感染症が誘発する自己免疫疾患病態の解明とその医療への応用に関する研究

文献情報

文献番号
200000948A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症が誘発する自己免疫疾患病態の解明とその医療への応用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
大川原 明子(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 赤川 清子(国立感染症研究所・免疫部)
  • 倉 文明(国立感染症研究所・細菌部)
  • 鈴木 和男(国立感染症研究所・生物活性物質部)
  • 佐久間 秀樹(帝国臓器製薬株式会社)
  • 根本 久一(日本化薬株式会社)
  • 砂塚 敏明(北里大学・薬品製造化学)
  • 堀田 修(仙台社会保険病院・腎センター)
  • 荒谷 康昭(横浜市立大学・木原生物学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1) MPO-ANCA自己抗体の解析とその応用に関する研究 ① 腎炎等の自己免疫疾患の発症機序を解析し治療薬を開発するための基礎として各疾患のMPO-ANCAエピトープの解析をする。② 半月体形成性糸球体腎炎を自然発症するSCG/Kjマウスを用いて腎炎発症・進行への活性化好中球、MPO-ANCAの関与について明らかにする。③ デオキシスパガリン(DSG)、アセアノスタチン(ai-15:0)の腎炎治療の可能性について検討する。2) MPO欠損マウスを用いた研究 ① 好中球細胞死におけるMPOの役割を明らかにする。② 感染防御における好中球の役割を個体レベルで明らかにする。3) ヒトマクロファージに関する研究 ①腎疾患における単球/マクロファージ上の機能分子の発現と病態との関係を明らかにし、病態に即した有効な治療法を確立する。② 種々のエリスロマイシン(EM)誘導体によるヒト単球の分化、T細胞増殖効果について解析し構造活性相関を明らかにする。③ HIV初期感染の成立とARS期での病態の進行に深く関与するマクロファージ指向性ウィルスの感染、増殖および増殖抑制機構を解明する。
研究方法
1)① 精製したヒトMPOIIIを抗原として確立したELISA系と市販のELISAキットを用いてMPO-ANCA値を測定し比較した。MPOⅢあるいはそのフラグメントを抗原として、血清検体(107例)のMPO-ANCA値を測定しエピトープ解析をした。② SCG/Kjマウスの腎傷害の程度、腎臓への好中球浸潤を病理組織学的に観察すると共に ヒトMPOIIIを抗原としたELISA法で血清中 MPO-ANCA値を測定した。③ 尿潜血が認められた時点からDSGを21日間腹腔内投与し、腎機能検査、病理学的検査を行った。一方、マウス末梢好中球にアセアノスタチンを反応させ、MPO放出阻害効果について検討した。 2) ① チオグリコレート誘導腹腔好中球にPMAまたは H2O2 もしくはその両薬剤を添加(一部の実験ではヒトMPO精製標品あるいはHOClを添加)した。核凝縮、アネキシンV陽性をアポトーシスの指標として解析した。② gp91phox欠損、gp91phox, MPO 両欠損マウス(Double Knockout: DKO)およびその対照となる野生型マウスの鼻腔内にC.albicans、Aspergillus fumigatus、細菌Legionella pneumophilaを投与し、一定時間後の臓器中の生菌数を求めた。3) ①各種腎疾患における腎生検標本あるいは尿中giant macrophage (GM)の存在の有無とその程度、ならびにGMの発現する抗原を解析した。さらに尿中微量コレステロールを測定し尿中GMとの関連について解析した。② 単球及びTHP-1細胞をEM及びその誘導体と培養し、マクロファージへの分化、T細胞の増殖応答を調べた。③ HIV-1 のマクロファージへの感染は、ヒト単球より、M-CSFおよびGM-CSFにて分化誘導したM型マクロファージ(M-Mφ)及びGM型マクロファージ(GM-Mφ)、ヒト肺胞マクロファージ(肺胞 Mφ)に、マクロファージ指向性ウイルス株であるBaLを2時間接触感染させ培養した。宿主遺伝子上でのウイルスDNAの発現は、LTR-gag遺伝子のプライマーをもちいたnested-PCR法にて解析した。ウイルスの増殖は、p24抗体を用いたELISA法により検討した。Hck 及びC/EBPβのアンチセンス(AS)は無血清培地に溶解したカチオニン剤(Lipofectin)に室温で溶解した後培養した。 Hck 及びc/EBPβタンパクの発現は、ウエスタンブロット法にて検討した。
結果と考察
1)① 精製したMPOIIIを抗原
