新しい生体防御調節物質の機能と作用の解析

文献情報

文献番号
200000946A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい生体防御調節物質の機能と作用の解析
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 和男(国立感染症研究所 生物活性物質部)
研究分担者(所属機関)
  • 山越 智(国立感染症研究所 生物活性物質部)
  • 岩倉 洋一郎(東京大学医科学研究所 ヒト疾患モデル研究センター)
  • 内田 俊和(昭和大学医学部第2病理)
  • 大富 美智子(東邦大学 理学部)
  • 笹田 昌孝(京都大学 医療技術短期大学部)
  • 小島 和夫(医学生物学研究所(株))
  • 大矢 和彦(医学生物学研究所(株))
  • 森下 英昭(持田製薬株式会社 総合研究所)
  • 山川 徹(持田製薬株式会社 総合研究所)
  • 瀬川 美秀(ゼリア新薬工業(株)中央研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
34,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
LECT2 (leukocyte cell-derived chemotaxin 2) は、ヒト好中球走化性因子として発見、クローニングされた肝臓で特異的に産生され、血中に放出される分子量約16kDaのサイトカインである。これまでにLECT2 は、細胞レベルでは好中球走化性活性、骨芽細胞および軟骨細胞の増殖促進活性、生体レベルではその遺伝多型が慢性関節リュウマチの病態の進行に影響を与えることが判明している。LECT2は、魚からヒトまで種を越えて広く保存されていることが分かっている。本年度は昨年度に引き続き、肝炎を初めとする肝疾患におけるLECT2の機能解析、骨代謝におけるLECT2の機能解析、好中球と血管内皮細胞の相互作用に対するLECT2作用機作の解析を行い、さらにヒト肝疾患、肝移植血漿中のLECT2濃度を測定し病態との因果関係を調べることを目的とした。将来的にはLECT2が関与すると考えられる炎症性疾患に対する新しい治療方法等の開発に結びつくことが期待される。
研究方法
野生およびLECT2ノックアウトマウス(雌性,7週齢)にCon Aを尾静脈内投与して肝障害を誘発した。肝障害惹起後、血清GPT活性の測定をし、摘出した肝臓、脾臓よりtotal RNAを抽出し、LECT2、各種サイトカインの mRNA発現の検出をRT-PCRで、血清中のレベルをELISA 法で検出した。サイクロスポリンA、FK506、デキサメタゾン、ロリプラム、インドメタシンは、それぞれCon A投与1時間前に、塩化ガドリニウムは、24および48時間前に2回投与した。また、リコンビナントTNF-α、IFN-γあるいはIL-2を静脈内投与した。
cDNAライブラリーは、ヒトマクロファージ様細胞を材料として、平均鎖長1.3 kbp以上のcDNAが正方向に挿入し構築した。rhLECT2蛋白質をヨード標識し、COS-1細胞に対しcDNAライブラリーより調製したプラスミドDNAのトランスフェクションを行った。培養3日後に[125I]rhLECT2とのバインディングアッセイを行い、細胞を固定した後、フィルム乳剤の塗布・現像し解析を行った。
新生仔ウサギの長骨をハサミにて細切し、骨片上の破骨細胞を遊離させた後に骨片を取り除くことにより、未分画骨細胞を調製した。ウサギ破骨細胞の調製は、未分画骨細胞をコラーゲンゲルでコートしたシャーレに播種した後、プロナーゼおよびコラゲナーゼによる温和な処理し、ゲル上に残された破骨細胞をゲルごと回収することで得た。厚さ30μmの象牙片上に破骨細胞を播種し、37℃にて一晩培養した。骨吸収窩(ピット)をヘマトキシリンで染色し、ピットの数を計測した。
TTV遺伝子はgenotype 1aに属するpTV-TRM-1-1を自治医大の岡本より入手した。CMV enhancer-β-actin promoter下流にORF1,2-4, 2-5, 3, 6をそれぞれ結合した後、トランスジェニックマウスを作製した。
ヒト好中球は正常人末梢血より分離した。血管内皮細胞はヒト臍帯より型通りに分離し(HUVEC)、これをトランスウェル表面に一層となるように準備した。好中球のHUVECを介した遊走能(TEM)は、HUVECをコートしたトランスウェルの上層に好中球を加えて、下層へと移行する好中球数をカウントすることにより評価した。
ヒトLECT2の検出は、すでに確立しているELISAによる測定系を使用して実施した。そして、肝疾患患者検体、肝移植検体を分担研究者関連施設より入手した血漿検体を使用した。
結果と考察
