閉経後骨粗鬆症の発症機構の解明とその予防と治療薬に関する研究

文献情報

文献番号
200000940A
報告書区分
総括
研究課題名
閉経後骨粗鬆症の発症機構の解明とその予防と治療薬に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
宮浦 千里(東京薬科大学薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 石見佳子(国立健康・栄養研究所)
  • 久保田直樹(中外製薬(株)創薬第二研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
6,291,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エストロゲンが欠乏すると骨吸収が亢進し骨量減少に至る。閉経により卵巣機能が低下するとエストロゲン分泌が低下してエストロゲン欠乏となるが、脂肪組織など卵巣以外の組織で産生されるエストロゲンは無視できず、本症の発症のリスクを左右すると考えられる。これらの問題を考えるにあたり、エストロゲン合成酵素(アロマターゼ)に着目することが必須である。アロマターゼは卵巣のみならず、精巣などの男性生殖器、脂肪組織、肝臓、副腎、皮膚などの末梢組織にも存在する。最近、アロマターゼ遺伝子を欠失させたアロマターゼノックアウト(-/-)マウスが作製され、生殖異常が報告されている。そこで、本研究では、アロマターゼノックアウト(-/-)マウスを用い、エストロゲン欠乏が骨代謝に及ぼす影響を雌雄マウスについて調べ、女性のみならず男性の骨粗鬆症におけるエストロゲンの重要性を解析した。本研究班では骨粗鬆症に対する植物性エストロゲンの有効性を卵巣摘出(OVX)マウスを用いて立証してきた。本研究では、卵巣摘出マウスにゲニステインを経口投与し、ゲニステインの閉経後骨粗鬆症に対する予防と治療効果を検討した。食餌性のゲニステインの効果を明らかにすることは、本症の予防と栄養学的側面を明らかにする目的で必須である。また、閉経後骨粗鬆症のみならず老人性骨粗鬆症に対するゲニステインの有効性を明らかにする目的で、老人性骨粗鬆症のモデルである老化促進マウス(SAMP6)にゲニステインを投与し、その骨量に対する効果を検討した。
研究方法
4週齢、9週齢および32週齢のアロマターゼ(-/-)マウス、ヘテロ型(+/-)マウスおよび野生型(WT)マウスについて、雌性マウスの子宮重量および雄性マウスの精嚢腺重量を測定した。また、血清を採取し、17b-エストラジオール値およびテストステロン値をRIA法により測定した。また、尿を採取し、骨吸収マーカーであるピリジノリンをEIA法により測定した。離乳時より、雌性および雄性のアロマターゼ(-/-)マウスに17b-エストラジオール(15mg/週)を投与した。雌雄のマウスより大腿骨を採取し、軟X線(Soft-X ray)にて解析すると共にDEXA法を用いて骨密度を測定した。大腿骨薄切切片を作製し、酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP)染色を施し、形態計測により海綿骨量および破骨細胞数を求めた。さらに、大腿骨3次元マイクロCT解析を行なった。ゲニステインの経口摂取の為に、AIN93G飼料を作製し、0.04%あるいは0.08%となるようゲニステインを混合した。8週齢ddy雌性マウスに卵巣摘出(OVX)あるいは偽手術(sham)を施し、OVXマウスの一部に0.04%あるいは0.08%ゲニステイン含有AIN93G飼料を4週間摂取させた。4週間飼育後、大腿骨を採取し、DEXA法により骨密度を測定すると共に軟X線解析を行った。血中ゲニステイン濃度はECDを検出器とした逆相HPLCにより測定した。13週齢の雄性老化促進マウス(SAMP6)をゲニステイン摂取群(G)、運動群(Ex)、ゲニステイン及び運動負荷群(ExG)に分け、7週間飼育した。ゲニステインを8週間AIN93G飼料に混合して摂取させた。運動は週6日、1日あたり30分のトレッドミルによる走運動を負荷した。実験終了後、体重、各臓器重量及び精巣嚢重量を測定した。7週間飼育後、大腿骨を採取してX線解析を行った。大腿骨骨密度をDXA法により測定した。また、大腿骨中のカルシウム、マグネシウム、リン、亜鉛含量、血清脂質(コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド)を測定した。
結果と考察
雌性のアロマターゼ(-/-)マウスではエストロゲンの合成が起こらず、エストロゲン欠乏状態となり、9週齢の雌