としたELISA系、市販キットによるMPO-ANCA 値の相関はMPO-ANCAの定量値によって異なった。臨床検体のMPO-ANCA 、H10 fragmentそれぞれの定量値は、MPO-ANCA 値によって相関性が変化した。② 腎臓への好中球浸潤と MPO-ANCA値は相関し、さらに腎の傷害性と正の相関を認めた。ヒトの腎炎の発症、進行を解析するための有用なモデルのひとつと考えることができる。③ DSG投与によってマウス生存率、腎病理、腎機能のいずれについても効果が認められた。一方、アセアノスタチンは、活性化されているSCG/Kjマウス好中球のMPO放出の阻害効果を示した。2)① 野生型好中球をPMAと H2O2で活性化させると1時間後にはほとんどすべての細胞でアポトーシスが認められた。しかし、MPO欠損好中球では1時間以内に核凝縮を起こす細胞は全く増加しなかった。一方、PMAとH2O2で活性化した MPO欠損好中球にヒト由来 MPOを添加すると、1時間後の核凝縮細胞が野生型好中球で観察された細胞数と同程度まで回復した。さらにHOClを外から加えることによって MPO欠損好中球のアポトーシスが増加したことからMPOによるHOCl産生がアポトーシスをコントロールしていることが示唆された。② C. albicansの殺菌には、MPO産物が重要であり、その基質である過酸化水素は大部分NADPH oxidaseから供給されていると考えられた。一方、Aspergillus fumigatusの鼻腔内感染では、殺菌にNADPH oxidaseが第一義的に重要で、MPOは補助的な役割を果たし、次亜塩素酸以外の活性酸素で十分に殺菌されていると考えられた。3)① 正常腎組織にはGMは存在せず、非選択的蛋白尿を有する症例において尿細管腔内を中心にGMを認め、腎組織中の単位尿細管腔数当たりのGM数は非選択的蛋白尿の程度と相関した。尿中GMの排泄量は非選択的蛋白尿の程度と相関し、大量の尿中GM排泄が認められる症例は腎機能の低下速度が速かった。② EM及びその誘導体のいくつかは、濃度依存的にPHAあるいは特異抗原PPDの刺激によるT細胞増殖を抑制すると共に、IL-2レセプターよりも先に発現することが知られている初期活性化マーカーCD69の発現を増殖抑制活性の程度に応じて抑制した。またこれらの薬剤は、既にIL-2レセプターを発現した活性化T 細胞の IL-2依存的増殖応答も抑制した。しかし、活性化T細胞上に発現したIL-2Rの発現には影響を与えなかった。静止期T細胞の生存に対しては、いずれの薬剤もほとんど影響を示さなかった。③ HckはM-Mφでは発現が強くGM-Mφでは発現は低い。HIV-1感染によりM-MφのHck発現は増強したが、GM-Mφや肺胞Mφではさらに発現が低下した。そこで、Hckに対するアンチセンスを添加する事で、M-MφのHckの発現を抑制し、ウイルスの産生を制御できるか否か検討をした。Hckに対するアンチセンス (Hck-AS)を添加したM-M?では、有意にHckの発現が低下した(約10分の1)。HIV-1感染後のM-M?では、Hck-ASを添加した群でのみ長期にわたってHck 蛋白の発現が低下すると同時に、培養上清中のp24抗原量が完全に抑制された。
結論
1) ① MPOⅢのヒト好中球からの精製によって抗原の安定供給が可能となった。市販MPO-ANCA試薬とMPOⅢ-ANCA 試薬とは、臨床的意義に差がある可能性が示唆された。MPO を 9 フラグメントに分け 、それぞれのフラグメントを ELISA 法の抗原としてMPO-ANCA を定量する意義が再確認された。② SCG/Kjマウスの腎炎発症、進行に好中球の活性化が関与している可能性が示唆された。③ DSGは半月体が形成されているSCG/Kjマウスに対して、生存率、腎機能、病理学的のいずれにおいても有意な効果を示した。一方、アセアノスタチンを同マウス末梢好中球に反応させることにより、MPO放出は阻害された。 2)① PMAで活性化された好中球が死に至る過程の初期段階にHOClが関与しており、MPOを欠損しているためにHOClを産生できない好中球は、初期段階でのアポトーシスの速度が野生型好中球に比べて顕著に遅れることを明らかにした。② C.albicansの殺菌には、MPO産物次亜塩素酸が重要でその基質である過酸化水素はNADH oxidase により供給されていると考えられた。一方、Aspergillus fumigatusやLeg
ionella pneumophilaは次亜塩素酸以外の、スーパーオキサイドおよびそれから由来する活性酸素で殺菌されると考えられた。3) ① 正常腎組織ではGMは存在しないが、非選択的蛋白尿を有する進行性糸球体疾患では主に尿細管腔内に存在し、腎症の進行速度ならびに非選択的蛋白尿の尿中排泄の程度と有意な相関を認めた。② EMおよびその誘導体は、ヒトT細胞増殖抑制活性を有するが抗菌活性やモチリン活性とは関連しないことが知られた。③ アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いてHck蛋白の発現を特異的に抑制することにより、M-Mφでのウイルス産生を完全に抑制する事ができた。このことより、Hck蛋白はHIV-1の増殖に必須であり、その発現を制御する事によってウイルス産生を抑制できることが明らかになった。

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