移植免疫寛容とミクロキメリズムに関する基礎的研究

文献情報

文献番号
200000951A
報告書区分
総括
研究課題名
移植免疫寛容とミクロキメリズムに関する基礎的研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
木村 廣光(国立小児病院・小児医療研究センター 実験外科・生体工学室)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 紘一(京都大学大学院医学研究科・医学部・移植免疫学)
  • 宮本 愛(浜松医科大学・解剖学第二講座)
  • 小海 康夫(札幌医科大学医学部・病理学第二講座)
  • 黒澤 良和(藤田保健衛生大学医学部・総合医科学研究所・免疫学研究部門)
  • 後藤 俊夫(株式会社 藤沢薬品・薬理研究所)
  • 小久保 利雄(株式会社 バイエル薬品・中央研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
11,533,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
移植免疫寛容とミクロキメリズム現象の関係,特にミクロキメリズムを構成する細胞の細胞動態,その起源,機能を解析する為,新たな分子生物学的手法を導入.その免疫生物学的意義を明らかにし,移植医療を包括する,各種アレルギー性難治性疾患に対する,新たな臨床診断並びに治療指針・応用を目指した,基礎・臨床研究を行なう.
研究方法
1)各種近交系マウス(C57BL/6, Balb/c, Scid, Rag-2)・ラット(LEW, DA, PVG, LEW.1A, LEW.1W, LEW.1N, PVG.1A, PVG.1U, PVG.R8, LEWnu+/nu+, DA nu+/nu+),各種transgenic mouse(human G-CSF, anti H-Y TcR, enhanced green fluorescence protein) を飼育維持,これを実験に供与
2)ラット・マウスに於ける同所性・異所性臓器移植モデル(皮膚・心・肝・全膵十二指腸)胸管リンパ排導法を使用
3)PCR 法を中心とする,定性・定量的遺伝子解析(PRISM 7700 Sysytems)
4)各種遺伝子の分離,同定,導入法(トランスジェニックマウスの作成)
5)臨床生体肝移植,臨床生体小腸移植
結果と考察
木村研究班は,主にラット・マウスを用いた,各種臓器移植モデルを応用.臓器移植後に起こるミクロキメリズム現象を構成するミクロキメラ細胞群の内,特に末梢血においてミクロキメリズム現象を起こす細胞群は,放射線感受性を有す,リンパ球様細胞群であり,この中に,臓器生着を促進する細胞群があることをラット肝臓移植モデル,膵十二指腸移植モデルに於いて見いだした.
田中研究班は,臨床生体肝移植,臨床生体小腸移植,並びに実験的ラット小腸移植の解析をすすめ,臨床生体肝移植では,免疫抑制剤からの積極的な離脱の為の指針の確立すべく,670例を越す症例に関して,解析を行い,ミクロキメリズムと移植免疫寛容の関連性について,また,移植患者のドナー抗原に対する反応性に対する,解析をリンパ球混合培養法によって,反応するリンパ球のサイトカイン産生の解析を行った.また,ラット小腸移植に於けるドナー型骨髄細胞のDST(donor specific transfusion)の応用性に関する解析を行った.
宮本研究班は,これまで不可能であった,ラット胸管長期ドレナージ法を確立し,排導胸管リンパ細胞を、種々のモノクローナル抗体を用いて解析し, クラスII 抗原陽性(Ia+) T 細胞 (CD3+)の存在を明らかにした.
また,胸管ドレナージ休止後のGvH 反応活性回復実験と短期胸管ドレナージ後のドナー骨髄移植による寛容導入実験により,胸管ドレナージ後の移植免疫能の早期回復に胸腺の存在が重要であることを明らかにした.
小海研究班は,humann G-CSF transgenic マウスに見られる,NK 細胞の機能的変化,特にNK 活性の低下に関して更に解析を行い,胸腺非依存性・髄外リンパ球増殖,特に肝臓内での,NK/T 細胞の分化増殖に於ける調節作用を明らかにした.
黒沢研究班は,マウス・ラット同種・異種肝臓移植モデルを確立,移植免疫寛容導入法の確立とミクロキメリズム解析を進める一方,ファージディスプレイ法によるヒト抗体遺伝子ライブラリーを確立,抗体を用いた移植免疫反応調節を目指した基礎的研究を行った.
後藤研究班は,免疫抑制剤 FK506(タクロリムズ)の供与,並びにタクロリムズの薬物動態解析を行った.
小久保研究班は,ヒト・マウス・ラット血液幹細胞からの樹状細胞の増殖・分化因子の同定を目指して,基礎的解析を行い,Flt3/Flk2 リガンドとIL-6 の相乗効果を見いだした.また,従来のGM-CSFに依存しない樹状細胞の増殖・分化の課程を見いだした.
結論
1)ラット・マウス心臓・肝臓・膵十二指腸移植モデルに於けるミクロキメリズム解析のための定性的・定量的PCR法を確立し,更に,同種同系ラットの腸管,全膵十二指腸移植モデル,ラットーハムスター,ラットマウス異種肝臓移植モデルを確立して,HvG/GvH 反応,マクロ・ミクロキメリズムの解析方法を確立した.
2)ミクロキメリズム解析へのGreen Fluorescence Protein - Transgenic mouse の応用に関する基礎
研究を行い,従来の遺伝子マーカーSRYとの比較検討を行った.
3)外科的手法を用いて作成された免疫不全動物,即ち古典的胸管リンパ液排導法を用いて,これをさらに改善し,20日以上の長期胸管リンパ排導法を確立,皮膚移植のみによる移植免疫寛容動物の作成に成功.さらに免疫寛容とミクロキメリズムの関連について解析を行い,移植片そのものが移植免疫寛容の導入と維持に中心的な役割を果たしている事を明らかにした.またこれに関連して,免疫不全状態にあるレシピエントに於いては,未だ不明のメカニズムにより,自然増殖するリンパ球群がある事を見いだした.
4)ミクロキメリズム現象が移植免疫寛容の原因か結果かという本質的は問題に関して,少なくとも,末梢血ミクロキメリズムが,移植免疫寛容の原因あるいは結果として観察される場合とされない場合がある事を示した.
5)臨床生体肝移植の670例を越える症例に関して,移植後,免疫抑制剤療法から積極的に離脱を試み,これに成功した症例,あるいは移植後免疫抑制剤投与の中止を余儀なくされた症例に関して報告を行った.
6)血液幹細胞に由来する,樹状細胞の培養法に関して,その増殖因子・分化因子に関してサイトカインの検討を行い,GM-CSF が必ずしも必須な増殖・分化因子ではない事を明らかにした.
7)臨床的に免疫抑制の極めて困難な全膵十二指腸移植モデルにおける,タクロリムス並びに,新規免疫抑制剤FTY720との比較検討を行った.
8)G-CSF transgenic mouse における,胸腺非依存性のNK/T 細胞の増殖と,NK細胞の細胞障害活性の抑制機構に関する解析を行った.

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