出現率が低くなる傾向がみられ、Testosteroneの高濃度モデルにおいては、明らかな有小核リンパ球の増加が認められた。また、X線照射による2次的酸化損傷を与えても、DHEAの抗酸化作用は認められなかった。[研究2]日常的に運動トレーニ
ングを行っている男子高校生の栄養摂取量と血中抗酸化ビタミン濃度について検討した。それぞれの群の緑黄色野菜の摂取量と血中カロテノイド濃度を検討した結果、緑黄色野菜の摂取量は血中ルテイン濃度と各群ともよく相関した。リコペン、α-カロテンにおいては、緑黄色野菜の摂取量との間に明らかな相関は認められなかった。一方、U群については、緑黄色野菜の摂取量と血中β-カロテン濃度との間に正の相関がみられたが、運動量が多いほど、βカロテンの血中濃度が低下しており、緑黄色野菜の摂取量との間には相関は認められなかった。なお、VC及びα-tocの血中濃度には変化は見られなかった。今回の結果では、最も緑黄色野菜の摂取量が多いW群に、β-カロテンの血中濃度が低値を示す者が多く、これより日常の身体活動レベルが高い者は特にβ-カロテンの消費が激しい可能性が考えられた。[研究3]筋損傷と炎症および活性酸素生成との関係に着目した。筋損傷を起こしやすいエクセントリック運動を負荷した後、炎症を軽減させるためにアイシングを行い、その後の血中ビタミン濃度の動態について検討した結果、運動後にアイシングを行うことで、筋損傷の指標である血清CK活性および血清ミオグロビン濃度が軽減し、白血球や好中球の活性に伴って活性化されるIL-6が遅れて浸潤してくる傾向がみられ、キサンチンオキシダーゼ活性の増加も、運動後のアイシングにより抑制される傾向がみられた。一方、血中VCおよびE濃度は、運動後の明らかな変動、およびアイシングの有無による変動は認められなかった。[研究4]若年女性を対象とした安静時の単回カテキン飲料摂取試験では、摂取直後から血漿中非抱合体EGCg濃度は増加し、摂取後60分でピークとなった。一方、抱合体EGCgは、摂取30分以内は明らかな変化は示さないが、摂取後30~60分の間は非抱合体と同様な増加を示し、摂取後120~180分でピークを示した。しかし、茶カテキン摂取後の血漿中の抗酸化能、血漿抗酸化ビタミン濃度、尿酸、ビリルビン値に変化はみられなかった。一方、若年女性の長期カテキン飲料摂取試験では、茶カテキン飲料を1週間連続摂取した後、血漿EGCg濃度は日常時と比較して有意に増加した。その後、飲料摂取を1週間中止すると、血漿EGCg濃度は有意に減少した。このことから、継続的に茶カテキンを摂取することによって、体内カテキン濃度は高レベルに保持されることが明らかになった。1週間カテキン摂取後、血中抗酸化能は変化しなかったが、その後のカテキン摂取中断後、FRAP値は明らかに減少した。飲料摂取中断後の血漿VC濃度、ビリルビンも、日常時および飲料摂取時よりも有意に減少した。中高年者の茶カテキン摂取試験においては、若年女性の結果と同様な結果が得られたが、若年者よりも血漿総抗酸化能の変化やVC濃度、尿酸、ビリルビン等の変動が顕著であり、加齢の影響が考えられた。また、小核試験の結果では茶カテキン飲料の連続摂取後、リンパ球染色体損傷度は茶カテキン飲料の摂取によりわずかに低下した。中高年者を対象とした被験者実験では、リンパ球の染色体損傷度は、茶カテキン飲料と日常の茶を摂取しない条件において有意に上昇した。リンパ球染色体損傷度は、若年者よりも中高年において有意に高かった。以上の結果、日常的な緑茶飲用量を摂取した結果、単回/2回程度の摂取では血漿抗酸化能には影響は見られなかったが、継続的な茶カテキン摂取は、血漿総抗酸化能を維持し、DNA損傷度を低減させることが示唆された。[研究5]大学ボート選手の抗酸化ビタミン摂取量と血中濃度および脂質過酸化を調べた。血中VC、α-toc濃度、血中過酸化脂質濃は激しいトレーニングを行っている6月とローイングのトレーニングレベルが低下するオフシーズンでエネルギーと各種栄養素の摂取量が低下した12月のいずれも正常レベルに保持されていた。ローイングは呼吸循環系機能とともに除脂肪体重を増加させるのに有効な有酸素性・レジスタンス運動であり、抗酸化ビタミンの摂取など食生活に配慮していれば、激しいトレーニングを行っていても過酸化脂質濃度の上昇や骨格筋へのダメージを抑
制できることが示唆された。
結論
(1)in vitroにおけるEGCgの抗酸化性は、FRAPassayでは2-5μM以上、リポたんぱく質酸化抑制試験においては10μM以上の変化がないと検出できないことがわかった。また、DHEAの抗酸化性は、小核試験法では検出されたかった。(2)中高年者においては茶と茶カテキン飲料の摂取を中断したとき、血漿抗酸化能の低下とリンパ球染色体損傷度の増加が観察され、日常摂取量の茶カテキンが血漿の抗酸化能を維持し、リンパ球染色体損傷度の増加を抑制する上で重要な役割を担っていることが示唆された。(3)日常の身体活動レベルが高いスポーツ選手は、血中β-カロテン濃度が低値であった。(4)エクセントリック運動負荷後のアイシングは、キサンチンオキシダーゼ活性の増加を抑制する傾向がみられた。(5)激しいトレーニングを行っていても、抗酸化ビタミン等の摂取に配慮すれば、過酸化脂質濃度の上昇や骨格筋へのダメージを抑制できることが示唆された。

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