免疫・内分泌系による神経系の障害機構の解明とその制御

文献情報

文献番号
200000950A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫・内分泌系による神経系の障害機構の解明とその制御
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
田平 武(国立精神・神経センター神経研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 譲原光利((株)ツムラ中央研究所)
  • 内木 充(日本臓器製薬(株)生物活性科学研究所)
  • 高 昌星(信州大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
神経系、免疫系、内分泌系は相互に密接な関係を有し、生体防御に深くかかわっている。強いストレスはその破綻をきたし、うつ病や自己免疫疾患の発症あるいは再発を引き起こす。本研究は自己免疫性脳炎 (EAE)を モデルに免疫系が神経系を障害する機構、神経系、内分泌系が免疫系を制御する機構、及びストレス(内分泌系)による神経系の障害機構を明らかにし、その制御方法を開発することを目的とする。
研究方法
1)EAEの調節性細胞であるNK細胞、NKT細胞の作用機序を調べるために、NK細胞についてはSJL/JマウスのNK1.1抗体処理、NKT細胞についてはナチュラルリガンドであるα-gal-cerによる活性化機構をしらべる。更に、CG配列をもつオリゴヌクレオチドによる自己攻撃性T細胞の活性化機構をしらべる。
2)ラットEAEに対するノイロトロピンの抑制作用をβエンドルフィンに注目してしらべる。
3)タイラー脳脊髄炎ウイルス(TMEV)による免疫性脱髄疾患における性差のメカニズムを明らかにする為に精巣摘除の影響をしらべる。
4)慢性ストレスによるうつ病発症の機序を解明する為に脳内グルココルチコイド受容体(GR)解析を行い、これを制御する薬剤のスクリーニング、及びその薬理作用を検討する。
結果と考察
1)NK1.1抗体はSJL/JマウスにおけるPLP誘発EAEに対しても著しい増強効果を示した。NKT細胞を単純にα-gal-cerで活性化してもEAEに対する効果は目に見えるものがなかったが、B-7.2存在下に活性化すると著しいEAEの抑制活性が見られた。また、CG配列をもつオリゴヌクレオチドはEAEを一般に増強したが、ある種のB細胞ポピュレーションは抑制性に作用することが分かった。
2)ノイロトロピンはラットEAEを抑制した。EAE発症と下垂体β-エンドルフィンのレベルとの関係をしらべると、対照ではβ-エンドルフィンは発症前に低下したが、ノイロトロピン投与群では高値を示した。ナルトレキソンでβ-エンドルフィンをブロックするとEAEは悪化した。
3)TMEVによる免疫性脱髄性脳脊髄炎は精巣摘除で著しい悪化が見られた。これはテストステロン投与で抑制された。
4)慢性ストレス負荷ラットの前頭前野及び海馬では細胞質内GRの著しいdownregulationが見られ、核移行は増強した。漢方薬TJ-12はこの変化を是正したが、抗うつ薬デシプラミン、トラゾドンは改善しなかった。
自己免疫疾患は視床下部-下垂体-副腎軸及び交感神経系のコントロールを受けているが、今回、β-エンドルフィンによる制御作用が明らかになり、ノイロトロピンはこれを是正した。また、TMEV脳炎においても性ホルモンによる強い影響があることが判った。さらに、末梢免疫組織ではウイルス抗原による活性化機構とくにCG配列をもつオリゴヌクレオチドの作用、及びNK、NKT細胞による調節性作用が一部明らかになった。NK細胞によるEAEの制御は本研究者らによりB6系マウスを用いてはじめて明らかにされたが、B6マウスはMOGを抗原とし、1回の実験に50日以上を要した。今回SJL/Jマウスでも成功したことにより、今後、そのメカニズム解析が加速されると期待される。
慢性ストレスはうつ病等の神経障害をひきおこす。今回、前頭前野や海馬でのGRの著しいdownregulationが明らかになった。グルココルチコイドはGRを介して視床下部・下垂体系にフィードバックをかけているが、うつ病におけるフィードバックの欠如はより高次の脳部位での障害であることが判った。さらに、TJ-12はこれを是正したが、デシプラミン等の抗うつ薬はこれを是正しなかったことから、抗うつ薬の作用部位が異なることが明らかとなった。
結論
免疫、内分泌系による神経系の障害機構の一部が明らかになり、それを制御する薬剤が2つみつかった。

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