生体膜脂質を介する細胞機能調節機構の解明とその医療への応用

文献情報

文献番号
200000949A
報告書区分
総括
研究課題名
生体膜脂質を介する細胞機能調節機構の解明とその医療への応用
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
西島 正弘(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 久下理
  • 斎藤恭子
  • 花田賢太郎
  • 川崎清史
  • 深澤征義
  • 北川隆之(国立感染症研究所)
  • 岡芳知(山口大学医学部)
  • 汐崎正生(三共(株)創薬化学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生体膜の様々な機能発現に際し、生体膜脂質の示す重要な役割が、近年、急速に明らかにされ、生体膜脂質研究は、ライフサイエンスの中心課題として大いに注目されている。しかし、遺伝子や蛋白質などに比較すると膜脂質機能の分子レベルでの研究は未だ解決すべき問題点が多く、この研究分野の更なる発展が求められている。本研究では、動物細胞の脂質代謝異常変異株の樹立などによる生体膜脂質の新しい機能の探索とその機能発現の分子機構の解析、並びにエンドトキシンとインスリンの作用発現における膜脂質代謝の解析を行い、脂質の代謝等が係わる感染症、エンドトキシン疾患や糖尿病などの病因解明と予防・治療法の基盤を確立することを目的とする。
研究方法
シンドビスウィルスの感染における宿主細胞ホスファチジルセリンの役割:シンドビスウィルスのRNA合成に関わる4つのウィルス蛋白質nsp1-4をPSA-3細胞、及びその親株であるCHO-K1細胞に一過性に発現させ、PSを除いた培地で培養した時と、PSを加えた培地で培養した時でRNA合成活性を比較した。RNA合成活性はnsp1-4蛋白質特異的なプロモーター下流にβ-gal遺伝子を配置したレポーター遺伝子をnsp1-4遺伝子と共に細胞に導入し、発現したβガラクトシダーゼの酵素活性で検出した。
SPTの精製:FLAG peptideおよびHis6配列を付加したLCB1蛋白を発現したCHO細胞の膜画分から可溶化した蛋白を、FLAG アフィニティカラムおよびNi-NTAカラムを用いて分画し、SPTの精製を行った。
エンドトキシン受容体の異物認識機構の解明:マウスTLR4を発現させたHEK293細胞(293/mTLR4)を作成して、さらにMD-2、及び変異型MD-2を導入してLPSおよびLPSアゴニスト・タキソールに対する導入細胞の応答性を解析することにより、異物認識に関わるMD-2上の領域を決定した。
動物細胞の糖輸送制御機構:PDK1の野性型(wt),およびK111A変異体(kinase dead:kd)をアデノウイルスベクターによる遺伝子導入系を用いてCHO-IR細胞に発現させ、Akt1のT308と S473のリン酸化および脱リン酸化における役割について、酵素活性および、PDK1のリン酸化を特異抗体を用いて経時的に観察した。また、GLUT4小胞のIRAPのN末端部位に結合する蛋白のクローニングも試みた。
結果と考察
1)膜脂質機能の遺伝生化学的および分子生物学的研究
i)ホスファチジルセリン(PS)の細胞内輸送機構に関する研究
S100Bタンパク質が、PSの小胞体からミトコンドリアへの輸送に関与することを明らかにした。この研究成果は、細胞内PS輸送の分子機構の解明に大いに貢献するものと考えられる。
ii)シンドビスウィルスの感染における宿主細胞ホスファチジルセリンの役割
シンドビスウィルスのRNA合成に宿主細胞のPS(又はPE)が重要であることを示唆する結果を得た。最近、シンドビスウィルスの近縁種のnsp1がPSと結合するとの報告があったことから、nsp1の機能におけるPSの重要性を解析する予定である。
iii)スフィンゴシン生合成の生化学的解析
スフィンゴ脂質生合成の第一段階を司る酵素・セリンパルミトイル転移酵素(SPT)は、L-セリンとパルミトイルCoAを縮合して3-ケトジヒドロスフィンゴシン(KDS)を生成する反応を触媒する。今回、精製SPTを用いた解析から、D-セリンが予想外にもSPT反応を阻害することを見出した。脳などではD-セリンがL-セリンに匹敵する濃度で存在することが知られており、そのような組織では細胞内D-セリンがスフィンゴ脂質生合成に影響を与えている可能性を示した。
2)エンドトキシンの情報伝達機構とその制御化合物の創成
i)エンドトキシン受容体の異物認識機構の解明
TLR4・MD-2複合体のLPSアゴニスト・タキソールに対する認識にMD-2がかかわること、特にMD-2中の22番目のグルタミンが重要であることがわかった。このアプローチにより、今後LPSなど様々な異物に対する認識に必要なアミノ酸を決定できると考えられる。
ii)脂肪酸鎖が4本の新しいリピドA型ダイサッカライドの化学合成と生物活性
脂肪酸鎖が4本の新しいリピドA型ダイサッカライドを化学合成し、これらがヒトマクロファージに対して強いLPSアンタゴニスト活性を示すことが確認された。脂肪酸鎖が4本のリピドA型ダイサッカライドはヒトマクロファージに対して強いLPSアンタゴニスト活性を示すことが確認されたことから更にその周辺の化合物を合成し自己免疫疾患、敗血症等に有効な治療薬の開発に望みが出てきたと考えられる。
3)動物細胞の糖輸送制御機構
PDK1はインスリン刺激によりAkt1のT308を急速にリン酸化しAkt1活性を高めるとともに、phosphataseを活性化し、T308の脱リン酸化にも関与する。また、acyl CoA dehydrogenase(ACD)がGLUT4小胞に存在するIRAPのdi-leucine motifに結合して、GLUT4小胞を細胞内に留め置く役割をしていることを見出した。
結論
1)膜脂質の遺伝生化学的研究:i)S100Bタンパク質が、PSの小胞体からミトコンドリアへの輸送に関与することを明らかにした。ii)シンドビスウィルスのRNA合成に宿主細胞のPS(又はPE)が重要であることを示唆する結果を得た。iii)スフィンゴ脂質生合成の第一段階を司る酵素・セリンパルミトイル転移酵素(SPT)は、L-セリンとパルミトイルCoAを縮合して3-ケトジヒドロスフィンゴシン(KDS)を生成する反応を触媒する。今回、精製SPTを用いた解析から、D-セリンが予想外にもSPT反応を阻害することを見いだした。2)エンドトキシンの情報伝達機構とその制御化合物の創成:i)TLR4・MD-2複合体のLPSアゴニスト・タキソールに対する認識にMD-2がかかわること、特にMD-2中の22番目のグルタミンが重要であることを明らかにした。ii)脂肪酸鎖が4本の新しいリピドA型ダイサッカライドの化学合成と生物活性:脂肪酸鎖が4本の新しいリピドA型ダイサッカライドを化学合成し、これらがヒトマクロファージに対して強いLPSアンタゴニスト活性を示すことが確認された。3)動物細胞の糖輸送制御機構:PDK1はインスリン刺激によりAkt1のT308を急速にリン酸化しAkt1活性を高めるとともに、phosphataseを活性化し、T308の脱リン酸化にも関与する。また、acyl CoA dehydrogenase(ACD)がGLUT4小胞に存在するIRAPのdi-leucine motifに結合して、GLUT4小胞を細胞内に留め置く役割をしていることを見出した。

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