組織内脂肪蓄積の予防及びGLUT4の発現増加を目指したインスリン抵抗性治療法の研究

文献情報

文献番号
200000938A
報告書区分
総括
研究課題名
組織内脂肪蓄積の予防及びGLUT4の発現増加を目指したインスリン抵抗性治療法の研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
江崎 治(国立健康・栄養研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 梅津浩平(三菱東京製薬株式会社)
  • 下川晃彦(山之内製薬株式会社)
  • 服部浩明(株式会社ビー・エム・エル)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
細胞内の脂質代謝異常は、糖尿病や高脂血症などの生活習慣病の発症に関与することが想定されている。エネルギー消費/熱産生を高めると想定されているUCP2の機能を解明するため脂肪組織特異的にUCP2を過剰発現するトランスジェニックマウスや、後天的にUCP2を脂肪組織に過剰発現するマウスモデルを作成し、肥満および糖尿病の発症を防止できるか否か解析する。又、魚油摂取によって生じる肝臓でのUCP2の過剰発現がどの細胞に生じ、どのような原因によるものか、又、インスリン抵抗性にどのような影響を与えるか明らかにする。
高脂肪食による糖尿病の発症は糖輸送体(GLUT4)の筋肉組織での2倍程度の過剰発現により完全に防止できる。GLUT4蛋白の発現機序を明らかにし、GLUT4量を増加させる方法を見出すことを試みる。運動はGLUT4の発現量を筋肉組織で増加させ糖尿病を改善する。又、甲状腺ホルモンは、GLUT4mRNAを増加することが知られている。これらの反応に関与するシスエレメントの同定をトランスジェニックマウスを用いて試みる。
研究方法
UCP2のcDNAを脂肪組織特異的なaP2エンハンサーに組み入れたコンストラクトを作成し、トランスジェニックマウスを作成し、フェノタイプを高脂肪食摂取条件にて調べた。又、UCP2を高度脂肪細胞に発現するCLA摂取マウスモデルを作成し、フェノタイプの変化が生じるかどうか調べた。又、魚油をマウス、ラットに投与し、肝でのUCP2の過剰発現が肝実質細胞によるものか、非実質細胞によるものか明らかにした。 
GLUT4遺伝子の運動及び甲状腺ホルモンに反応するシスエレメントと高脂肪食に反応するシスエレメントを明らかにするため、転写開始点より-7396、-3238、-2001、-1001、-701、-551、-442及び-423の8種類のGLUT4ミニジーントランスジェニックマウスを作成した。今年度は新たに-582、-506のトランスジェニックマウスを作成し、より細かく重要なシスエレメントの分析を行った。マウスの筋肉や脂肪組織より抽出した核蛋白を用いて、まずフットプリント法にて蛋白の結合する領域を狭め、次にゲルシフト法にてその領域に結合している蛋白質が、運動、高脂肪食により変動するかどうか調べた。
結果と考察
高脂肪食摂取下ではノントランスジェニックマウスで肥満が認められたのに対し、1.5~2.0倍程度のUCP2過剰発現トランスジェニックマウスでは体重増加の抑制が認められた。又、CLAの摂取によりUCP2を脂肪組織に過剰発現させると、その組織の脂肪蓄積量を大幅に減少させる事が明らかとなった。これは、UCP2がin vivoにおいて実際に脱共役能を持ち、熱産生亢進に寄与している可能性を強く示唆している。しかし、著明なUCP2の増加は脂肪組織重量の極端な減少を生じ、lipodystrophy(脂肪萎縮性糖尿病)を惹起することが明らかとなった。これは、高度のUCP2の発現増加がATP量を低下させ脂肪細胞のアポトーシスを惹起し、低レプチン血症が生じた結果と推察される。レプチンの皮下投与によってインスリン抵抗性のみならず、脂肪肝を部分的に改善した事から、食事性に誘発されるlipodystrophyにおいてもレプチン療法が有効である事も明らかとなった。
魚油摂取による肝臓でのUCP2mRNA発現の増加は、肝実質細胞での発現増加によることがマウス、ラットにおいて認められた。ラット肝での魚油摂取によるUCP2発現増加がみられないのは非実質細胞での減少によることが分かった。また、核内受容体Peroxisome Proliferator-Activated Receptorα(PPARα)のリガンドであるフィブレート摂取によりUCP2mRNAの顕著な発現増加がみられたこと、また肝細胞へのWY14643添加によるUCP2mRNA発現増加が確認できたことから、魚油摂取によるUCP2発現増加はPPARαを介するのであろう。
GLUT4の研究から、-423ミニジーンGLUT4の中に、筋肉及び白色脂肪組織特異的なシスエレメントが存在することがわかった。褐色脂肪組織特異的なエンハンサーが-551と-506の間に存在することがわかり、筋肉特異的なエレメントと分離された。褐色脂肪組織の特異的発現調節エレメントに関して、UCP1の研究からサイクリックAMP-反応エレメント(CRE)とBAT-Specific-エレメント(BRE)が報告されている。BREは-CCTTTCC-モチーフを持ち、よく似たエレメントがGLUT4遺伝子上流部の-CCTTTAA-(-526~-520)と-CCTTTGC-(-509~-503)に存在する。-506トランスジェニックマウスで褐色脂肪組織にミニジーンGLUT4の発現が認められなかったのは、-CCTTTGC-のエレメントが無かったためと考えられる。運動に反応するエレメントが-551と-442の間に存在することがわかり、転写因子を同定するためのシスエレメントをin vivoにおいて同定できることが明らかになった。又、高脂肪食によるGLUT4のdown-regulationは-701から-551の間のエレメントによることが推定された。ゲルシフト法により、NF1結合部位-621~-582(WF4)及び-585~-546(WF5)部位にタンパクが結合し、これらのオリゴヌクレオチドに対する核蛋白の結合量は高脂肪食により低下することが示された。
結論
UCP2を脂肪組織に軽度(トランスジェニックマウス)、及び著明(CLA投与)に発現するマウスを作成し、フェノタイプを分析した。この結果、脂肪組織での軽度のUCP2の過剰発現が脂肪を予防する上で非常に有効であることが示された。又、PPARαの活性化剤は肝実質細胞に於いてUCP2を過剰発現させROSの発生を抑制していることが推定された。又、GLUT4の発現調節領域が狭められ、ゲルシフト、フットプリント法により運動、T3、及び高脂肪食に反応するシスエレメントの分析が進んだ。

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