Con A誘発肝障害モデル系においてNudeマウスでは、Con A投与後の肝中LECT2 mRNAの発現低下を示さなかった。さらに、この発現低下は、T細胞の活性化を抑制するCsAおよびFK506ならびにクッパー細胞を枯渇するGdCl3の前処置により阻止されることが明らかとなった。一方、DEXおよびロリプラムはCon A投与による血清GPT活性の上昇を抑制したが、Con A投与による肝中LECT2 mRNAの発現低下に対して、何ら影響を及ぼさなかった。リコンビナントのTNF-α、IFN-γおよびIL-2の投与は、肝中LECT2 mRNAの発現に影響を及ぼさなかった。これらのことから、肝中LECT2 mRNA発現の調節機構には、活性化されたT細胞およびクッパー細胞が関与すると考えられるもののTNF-α産生の関与は少ないものと推察される。シクロオキシゲナーゼ阻害剤のIMはCon A投与による血清GPT活性の上昇および肝中LECT2 mRNAの発現低下に何ら影響を及ぼさなかったことは、LECT2の発現機構だけではなく、肝障害発症過程にもシクロオキシゲナーゼの関与は少ないと考えられる。LECT2ノックアウトマウスを用いLECT2が肝炎症反応を抑えている可能性が明らかとなった。抗Fas抗体による肝障害においてノックアウトの影響が見られなかったことは、ConA投与から肝細胞のアポトーシス誘導前までの経路にこれまで知られていないLECT2が関わる制御メカニズムが存在することを示唆する。
TTVORF1遺伝子を導入したトランスジェニックマウスは腹水の貯留を起こし、5週齢までに全て死亡することがわかった。他のORFを導入したマウスにはこのような異常は認められなかった。ORF1遺伝子の発現は腎臓で一番強く、肝臓、脳でも発現が見られ、血中アルブミン濃度が低く、クレアチニン、尿素窒素、総コレステロールが増加していた。これらの結果、腎機能が傷害され、ネフローゼ様の症状を示していることがわかった。肝臓の異常は認められなかった。
LECT2R cDNAはクローニングのためにトランスフェクションおよびスクリーニングでのポジティブコントロールとしてIL-8R発現プラスミドを用いた感度の高いスクリーニング系を構築し、cDNAライブラリーのスクリーニングを行ったが陽性クローンは得られなかった。
ウサギより調製した未分画骨細胞および精製破骨細胞を用いrhLECT2が破骨細胞によるピット形成を抑制することにより、骨吸収抑制活性を有していることが分かった。
血管内皮細胞の代表的遊走因子LTB4で処理したところ、TEMは著明に亢進した。この系において血管内皮細胞によるNO産生を抑制するとTEMは亢進し、NO donorの添加はこれを抑制したことから、TEMにはNOが深く関与すると考えられた。
ヒトLECT2 ELISA測定系を用いて、肝疾患患者検体と肝移植検体を測定した。肝疾患患者検体群ではかなり高値の値を示すグループが存在した。また、肝移植検体では、ほとんどの検体が正常人レベルであったが、数例が陽性に出た。
マウスLECT2の抗体を作製した。ポリクローナル抗体―ポリクローナル抗体の組み合わせで構築し、マウスLECT2 ELISA測定系のプロトタイプの系を作った。この系で野生型のマウス血清では定量されノックアウトマウス血清では血中にLECT2がほとんど確認できなかった。
結論
Con A肝障害における肝中LECT2の発現低下調節機構には、T細胞およびクッパー細胞の活性化が関与し、これらの細胞機能を制御する低分子化合物は、LECT2の発現を調節できる可能性が推察された。また、LECT2ノックアウトマウスを用いることによりLECT2が肝炎症反応の過度な進展を抑制する可能性が明らかとなった。ConA投与から肝細胞のアポトーシス誘導前までの経路にこれまで知られていないLECT2が関わる制御メカニズムが存在することが示唆された。
TTVは腎上皮の分化を阻害し、腎不全を引き起こすことが示された。本研究によりはじめてTTVに病原性があることが示された。当初、このウイルスは肝炎を引き起こすことが疑われたが、肝臓の異常は認められなかった。
LECT2の新たな標的細胞を探索する過程において、LECT2が破骨細胞に直接作用し、骨吸収を抑制することが確認された。
rhLECT2と反応を示したヒトマクロファージ様細胞を材料としてcDNA発現ライブラリーを作製し、LECT2R cDNAのスクリーニングを行ったが、ポジティブクローンは得られなかった。
血管内皮細胞の代表的遊走因子の1つ、LTB4で処理したところ、TEMは著明に亢進した。この系において血管内皮細胞によるNO産生を抑制するとTEMは亢進し、NO donorの添加はこれを抑制した。
臨床検体を用いてヒト血漿中のLECT2の測定意義を検討した。
マウスLECT2測定系のプロトタイプの系を作った。

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