性(-/-)マウスにおける子宮重量はWTに比して顕著に低下した。9週齢のアロマターゼ(-/-)マウスでは雌雄ともに血中17b-エストラジオール値が検出限界以下となっていた。アロマターゼ(-/-)マウスにおける血中テストステロン値は雄では2倍、雌では10倍の上昇を示した。9週齢の雌性および雄性のアロマターゼ(-/-)マウスについて、Soft-X rayにて大腿骨遠位部海綿骨の顕著な減少を認め、雌雄共に有意な大腿骨の骨密度減少を示した。大腿骨遠位部のマイクロCT解析において、アロマターゼ(-/-)マウスでは雌雄共に海綿骨量の著しい減少を認めた。薄切切片のTRAP染色より、アロマターゼ(-/-)マウスでは雌雄共に、破骨細胞数が増加して顕著な骨吸収亢進を認めた。32週齢の雌雄のアロマターゼ(-/-)マウスの大腿骨をSoft-X rayにて観察すると、WTマウスと比べて骨密度はWTマウスに比して著しく低値を示した。その程度は雄性マウスと比較して雌性マウスでは特に著しく、性差が観察された。アロマターゼ(-/-)マウスに17b-エストラジオールを投与したところ、骨吸収亢進と骨量減少は雌性のみならず雄性マウスにおいてもWTマウスのレベルまで正常化した。OVXマウスにゲニステインを経口投与した際、飼料の摂取量はゲニステイン投与により影響を受けなかった。4週間の飼育後、OVXマウスはshamマウスに比較して、子宮重量の減少と骨密度低下を示した。OVXマウスに0.04%ゲニステインを経口投与すると大腿骨の骨密度が上昇傾向を示し、0.08%ゲニステイン群ではほぼshamレベルにまで回復した。大腿骨中のCa, Mg, P濃度はOVX群に比してゲニステイン経口投与群ではそれぞれ有意に高値を示した。OVXマウスの子宮重量は0.08%ゲニステインを経口投与しても変動せず、萎縮したままであった。マウスの血中ゲニステインはsham、OVXにかかわらず検出されない。ゲニステインを経口投与すると、その摂取量に比例して血中ゲニステイン濃度が上昇した。0.04%ゲニステイン群では、約500 pmol/ml serum、0.08%ゲニステイン群では、約1000 pmol/ml serumに達していた。老化促進マウス(SAMP6)において、体重は対照群に比べ運動群、運動+ゲニステイン投与群で低下したが、ゲニステイン単独投与による影響は認められなかった。SAMP6マウス大腿骨骨量は対照群であるSAMR1マウスに比べて有意に低値を示したが、ゲニステイン(0.8 mg/day )または運動を7週間負荷することにより、その骨量は増加した。SAMP6マウス大腿骨のカルシウムはゲニステイン単独及び運動単独群でやや上昇したが、両者の併用により SAMR1マウスと同等のレベルまで増加した。本研究において、アロマターゼの欠失によりエストロゲンが欠乏すると、雌性マウスと雄性マウス共に骨吸収亢進による骨量減少を認め、骨粗鬆症を発症することが明らかとなった。雄性のアロマターゼノックアウトマウスではテストステロンがエストロゲンへ変換されない為に、血清テストステロンが正常より高値を示すにもかかわらず、骨吸収が亢進して骨量減少を示したと考えられる。従って、雄性マウスの骨代謝においてエストロゲンは必須であり、その作用はアンドロゲンでは補えないと考察される。アロマターゼ遺伝子に変異がある男性症例が数例報告されており、骨量と骨年齢の低下が報告されている。本研究の結果はこの男性症例の所見に一致しており、ヒトでもマウスでも、男性ホルモンでは補えない女性ホルモンの骨代謝における重要性が示唆される。本年度、ゲニステインの本症への予防効果を期待し、栄養学的側面を解明することを目的にゲニステインを飼料中に混合させて経口投与を試みた。その結果、0.08%ゲニステイン含有飼料で飼育するとOVXマウスの骨量減少を正常化しうること、その際の血中濃度は約1000 pmol/ml serumに達することが明らかとなった。我々はゲニステイン0.7 mg/dayの皮下連続投与はOVXマウスの骨量減少を正常化することをすでに報告している。従って、皮下投与、経口投与を問わず、血中濃度が上記のレベルに達すれば骨への作用が発揮されること、経口投与は皮下投与に比較して約5倍の投与量を必要とすることが明らかとなった。老
化促進マウス(SAMP6)を用いて、ゲニステインの投与効果及び運動負荷との併用効果を検討した結果、ゲニステインの摂取と運動との併用によりSAMP6マウスの大腿骨の骨量は著しく増加した。以上より、植物性エストロゲンは、性腺機能の低下及び加齢に起因する骨粗鬆症における骨量の低下に対し、生殖器官に作用することなくその骨量減少を抑制すると考えられる。
結論
エストロゲンは雌性マウスのみならず雄性マウスの骨代謝においても必須である。また、植物性エストロゲンであるゲニステインはエストロゲン欠乏性骨粗鬆症のみならず加齢による老人性骨粗鬆症についても有効性を示し、皮下投与と経口投与は血中レベルの維持量によりその効果が決定すると結論された。

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